死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

怯えた国王

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「はー……」


 一旦整理しよう……ここは、ファルマー王国王城。俺はこの国へ、リリーの危機を聞きつけて戻ってきた。

 その際、俺以外にディア、メラさんも共に行動し、リリーの無事を確認した。

 その後、殺し屋が現れたり謎の『スキル』によってディアたちの偽物が現れたり……明らかな異変を察知し、城に来た。

 たどり着いた先では、リリー以外の人間が城の中から消えていた。ディアも、メラさんも、白に在中しているはずの兵士たちも。

 そして……俺の目の前で、リリーを消した男が、今俺の目の前で尻もちをついて震えている……


「ザーラ・マ・ファルマー」

「ひっ」


 このファルマー王国の国王であり、リリーの父親でもある、この男だ。いい年したおっさんが、子鹿のようにガクガクと震えている。

 こんな奴が、本当にディアたちを……


「おい、さっさとみんなを元に戻せ」

「っ……そ、それは……」

「できないってなら、やっぱり腕が足を……」

「わ、わかった! わかったから……」


 俺が再度脅すと、ザーラは怯えたように、小さく悲鳴を上げて……ゆっくりと、立ち上がる。

 その間も、妙な動きをすれば、すぐに反応できるように……集中を、切らさない。


「……」


 怯えたように、しかしどこか不服そうな表情を崩さないまま、ザーラは手を掲げる。その動きに注意する。

 直後、手の先が光ったかと思えば……その場に、次々と、人が現れ始めた。


「なっ……」

「なにを驚いている。お前が望んだことだろう、みんなを元に戻せと」

「あ、あぁ……」


 ってことは、これ全部、ザーラに消された人たち……

 気を失っているのか、その場に横たわったまま、誰も動かないが……息は、ある。


「これが、あんたの『スキル』か」

「あぁ……我が『スキル』、【収納】。対象を異空間へと文字通り収納し、それを取り出すことも可能だ。まさか、人にも使えるとは、思わなかったがな」


 ……【収納】か。初めて聞く『スキル』名だ。

 聞くだけなら、なんとも便利な『スキル』だろう。どれだけ荷物があっても、移動に困らないということか。そういう『スキル』こそ、冒険に重宝されるだろう。


「お、リリー!」


 先ほどリリー消えた場所、そこに気絶した状態ではあるが、リリーが姿を現した。

 よかった、外傷もない……本当に、異空間とやらに閉じ込められていただけのようだ。


「なら、ディアやメラさんも……」


 この場にはいないが……おそらくは、部屋に戻ってきているはずだ。

 国王なら、たとえ客人の部屋でも簡単に入れるし……あの『スキル』は、初見殺しもいいところだ。

 残る問題は、どうしてこの男が、そんな凶行に及んだか。俺だけを狙うなら、まだわかるが……いや、俺がこの国に戻ってきたことは、ディア、リリー、メラさん以外には知らないはずだし……

 ……いや、一人いたな。けど、あいつは……


「って、ゲルド!?」


 この国に、俺がいる事実を知っているもう一人……その人物の姿を思い浮かべ、すぐに頭の中から振り払い……直後、目を疑った。

 あいつとは、この国に戻ってきた日に再会した……けれど、俺のことは見なかったふりをして、去っていった。

 そのゲルドが、なんでここに……ザーラ国王に消されていたんだ?


「な、なんでお前まで……」


 思わず、ゲルドに駆け寄り……その体を、抱き上げる。

 ゲルドは、前回の世界で俺を殺し……そして今回の世界でも、俺を殺そうとした。それは、ザーラ国王に命令だったはずだ。つまり、二人は協力関係にあるはず……だったんじゃ、ないのか?

 なんで、こんなことに……


「ぅ……」

「あ」


 直後、ゲルドが小さく声を漏らして……目を、開いた。


「おい、ゲルド、大丈夫か?」

「……ロア、か?」

「あぁ、お前なんだってこんなとこに……うぉあ!?」


 目覚めたゲルドに、ここにいる経緯を聞こうとする。しかし、それは放たれた刃に、邪魔される。

 寸前で避けたが、目の前を、刃が通った。ゲルドが振るったのだろう。


「ちっ、外し……いて! なにしやがる!」

「それはこっちのセリフだ!」


 刃をかわし、ゲルドから距離を取るためにその場から飛び退く……すると当然、支えていたゲルドの頭も落ちてしまうわけで。

 床に地面をぶつけたゲルドから、理不尽な怒りをぶつけられる。


「こっちは命の恩人だぞ、もうちょい接し方ってもんがあるだろ!」

「あぁ? 命の……なに言って……あぁいや、ぁ……そうか、思い出した」


 頭に手を当て、なにかを思い出したらしきゲルドは……視線をあちこちにさ迷わせ、ある一点で止めた。

 その先にいるのは、当然、ゲルドを【収納】した人物……


「よぉ、おっさん」

「……ゲルド・アールボート」

「気安く俺の名前を呼ぶなや」


 ここから見てもわかる、額に青筋が浮かび、ぶちぎれている……ゲルドが、ザラドーラ国王に迫る。

 対してザラドーラ国王は、逃げる様子がない。さっきまでの怯えた様子は、どうした……諦めたのか?


「てめぇ、よくも俺を……ずいぶんふざけたマネぇしてくれたじゃなぇか。覚悟できてんだろうな」

「ま、待て待て! そもそも、なにがあったんだ!」


 このままじゃゲルドが、ザーラ国王を殺してしまいそうだ。いくらリリーの父親とはいえ、俺ももはやこの男を許すつもりはないが……

 この場で……いや、この城でなにがあったのか、それを知らなければ。なにをどう処理していいのか、わからない。


「あぁ? てめぇにゃ関係ねぇだろ。俺をコケにしたツケを、このおっさんには払ってもらわねぇとな」

「けど……」

「なんか文句でもあんのか? まさか庇うつもりじゃねぇよな」

「そんなんじゃない。けど、俺にはなにがなにやらさっぱりなんだ。せめて説明してくれ」

「……」


 やばい、ゲルドが俺にも牙を剥く可能性が増えた……またゲルドと、それもこんな場所でぶつかるのは、ごめんなんだけど。

 そんな中で……さっきからだんまりの、ザーラ国王。彼は、どこか虚ろな瞳で……虚空を、見つめていた。


「あぁ……もうおしまいだ……私は、"殺される"のか……」
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