262 / 263
死に戻り勇者、因縁の地へと戻る
戻ってきた
しおりを挟むワモニグラ……ワモちゃんと名付けられた、すっかり村の一員となったモンスターの出迎えを受けて。
その丸っこい頭に、俺とディアは乗せてもらう。
「わっ……こ、これ大丈夫なの?」
「大丈夫だって。ありがとなー!」
それにより、俺たちをここまで乗せてくれたモンスターたちはお役御免。
何日も付き合わせて悪かったな……自由に、戻るといい。
「さ、行こう!」
村はもうすぐそことはいえ、せっかく出迎えてくれたのだ。一緒に帰るとしよう。
ワモニグラは村へと移動していく。ちらほらと、村の中には人の姿が見えた。
そして……村の入口付近には、忘れもしない。俺がラーダ村にたどり着いたその日からお世話になり続けている、『緑屋』の姿……
徐々に近づいていく……店先に、一人の女の子が、立っているのが見える。
「よっ」
「あ、ロア!」
俺は、途中で飛び降り、村へと足を踏み入れて……店先で、花の世話をしている女の子へと、駆け寄っていく。
この村で初めて出会い、こんな怪しい俺を受け入れてくれて……ここで、働かせてくれた人物。
「エフィ!」
「!」
こちらに背を向けていた彼女に、声をかける。その肩が、ピクリと震えたのがわかった。
彼女は、ゆっくりとこちらへと振り向いて……
「アーロ、さん……?」
驚いたような表情で、唇を震わせていた。
その表情は、すぐに笑みへと変わる。
「ただいま」
「……おかえりなさい!」
彼女は……エフィは、俺が初めてこの村に来た時と、同じ笑顔で迎えてくれた。
「ちょっとー、待ってってば!」
「プゥ―!」
後ろから、俺を追いかけてくる声。
振り抜くと、ワモニグラに乗ったままのディアが、手を振っていた。
「し、シャリーディアさん!? なんで!?」
「あー……まあ、話すと長いんだけどさ」
俺はともかく、この場にディアまでいることに、驚いているようだ。まあ、そりゃそうなるよな。
さて、なにから話そう……エフィには、俺がリリーの件で国に戻ったことで、多大な迷惑をかけた。全部、包み隠さずに話すべきだろうな。
それに、村長でありエフィの祖父でもある、ヤタラさんにもな。
とりあえず、店の中に入る。
「おや、戻ったのかい」
「ヤタラさん、ただいま戻りました」
店番をしていたヤタラさんは、俺の姿を見ても驚いた様子はなく、微笑んでいた。
さて、まずは簡単に、起こった出来事を話すか……
「では、そろそろ昼食にしようとしようと思ったところじゃ、休憩にしよう。二人こそ、旅の疲れが残っておるんじゃないのか?」
「いや、大丈夫ですよ」
「じゃ、みんなでお昼にしましょう!」
「え、わ、私も?」
「もちろん!」
休憩中の札を表に出し、俺たちは店の奥へ。
時間も、お昼時だったので、昼食をごちそうになりながら、俺たちは今日までの経緯を話した。
「よかったです、そのリリーという子がご無事で」
話を聞いて、まずエフィが漏らした感想がそれだ。
俺から聞いただけの、会ったこともない相手。なのに、今日このときまで、リリーの安否が気がかりだったらしい。
「それに、よかったです。アーロさんの無実が証明されて」
「だのに、この村に戻ってきて、良かったのかの?」
「はい。最初から、そのつもりでしたから」
「アーロさん……あ、もうアーロさんじゃ、変ですよね」
「いや、アーロのままがいいかな」
もうすっかり、この村で過ごしていくうち……アーロという名前が、しみついてしまった。
今更、ロアとエフィたちに呼ばれても、なんか違和感がある。
それに、村のみんなは俺の事情を知らないわけだし。
……いずれ、みんなにも本当のことを、話さないとなぁ。
「それで、村ではおかしなこととか、なかった?」
「平和でしたよ、皆さん、アーロさんがいないからって手伝ってくれたり、ワモちゃんもいっぱい頑張ってくれて。ただ、皆さんアーロさんがいつ帰ってくるんだろうって、待ち焦がれてましたけど」
「それは……嬉しいけど、怖いな」
村のみんなに、そんなにも思われているのは、嬉しい。嬉しいが……
俺の脳裏に、初めてこの村に来た日のことが思い出される。あの日は、俺の歓迎会ってことで……めちゃくちゃ、飲まされたなぁ。
またああいうことにならないと、いいけど。
「それで……シャリーディア殿も、この村に住みたい、と」
「殿、なんていりませんよ。ご迷惑でなければ、ですが」
「迷惑なことなど。また、村が賑やかになりますわい。それにこんな美人ともなれば!」
ははは、とヤタラさんは笑う。この人こんなに笑う人だったんだ。
とにかく、ディアがこの村に住むことも、問題はないようだ。まあ、ここまできてダメですと言われても、それはそれで困るのだが。
「それで、住むところは……」
「ロアと一緒の家でいいわよ?」
「いや、そういうわけには……」
「なによ、別にいいじゃない。私のために家を貸してもらうのも悪いし。家だって、広いじゃない」
「けどな……」
「ま、まあその話は一旦置いておきましょう」
「休憩が終われば、戻ってきたことをみんなに知らせてあげるといい」
「……そうですね」
あぁ、戻ってきたんだな俺は。この、賑やかで、居心地のいい空間に。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる