57 / 307
第3章 『竜王』への道
解決に向けて
しおりを挟む『呪病』の正体……それは、その名前の通りに呪いであるとのこと。呪いのような病が、まさか実際に呪いだったとは。
その呪いをかけた者……つまり術者を倒せば、『呪病』を消すことができる。そうなれば、『呪病』に苦しんでいるすべての人を救うことができる。ノアリ以外を救わない、という選択肢も消えることになる。
とはいえ、ノアリを救う代わりに何人死んでも構わない、なんて……俺は、こんな薄情な人間だっただろうか。
「……」
結果的に全員を救うことができることになったとはいえ、この考え方は……こんな考え方ができるようになったのは、果たして正解なのだろうか。
「ヤーク様?」
「! なんでもないよ」
とにかく、とにかくだ。全員を救えるなら、それに越したことはない。今はそれでいいじゃないか。
となると、呪いをかけた術者を見つけないといけないが……
「それで、術者ってのはどうやって見つけたら……」
「基本的に、呪いの範囲はそう広くはない……せいぜい国ひとつの範囲。遠隔で別の場所からは呪いの効果は表れないということじゃ」
範囲は広くない……とはいえ、国ひとつも充分な広さな気がするが。まあいいや。
とにかく、呪いの範囲が決まっている、ということは……
「術者は、国の内部にいる?」
「そうなる。それに加え、呪いをかけている間、術者はその場から離れることは出来ん。離れれば呪いの効果は消えるからの」
「ということは……術者は、国から一歩も外に出たことがない人? そんなの……」
「よく思い出せ。その『呪病』とやらはいつから流行りだした?」
そう言われ、俺は咄嗟にアンジーを見る。『呪病』の存在はノアリが発症した時に知ったんだ、いつからなんて俺にはわからない。
だけどアンジーなら、それを把握していてもおかしくはない。
「ええと……奥様は、最近と。ですが……確か、それと似た病が出た時期があります。そう……8年ほど、前かと。その時点ではまだ名前なども付いておらず、流行るほどではなく途絶えたはずです。ただ、今回流行り始めるまでにも何度か症状はあったはずです」
「ふむ……つまり、その術者は8年前に実験的な意味で『呪病』を発生させ……その後何度か呪いの効果を試した後、ここに来て呪いを流行させた、ということか」
8年前……初めて聞く情報で、アンジーとザババージャさんが推論を立てていく。
確かに母上はこの頃流行ってる、としか言ってなかった。だが、実際にはそんな前から起こっていたのか。継続的ではなく、断続的とはいえ。
……俺が生まれた、いや転生したのと同じ時期か。
「その、呪いが起こった時期に必ず国にいた者に限定して、調べるしかないじゃろう。ただ、呪いは魔術とは違うとはいえ、根本的には同じものじゃ。つまり……」
「……魔法を人間が使えないように、呪いも使うことはできない?」
「例外はあるがの。それに、呪いを使うにはかなりの力量と知識、そして邪な心が必要……少なくとも、そこいらの民草に扱える者ではない」
「てことは……」
王族か、それか貴族……その中に、『呪病』の術者が高い。しかも、人間ではない者……
これだけ限定できれば……
「ここから出て、通信の魔石でガラド……父上に状況を話せば、早期解決に動いてくれるはず!」
あ、あぶねー……思わず、アンジーの前でガラドと呼び捨てにしてしまうところだった。誤魔化せたか?
……ぎりぎりだったが、特に気にしていない様子だ。
「なら、さっそく……」
「まあ待て坊主」
急ぎ、結界の外へ出ようとしていたところへ、ザババージャさんの待ったが入る。
逸る気持ちが、抑えきれそうにないんだが……
「結界の外へ出る、それはこの村を後にするということじゃが……」
「あ、そうか……そしたらクルドやザババージャさんともお別れに……」
「ザバちゃんでええいうのに。いや、問題はそこじゃなくての」
なにを言いたいのかわからない。首を傾げる俺に、ザババージャさんはおもむろに袖を捲り腕を露に。
か細く、血管の浮き出た腕だ。
「えっと……?」
「ここを出ていく前に、ほれ。血ぃ抜いていかんか」
ザババージャさんは、己から血を抜けという。確かに、ここに来た理由は『竜王』であるザババージャさんの血を分けてもらうこと。
だがそれは、『呪病』を治す手立てがそれしかないから。術者を倒せば治せるとわかった今、無理に血をもらう必要はない。
「ありがたいですけど、でも……」
「あぁ、術者を倒せば呪いは解ける。が、呪いなんぞを使う輩は頭のねじが外れとる、なにが起こるかわからんぞ。やると言っとるんじゃ、貰っといて損はないと思うがの?」
術者を倒して、それですべてが解決するわけではない……そのような意味の言葉を告げられ、俺は口の中が渇いていく感覚がした。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる