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第4章 騎士学園での騒動
食堂にて
しおりを挟む寮の生活は、おおよそ入学前にイメージしていた通りのものだった。部屋には大抵のものは揃っているし、食事時は学食がある。男女別れている寮だが、この場所は男女関係なく集まることができる。
入学したその日のうちから、寮生は学食を使うことが可能だ。購買もあるため全員がこの場で食事をするわけではないが、それでもかなりの人数を想定してか広い。
入学直後は、この場で大勢の同級生と顔を会わせることになる。なので、ほとんどの生徒がこの場にいる形だ。
「あ、ヤークー!」
「……っ」
ふと声をかけられる。その方向には、手を振るノアリの姿、そしてミライヤ……加えて、もうひとりいる。
ミライヤもそうだが、もうひとりの女の子もキョロキョロしている。とても不安そうだ。さては、あの子がミライヤと同じ、平民の子だろうか。
「おー。一緒に食おうぜ」
「そうね……って、シュベルト様!?」
「そんなにかしこまらなくていいよ。ヤークにも言ったけど、ここでは対等に接してほしいな。同じ騎士学園の生徒なんだし」
「あはは……」
シュベルト様のノリは、とても国民に寄ったもの……と言える。それに、この学園ではみなが同じ立場、その言い分もわかる。
とはいえ、すぐに態度を改めるなんて無理だ。ほら、ミライヤともうひとりの子なんて、ノアリの後ろで震え上がっている。
平民どころか貴族ですら、王族なんてのは城から出てきたとき遠目に見るのが精一杯。それほどに地位の違う存在なのだ、王族は。
王族に準ずる地位の『勇者』であるフォン・ライオス家も、頼めば城に住めるほどの権利を持ってはいるが、それを断り結果として今の家に住んでいる。
「えっと、ミライヤと……」
「あ、は、はじめまして! リィと申しまひゅ!」
噛んだ……
「さっきそこで、ミライヤと一緒にいたところを見つけたのよ。この2人ったら、貴族がたくさんいるから食堂に行くか迷ってたみたいでね」
ミライヤと、リィと名乗る茶髪のボブカット少女を指して、ノアリが言う。ふむ、平民のミライヤたちにとっては、いかに貴族に憧れているとはいえこうも貴族がたくさんいる場所は来づらいだろう。
迷っているところを、ノアリが連れてきたと。確かにノアリと一緒にいれば、安心だ。
「そっか。よろしく、リィ。俺はヤークワード、ヤークって呼んでくれ」
「はは、はぃい……」
大丈夫だろうかこの子、すごい顔が真っ赤だ。あと、メガネをかけているがサイズが合ってないのか、ちょいちょいずれている。
なんというか、ミライヤと合わせて2匹の小動物みたいだ。ミライヤは実際に見たからまだ納得できるが、こんな子がどうやって貴族を倒したのか気になるところだ。
「ヤーク、ここ空いてるぞ!」
「あ、どうも……」
いつの間にか、シュベルト様が席を確保してくれていた。こんなんで、本当に対等に話すことができるのだろうか。
……いや、逆に考えれば、俺がミライヤやリィに対等に話してほしいと願うようなもんだ。そう考えれば……うん、対等に話した方が、いいよな。
「そういや、ノアリの同室の子は?」
「あー、ちょっとお腹壊しちゃったみたいで。どうにも病弱らしいのよね」
それぞれ食券を買い、食事を手に席へと戻る。一度に席を離れたら、その間に席を取られてしまう可能性があるからな。
全員が席につき、食事を始めようとしたところで……
「いましたわ! シュベルト様!」
と、誰かが近づいてくる。女性の声だ。王族である彼は所々で噂にはなっているが、こうして直接話しかけてくる人はいない。なのに、こうして話しかけてくるとは。
見ると、声の主は……うわ、すげえ美人だ。綺麗な海のように澄んだ水色の髪を後ろで縛り、一本にしてそれが腰まで伸びている。顔のパーツすべてが整っている、といった感じだ。
スタイルもいいし、制服のスカートから伸びた脚は実に健康的だ。見ただけで、運動が相当にできるだろうとわかる。
「……なんだよ」
「別に」
ふとノアリから視線を感じた。ちょいちょい視線を感じるのは、なんなんだ。聞いても、なんでもないと顔をそらされてしまうし。
「お、アンジェ。どうした?」
「どうした? じゃないですよ。ご飯を一緒に食べようと探していたんですよ。ねぇリエナ」
「はい」
と、やって来た女性の隣にいるのは……あ、シュベルト様と最初に会ったときにいた、侍女さんだ。へぇ、リエナって言うのか。
で、こっちのとんでも美人はアンジェ……誰だろう。なーんか見たことあるような気がするような、しないような。
そんな視線に気づいたのか、アンジェさんはにっこりと微笑み、スカートの端を摘まんでから……
「あ、皆さんどうもはじめまして。私アンジェリーナ・レイと申します」
と、名乗った。
うん、やっぱり聞いたことがあるような名前……
「こちら、アンジェリーナ様はシュベルト様の婚約者です」
「……婚約者!?」
婚約者、婚約者か……なるほど、王子の婚約者なら、そりゃどっかで顔を見たことも、名前を聞いたこともあるだろうな。
当の本人は、どこか恥ずかしげにはにかんでいる。
「あ、あまり表には出たことがないので、そこまで有名じゃないんです……お恥ずかしい。あ、私のことはどうぞアンジェとお呼びください」
「は、はぁ……」
貴族とはいえ、王族の婚約者、令嬢ともなればまた立場は変わってくる。どこか気品を感じさせつつ、それでいて親しみやすさを感じるのは本人の雰囲気ゆえだろう。
食事の席に新たな参加者が加わったわけだが……まずいな、ミライヤとリィが限界が近い。大丈夫だろうかこの空間。
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