復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

シュベルトの目的

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 突如現れたシン・セイメイとの話を終えた俺は、寮へと帰宅した。さすがにこの時間帯になると、俺を狙って突撃してくる他の生徒はいなかった。

 シュベルトが落ち着くだけの時間だけじゃなく、他の生徒の目もかわす時間を作る。先ほどのシン・セイメイとの話にはそこまでの意味が、含まれていたのだろうか。

 ……あんまりそういうことは、考えていない気もする。とにもかくにも、俺は寮の、自分の部屋へと帰宅した。


「ヤーク、遅かったな」

「……いろいろありまして」


 部屋には、シュベルトひとりだった。なんとなく、あのエルフと会っていたことは話しにくいため、ごまかしてしまったが。

 別段、変わった様子はない。泣きはらして目が赤い……なんてことも。まあさすがに、あんなことがあったとはいえ泣くまではないとは思うが。

 とはいえ、いつもより浮かない顔であることは確かだ。やはり、シン・セイメイが言っていたような……国王になる道が遠のいたこと、が影響しているのだろうか。


「あの……単刀直入に、聞いていいですか」

「ん?」


 実際、あのエルフに言われて気がついたことではあるが、気にならないことはない。シュベルトが、国王を目指す理由だ。

 第一王子という立場だから……という理由だけでは、ないように言っていた。そして、それは本人に聞くべきだと。


「シュベルトが、国王を目指す理由について」

「……そういえば、話したことはなかったか」


 回り道はなしだ、直球に聞く。シュベルトも、驚きこそしたが、それだけだ。拒否の姿勢ではない。


「悪い、隠していた理由はなかったんだが……タイミングがなかったのと、話すのが気恥ずかしくて。けど、私が国王を本気で目指していると、どうして?」


 シュベルト自身、タイミングがあれば俺に話してくれたようだ。

 シュベルトは、国王を目指している。しかし、直接俺に国王を目指しているといったことはない。なのに、なぜ俺が、シュベルトが国王を目指していると思ったか、それが少し疑問らしい。


「それは……なんとなく、落ち込んでいるように見えたから」

「……そうか」


 つい、とっさに口をついてしまったが……嘘ではない。屋上で、そして帰宅した時に見たシュベルトの顔は、いつもよりも落ち込んでいるように、見えたのだ。

 納得はしてくれたのか、シュベルトは小さくうなずく。そして……


「私は……国王になって、差別をなくしたかったんだ」


 国王を目指していた、その理由を話し始めた。


「差別……?」

「あぁ。ヤークも知っているだろう。この国は……貴族か平民か、それだけで多くの者が差別される」


 ……それは、俺も思っていたことだ。なにもここ最近の話ではない、ずっと昔から。

 俺が転生する前から、平民だからという理由で貴族から下に見られた。エルフ族だって、今でこそ当たり前のように受け入れられているが、昔はそうではなかった。

 ミライヤだって、入学当初の風当たりは強かった。皮肉にも『魔導書』事件の被害者という立場から、以前と扱いは変わり、今ではミライヤの人柄が認められてはいるが。


「血筋だけで、人は平気で差別をする。昔の話だが、エルフ族や獣人族といった、人間族以外の種族とは距離を置いていたそうだ」

「……」

「種族間の差別、血筋の差別……それらを、私はなくしたいんだ」


 ……本人は気恥ずかしいと言ったが、そんなことはない。立派な、国王を目指すには立派な理由だと思う。

 シュベルトがそう嘆く理由は、つまり今の王体制に問題があるということだ。そして、それは過去に続くもの……いつからか、もしかしたら人間族が生まれた時から、差別は続いてきた。

 その、長い歴史を断ち切りたい。それが、シュベルトの目的ねがい


「この学園に入ってから、それを強く思うようになった。……だが……こんな状況になっては、それも難しい」

「……それは……」

「血筋による差別をなくす……そんな願いを持つ私自身が、血筋を偽り国民を欺いていたんだ。誰も私のことなど信頼しない」

「っ、けど、シュベルトが国王と側室の子だと発表したのは、リーダ様だ。シュベルトに罪はないし、罪があるというのなら……」


 罪があるというのなら、それは国王に他ならない……そう言おうとして、その先の言葉が出てこなかった。そんなこと、俺が言わずともシュベルト自身がわかっているはずだ。

 自分は、偽りの第一王子として祀り上げられた……そう訴えれば、少なくともシュベルトに対する非難は避けられるのではないか。


「どんな理由があろうと、私は第一王子として今日まで過ごしてきた。自分が、側室との子だとわかっても、それを告げることなく、だ」

「……」


 祀り上げられたのだとしても、真実を伝えず隠し、今日まで過ごしてきた……だから、シュベルトも同罪だというのか。

 それは理屈は、わからなくもない。ないが……


「そう、そうだ。確かに、もう起こったことは消せない。けど、それでみんながみんな、シュベルトを責めるとは限らない。それに、血筋が偽りでも、シュベルトが第一王子として今日まで生きてきたことは確かだ。いくらみんながなんと言っても、王位の継承権は第一王子のシュベルトにあるはず……」

「……あぁ、この国では、第一王子が優先して王位継承権がある。だが、それは歴史上の話だ」


 シュベルトの出自……国王と側室の子が第一王子として祭り上げられたなんて、おそらく歴史上に類はない。だから、この先、第一王子シュベルトの扱いがどうなるか、わからない。

 場合によっては、第一王子の称号がシュベルトからリーダ様に移ることだってあるのだ。


「……じゃあ、リーダ様の目的は……?」


 リーダ様が第一王子となった場合。次期国王になることは確実。ならば、その先は? 彼は国王になって、なにがしたい?

 身内の恥をさらすような人だ、その考えは及びもしない。それとも、国王になった後のことはどうでも良くて、国王になること自体が目的とか?

 ……いや、国王になりたいからには、目的があるはずだ。シュベルトを蹴落としてまで、国王になりたい理由が。


「みんながヤークみたいな人だったら、こんなに悩まなくてもいいのかもしれないけどな」

「それは……買い被りすぎだよ」


 確かに俺なら、シュベルトを責めるとか、そんなこと考えもしない。それは、シュベルトという人物を知っているから……そして、俺が平民と貴族、両方の立場で生きてきたからだ。

 貴族から見られる平民、平民から見る貴族……それらを体験してきたからこそ、平民貴族という理由だけで人の見る目が変わるというのが、理解できない。それだけだ。


「とにかく、明日は学内を歩いて回ってみるよ。このまま姿を隠しては、逃げたと思われるだろうから」

「……あぁ」


 確かに、あんな演説があった後に、シュベルトがずっと姿を隠していたのでは、あらぬ噂が立ちかねない、が……心配では、ある。

 ならば、俺が側にいればいいだけのこと。ノアリとミライヤにも頼んで、シュベルトはなにも悪くないってことをアピールして回ろう。


 ……そして翌日。俺はこの選択をしたことを、早くも後悔することになる。
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