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第2章 エルフの森へ
旅立ち
しおりを挟む「……これで、よし」
翌朝……荷物を纏めた俺は、玄関へと立っていた。昨夜から寝る間も惜しんで準備していた……なんてかっこいいことは、残念ながら言えない。
本当なら、旅に出るのだから周到な準備が必要だ。それと長旅ならなおのこと。だが今回の目的は、ただの旅ではない。ノアリを救うこと。ノアリの命の期限は、あとひと月と少ししかない。
なので、旅立つ決意を決めてから、夜中のうちに準備が行われた。のだが、俺は寝ていた。もちろん俺も準備をしようとしたのだが、子供は寝てなさいと両親に押しきられた。慣れないことをすることになるのだから、余計に寝てなさいと。
結果、準備は両親やアンジーに任せて寝ることになった。まあ、俺が準備しようとしてもなにからすればいいのか状態だったし……
「ヤーク様、準備はよろしいですか?」
そのアンジーは、寝ていない。本人曰く、仮眠を取ったから大丈夫です、とのことらしいが……
現に、こうして見ても隈もなにもない。いつも通り元気できれいだ。
「あぁ。アンジーこそ……」
「ふふ、ありがとうございます。私は大丈夫です、なんの問題もありません」
俺は動きやすい服を着ているが、アンジーはいつものメイド服だ。曰く、いつもの服装の方がかえって動きやすいのだとか……あんなヒラヒラで、心配だ。
アンジーも旅に同行する。俺だけの旅ならば反対されていたものを、なぜか両親に絶大な信頼を置かれているほどだ。あれかな、結構強いのかな。
加えて、アンジーはエルフ族だ。目的地のエルフの森、しかも尋ね人がアンジーの祖父ともなれば、アンジーがいた方がいろいろとやりやすい。俺個人としても、アンジーならば安心だ。
「ごめんね、私も一緒に行きたいけど……」
「母上も父上も忙しいのはわかっていますから」
2人は旅には同行しない。それぞれやるべきことはあるだろうし、アンジーの方がしっかりしている感は否めない。そういう意味でも、アンジーならば安心だ。
……冒険など、転生前、魔王を討ち倒すために旅に出て以来だ。当然だが。だが、冒険の意味合いはあのときとはまったく違う。
あのときは、世界を救うなんて大層な目的があった。けれど今は違う。呪病に苦しむ人々……いや、ノアリを救うために。そのついでとして、まあ他の人々も助かったならそれでいい。
「でも本当に大丈夫かしら。アンジーがいるとはいえ、やっぱり……」
「お前は何度同じ事を繰り返しているんだ」
「ヤーク様、キャーシュ様には本当になにも言わなくても?」
「あぁ、うん。言ったら絶対、引き留められちゃうし」
キャーシュには、なにも言わずに発つことにした。言っても理解してくれるかはわからないが、少なくとも長く家を開けることには変わりない。だから、引き留められるのは目に見えている。
なにも言わずに消えたら恨み言を言われるだろうが、帰って謝るとしよう。
長旅に備え、用意したものは背負いきれないものになりそうだったが、母上が用意してくれたものを父上が分類してくれた。昔冒険をしただけあって、必要最低限なものばかりだ。
いざとなれば、魔法を使えるアンジーがいる。それもアンジーが同行するメリットのひとつ。魔法という便利なもの、ひとりだけで行動するよりも、便利差の面でだいぶ良い。
「じゃ、そろそろ……」
冒険に対するワクワクもないわけではない……が、優先度はノアリを治すため。今も苦しむ彼女に、さっき一目会ってきたが、寝ていたために声はかけてこなかった。
ノアリに残されたのは残りひと月と少し……だから、最悪の場合でも、直前には戻ってこないといけない。知らないところでノアリが死んでしまうなんて、ごめんだ。
「気を付けてね。ちゃんと連絡はするのよ」
「わかってます」
リュックの中には、連絡用の魔石も入っている。昨日、先生が母上に連絡を取っていたものと、同じ種類のものだ。
ちなみに先生には、この魔石越しだが旅に出ることを伝えた。もちろん先生の稽古はまだまだ完了してはいないため、途中で投げ出す罪悪感はある。けれども、そこは仕方ないと先生も承諾してくれた。
準備は、万端。最後の最後まで「気をつけて」「無理するな」とお言葉を貰い、俺はアンジーと共に旅立つ。初めて、この国の外に出る。若干の緊張と、それ以上の使命感を胸に。
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