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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る
見納めの景色
しおりを挟む俺と一緒に、ラーダ村に住む……そう決意したらしいディアは、リリーに話をしに行ってしまっていた。
残されたのは、俺とゲルドだ。
「まさか、お前と一緒に行くとはな。ま、そこまで驚きゃしねえが」
「……俺からしたら、かなり驚いているよ」
そりゃ、リリーが俺と一緒に暮らしたいと思っているのは、嬉しいが……
ディアにはディアの、暮らしがある。
まして、彼女はこの国の大神官だ。そんな話、簡単に決められるものだろうか。
「なあロアよぉ」
「……なんだ」
「俺ぁ、お前を殺そうとした。あのおっさんの命令ってのはあったが、それだけじゃねえ」
実際に、一度殺されたんだが……まあ、それはもういいや。いやよくはないけど。
「俺はお前を、殺したいとどこかで考えてた。きっと、あのおっさんのことがなくても、いずれ手ぇ出してただろうな」
「……それで?」
「それでって……なんとも思わねえのかよ?」
なんとも思わない、ことはないが……
ゲルドの中にはない、再会したラーダ村での記憶のやり取り。その時に、似たようなことを言っていた気がする。
「はぁ、わっかんねえな。てめえを殺そうとした奴を、なんでそんなのも無警戒に隣におけるのか」
「無警戒ってわけでもないさ。これでも、一応警戒はしてるんだ」
ゲルドに対して、思うことはある。が、それでどうしたって話だしな……ぶっちゃけ、ゲルドなら意味もなしに俺を殺したいとか考えてても、おかしくないし。
当初は、当然恨みもあった。逆に殺してやろうかとも思った。
その気持ちがなくなったのは、きっと……
「今の生活が、気に入ってるからかな」
「あん?」
「なんでもない」
あの時、ゲルドに殺されて……ディアのおかげで、死に戻って。だから二度目の人生では、ゲルドに殺される前提で動いた。
ゲルドの殺気をかわし、国を出て……ラーダ村へと、たどり着いた。
あの時、ゲルドに一度殺されていなければ……きっとずっとこの国にいたし、ラーダ村でエフィたちと出会うことも、なかった。というか、シャリーディアの正体がディアだってことも、知らないままだったかも。
……だからといって、絶対に感謝の類いは感じないが。
「またお前が、俺を殺そうとしてきたら、その時は容赦しないさ」
「……今、いきなり背中から刺すかもしれねえぞ?」
「そこまでお前も、バカじゃないだろ」
この場でも、ゲルドが俺の命を狙ってこない確証はないが……ここは、城内。兵士も囲っているし、ディアたちもいる。
こんな場所で行動を起こすほど、ゲルドはバカじゃない。
「そうわかるくらいには、お前のことは信頼してるよ」
「……けっ」
「えぇー!?」
その時、リリーの大きな声が響いた。
ディアから、話を受けたんだな、あれは。リリーがディアを止めるか、それとも逆かは、流れに任せるとしよう。
「では、我々は彼を地下牢に……」
「私も付き添います」
「お願いね」
前国王を連行する兵士たちに、メラさんがついていく。あとで聞いた話だと、彼女は16年前に王都を賑わせた『怪盗メーラー』という女怪盗だったらしい。だからあの身のこなしだったのか。
そんな彼女が、今やリリーの給仕になっている。どうやら、怪盗時代にリリーのお母さんと知り合い、その流れで今の立場になったとか。
人には、いろいろあるもんだなぁ。
「では、今回の件を、国民のみなさんに伝えなくてはいけませんね」
「はは、大変だな王女様」
「他人事じゃないですよ、当事者として来てもらいますから。ロアお兄ちゃん♪」
……その後、リリーは国民に、国王の罪と俺が無実であることを発表した。もちろん、突然のことだったし事前準備もなにもなかったため、彼女の声が国中に届くのは、少し時間が掛かったが。
国民たちは当然のように混乱し、まさに国中が揺れた。これまで信じていた国王が、自分の命欲しさに勇者をはめ、そのために罪なき兵士を殺し、挙句娘を含めた城内の人間を手にかけようとしたのだから。
信じられないような話だったが、リリーの必死の告白により、混乱は最小限に抑えられた。
「……はぁ、どっと疲れた」
「あはは、お疲れ様」
結局、俺が解放されたのは何時間も経ってからだった。
朝っぱらから、殺し屋と一戦交えたり国王の罪を暴いたり……少しは、休ませてほしかった。
「でも、よかったよ。ロアの無実が証明されて……」
「その代償に、背骨が持っていかれそうだったけどね」
俺の無実が発表され、すぐにも押し掛けてきたのはドーマスさん、それに意外にもミランシェ。
元勇者パーティーの仲間である二人には、なにも言えずに国を離れることになってしまった。で、二人が気づいた頃には俺は指名手配犯だ。
まずは心配させたことを謝ろうと思ったが、それよりも前にドーマスに泣きながら抱き着かれてしまった。
おかげて、背骨が悲鳴を上げてしまった。
「まあ、二人とも元気そうでよかった」
「そうねー」
俺はもちろんのこと、ディアも二人に会うのは、別れて以来らしい。
ドーマスさんは、毎日のように城に押し掛け、俺のことを心配してくれて抗議してくれていたらしい。これはなにかの間違いだ、と。ありがたくも、くすぐったい感じだ。
ミランシェも、表情にこそ出まいが、俺を心配してくれたのだろうということは伝わってきた。
「ふふ、この国を出て暮らすって話したら、また泣かれてたわね」
「骨が何本か折れるかと思ったよ。……ディアは、結局どうすんだ?」
「うん、教会のみんなには、話をしたよ。引き止められたけど、私の決意が固いとわかってからは、みんな応援してくれた」
口では、さもあっさりと言うが……そこには、ディアなりの苦心や他の神官とのぶつかり合いがあったのだろう。
それでも、俺といることを選んでくれた。
「……この国も、もうすぐ見納めね」
「そうだね。ま、今度はいつでも帰ってこれる。リリーやドーマスさんたちに会いに、な」
「うん」
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