死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

リリーの決意

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「り、リリー、なにをバカなことを……!」


 リリーの……いや、ファルマー王国王女による、現国王拘束。それを受け、目を見開き驚きを見せるのは、当の現国王、ザーラ・マ・ファルマーだ。

 まるで信じられないものを見るような……冗談だとでも、言ってほしそうな顔だ。

 ……だが、リリーの瞳はいたって真剣そのもの。


「お父様……」

「ち、違うぞリリー! 私はなにも我が身可愛さのためだけに、こやつを殺そうとしたのではない! この男は私だけでなく、お前も、手にかけるのだぞ!」


 暴れるザーラを押さえつける……が、そこに聞き逃がせない内容の言葉があった。

 俺が……ザーラだけでない、リリーも殺す……だと?

 そういう未来を、見たというのか?


「そう、だから私は、娘の命を思い、この国に勇者が戻ってきたと報告を受けてから殺し屋を差し向け、道中殺そうとしたのだ!」


 やっぱり……あの殺し屋は、ザーラの差し金か。

 もしも、俺が本当にリリーを殺す未来を見たのなら、こいつの行動にはうなずける部分はある……だが……


「本当に、ロアお兄ちゃん……勇者ロアが、私を殺そうと?」

「そうだ! だから私は、お前を守るために……」

「だったらどうして、その殺し屋は私を殺そうとしたんですか?」

「……っ」


 ザーラの言葉が、真実であるという確証は、どこにもない。【未来視】という『スキル』がある、それだけで、ザーラの言葉には一定の信頼性が生まれるからだ。

 だが、それが真実か、本人以外確認できない。

 もし真実だとして、リリーが言ったように……なぜ、リリーを守るために雇った殺し屋が、リリーを殺そうとしたのか。


「そ、それは……なにかの、間違いだ! 私はお前を愛している、私が殺そうとするはずがないだろう?」

「……」


 もはや必死とも言えるその言葉に、しかしリリーの表情は動かない。

 実際に殺されかけたのだ……表面上の言葉だけで、納得できるはずもない。


「う、いてて……」

「いったい、なにが……」


 その時だ。周囲から、うめき声が聞こえてくる。

 気を失っていた兵士たちが、目を覚まし始めたのだ。彼らは、なにが起きたのかわけも分からなそうに、周囲を見回して……


「こ、国王様!? なぜ……」

「おい、勇者だ……貴様!」


 現状を確認するや、彼らは一様に剣を抜き、俺に敵意を向ける。

 まあ、自分たちが仕える国王が、よりによって指名手配中の勇者に押さえつけられているのだ。そりゃ、こんな反応にもなるか。


「これは、どういう……お、王女様! げ、ゲルド殿まで!」

「なぜお二人とも、黙って見ておられるのです! 奴は……」

「落ち着いてください」


 騒ぐ兵士たち……しかしそれは、リリーのたった一声で、静かになる。

 声をさらなる大声で押さえつけたわけでない。静かな……鈴の音のように透き通る、声。それだけで、喧騒は静まり返る。


「彼は……勇者ロアは、無実です。いわれのない罪を被せられ、手配されていたのです」

「な、なにを……言って……」

「そして、彼に罪を被せ、殺そうとした者が……ファルマー王国現国王の、ザーラ・マ・ファルマーです」

「っ!?」


 驚きに満ちた兵士たち、冷静なリリーの声が、その場に届く。

 衝撃の事実に、彼らの敵意が和らいでいくのを感じる。それはそうだろう、言ってしまえば、これまで信じていたものが足元から崩れていったのだから。

 信じるべき国王が勇者を殺そうとし、その勇者が人殺しとして手配された……簡単に、受け入れられるものでもない。


「お、王女様、それはどういう……」

「詳しいことは、追って説明します。まずは、国王……いえ、ザーラを拘束してください」

「し、しかし……」

「早く」

「は、は!」


 いつものリリーからは考えられないほどに、冷製で……それでいて、威厳のある言葉。

 俺がこの国を離れて……リリーは、王女として学ぶべきことを多く、学んできたのだろう。

 俺が知っていたリリーは、面影は確かにあったが……今や、立派な王女になっていた。


「し、失礼します」


 リリーの命令を受け、兵士たちは国王へと駆け寄り、拘束する。状況がよくわかっていなくても、リリーの言葉、なにより抵抗する様子のないザーラの姿に、なんとか体が動いている状態だ。

 それでも、その動きには迷いが見える。


「リリー様、こちらですか!?」


 と、その時扉がバンッ、と音を立てて開かれる。

 そこにいたのは、額に汗をにじませ、焦った様子の……


「メラ!」

「リリー様!」


 その姿を見つけ、リリーは彼女に駆け寄る。メラさんもまた、リリーへと駆け寄っていき……

 二人は、お互いに抱き合った。

 よかった、無事だったのか。


「こ、これは、いったい……」


 その後ろから、こちらに歩いてくるのは、戸惑いを露わにした、ディアの姿。

 部屋に、しかも王の間に入ったら、国王が兵士に拘束されているのだ。それに……


「よ、ディア」

「よ、って……いいの? あなた、こんな堂々と……」

「大丈夫だよ、少なくとも今は」


 国中に指名手配されている俺は、人目を盗んで行動していた。それが、堂々と王の間にいるのだ。

 心配する気持ちはわかる。だが、少なくとも今は、大丈夫だろう。


「リリーの、おかげでな」

「?」


 ホント、成長したもんだな。
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