復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

久方の再会

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「……」


 俺は、屋上から校内へと戻り、階段を降りていく。未だリーダ様の演説の続く校内では、ざわつく生徒でいっぱいだ。この話は本当なのか、本当だとしたら俺たちへの裏切りだ……そういった声だ。

 こういう声を聞いていると、シュベルトは校内を歩かないでよかった、という思いが湧いてくる。とはいえ、アンジェさんとリエナに任せたとはいえ、シュベルトはこの後どうするつもりなのだろう。

 俺には、気にせずに戻ってくれ……と、言っていたが。とりあえず次の授業は欠席するようだし、生徒がいなくなったその間に移動するのだろうか。


「あ、ヤーク!」


 そこへ、ノアリとミライヤが駆け寄ってくる。そういや、2人を置き去りにしてしまったな。探しに来てくれたのか。

 見たところ、ノアリとミライヤだけの、ようだ。


「もう、いきなりどこ行ってたのよ!」

「悪い悪い。……タルローと、ナーヴは?」

「実は……」


 この場に、さっきまで一緒にいたタルローとナーヴの2人はいない。まあ一緒に俺を追いかけてくるほどの仲でもないって言われれば、その通りではあるんだが。

 ミライヤ曰く、タルローとナーヴも、他の生徒同様困惑が大きく、少し落ち着く時間がほしいとその場に残ったらしい。2人が移動している間も、困惑に溢れた生徒で溢れていたと。

 ……とにかく、こんな事態になっては、俺の考えだけじゃどうしようもない。シュベルトがどうするか、なによりリーダ様の真意を、知れないことには。


「はぁ、まさかこんなことになるなんて……シュベルト様、大丈夫なのかしら」

「今は、アンジェさんとリエナが側にいるから、任せておいていいと思う。けど、次の授業は休むってさ」

「そうですか……」


 この2人は純粋に心配してくれているが……言ってしまえば、シュベルトのことを心配している人物は、少ないってことだ。

 そもそも真偽を知っている人物が少ないのはあるが、明かされた情報が真実かどうかの判断、自分たちが騙されていたことへの疑念……これらを感じている人が、ほとんどだ。

 なんとか大事にならないといいが……そんな気持ちで、教室に戻った。そこでも、当然のように騒ぎが起こっており、リーダ様の言葉が真実かどうか、議論する声が多かった。

 シュベルトと親しい俺やノアリも質問攻めにあったが……すべて、なにも知らないで通した。さすがに、俺たちが勝手になにかを言うわけにも、いかないだろう。

 ……その後、授業が始まったがシュベルトは欠席した。元々、2年生の授業はそもそも授業がなかったり、自習などで欠席する人も多いため、特に突っ込む人はいなかったが。


「……はぁ」


 放課後になり、どっと疲れた俺はたまらずため息をつく。深いため息だ。

 ここは屋上。すでにシュベルトたちの姿はなく、俺ひとりだ。ノアリとミライヤは、なにやらクラスの女子たちに捕まり、どっか行ってしまった。俺も早く帰って、もう寮に帰っているであろうシュベルトに会いたかったが……


「俺も、狙われてるか」


 俺とシュベルトが、寮で同じ部屋だということは結構知られている。なので、同じ組の連中以外も、俺を捕まえればなにか情報を得られると、思われているようだ。

 それは間違いではないが、まさか俺まで追われるとは。あの演説は、授業が始まる頃には終わったが、それが終わってもそれぞれの心に残された疑念は晴れない。


「困った事態になったなぁ」

「そのようじゃのぅ、難儀な顔よ」

「あぁ。……!?」


 隣から、声がした。反射的に、そちらに振り向く。そこには、いるはずのない人物がいた。

 俺が、屋上に来たときはひとりだった。シュベルトがいたときもそうだったし、開放されている屋上には入ってはいけない決まりでもあるのではないか、というほどに誰もいなかった。

 その後も、誰かが屋上に足を踏み入れた気配はない。屋上へと続く扉を開けた音も、空を渡ってきたことも、校舎の壁を登ってきたことも……なかった、はずだ。誰もここにはいない、なのに。


「……なんで、ここに。いや、どうやってここに来た」


 そこには、あのエルフがいた。1年前、一度会ったきりの、しかし俺の心に深い印象を残した男が。

 俺を転生者だと、見抜いたエルフが。


「……シン・セイメイ」

「……んん? はて、儂は主に、名を名乗った記憶がないが」


 若いエルフ……青年の姿をしながら、その声は年寄りのもの。そのギャップだけでも、なかなか忘れられるものではない。


「ちょっと、ある人に聞いてな」

「ほぉ、この時代に儂の名を知っておる人間がおったとはな。感心感心」


 本人から聞いた名ではない。その名は、今のシュベルト出自を明かした状況を作り出した張本人、リーダ・フラ・ゲルドから聞いたものだ。

 もっとも、聞いたのは名前だけ。特徴などはなにもわかっていない。聞いた情報と一致しただけのもの……1年前に会った、エルフと。名前は、どうやら確定したようだが。

 ……そういや、リーダ様からこいつを見つけたら、知らせてくれって言われたが……まあ、いいか。問題は別だ。

 こいつの名前などではない。どうやってここに、現れたかだ。


「愉快に笑ってるとこ悪いが、さっきの質問に答えてもらってない」

「んん? せっかくの再会であるのにせっかちな奴よの。簡単なことよ、儂の魔術であれば、主如き小童(こわっぱ)の目を欺く方法などいかようもあるということよ」


 ……答えになってない気もするが……要は、その魔術とやらで、気配を消すなりしてここに現れたってことか。それとも瞬間移動とか?

 魔法じゃなく、魔術って言葉に気になるところはあるが、今は気にするべきはそこじゃない。


「じゃあ、どうして……わざわざ、俺の所に、このタイミングで……」

「あー、質問の多い奴じゃの。最近の若いもんはすぐに人に聞き自分で考えようとはせんのか」


 はぁ……と呆れたようにため息を漏らすエルフ……いや、シン・セイメイ。悪かったな、質問の多い奴で。

 だけど、こっちだって混乱してるんだ。ただでさえ、リーダ様の真意が見えないところに、訳のわからないエルフが現れたんだからな。


「ま、混乱しておる若者に答えを示してやるのも、年長者の役目よな。儂がここに来た目的は……ま、面白そうだから、じゃな」

「……面白そう?」

「そうであろう? 一国の王位が、その身内の言霊によって崩れ去ろうとしておる。外国からの侵略ではなく、内紛により国が崩れ行く姿の、これが面白くないはずがなかろう」


 ……こいつ、性格が悪いな。国が危ない状況を、わざわざ楽しんでやがる。

 しかし、それとこいつが俺の所に現れた理由とが、結びつかない。


「解せぬ、といった顔じゃな。なぁに、立場を危うくしておるこの国の第一王子と仲を深めておるのが、主じゃと聞いたのでな。主はよほど、トラブルの中心に居(お)るのが好きじゃと見える」

「……好きでいるわけじゃ、ねぇよ」


 ……やっぱり、こいつは……心を覗いてくるようなこいつの目は、苦手だ。
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