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第1章 復讐者の誕生
待っているのは嫌だ
しおりを挟むアンジーの案……それは、この本の通りに北の北の果てへ目的地もわからぬ場所を目指すよりも、この本を書いたアンジーの祖父がいるであろうエルフの森へ行くというもの。そこで、なにが本当なのかを聞くというもの。
それは目的地がはっきりしている分、いい案だとは思った。だが、直後に驚いたのは……アンジー自ら、同行するというものだった。
「あ、アンジーが?」
「当然です。ヤーク様おひとりでなんてもっての他ですから」
確かに、俺自身一人は無謀だと思っていた。だが、他に頼れる人がいないであろうことも事実だ。
『癒しの力』を持つ母上はこの国を出るわけにはいかないだろう、効果が表れないとはいえ、それでも呪病に苦しむ人々を放っておけない人だ。父上も、その立場からおいそれと国の外には出られない。
先生は先生だが、部外者だ。ノアリとはなんの関係もないし、他にも生徒を抱えている身で俺に付き合わせるわけにもいかない。結果、身近な大人で頼める、便りになる相手はいないと思っていたが……
「……ヤーク様、私のこと不安げに見ていますね?」
「! いや、そんなことは……」
ば、バレてる……
「こう見えて私、腕っぷしには自信があるのですよ? ヤーク様の護衛として、私も同行します」
「けど……」
「奥様たちには頼れないのでしょう。それと、私が同行するのを拒否した場合奥様たちにこのことをバラします」
「!」
なんてことだ……そりゃ、8歳の俺に比べたら、剣術を少しは鍛え上げてきたとはいえアンジーの方が強いかもしれない。相手が女性でも、体格の差には大きなアドバンテージがある。
アンジーの腕っぷしの真偽はともかくとして、確かに他に頼れないのだから選択肢もないが……
「というか……この際、私ひとりに任せていただいた方が確実だと思いますよ。ヤーク様に長旅はおつらいでしょう」
「! それは……」
アンジーの言葉、それはアンジーひとりに任せてはどうかというもの……確かに、そうだ。2人よりひとりになっても、アンジーひとりだけの方が、いざというとき身を守りやすいし、他にも……
俺が足手まといになる可能性だってある。そう考えた場合、アンジーひとりに任せた方がまだ可能性はある。あるが……
「……待っているのは嫌、ですよね」
「!」
その言葉に、はっとさせられた。気づけば俺は、力強く手を握りしめていて。
「……そうだ、待っているのは嫌だ。俺にもできることが、ノアリのためにできることが、やっと見つかったのに……待っているだけなんて……!」
待っているだけ、そんなのは嫌だ。どんなに無謀であったとしても、ノアリが……誰かが死ぬのを、ただ黙って見ていたくはない!
これほどまで、死に対して考えたことがあっただろうか……おそらく、転生前の俺は殺されたことが、トラウマになっているのかもしれない。自分でも誰かでも、死は恐ろしいものだ。
俺はなんらかの理由で転生した。だが、それは俺が例外なだけ……普通、死ねばそこで終わりだ。だから……
「ノアリを、終わらせなんかしない!」
死を黙って見届けるなんて、してやるものか……!
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