165 / 307
第7章 人魔戦争
変わりゆく王国
しおりを挟む……あの事件から、早いもので半年の時間が流れた。
ゲルド王国、第一王子……いや、元第一王子シュベルト・フラ・ゲルドの死去。その訃報が知らされてから、国の動きはいっそうに大きなものになった。
その直前に、国王の死去、シュベルトの弟リーダ様の次期国王任命など、騒ぎは大きかった。だが、シュベルトが亡くなったという訃報は、国の騒動にさらなる混乱を巻き起こした。
シュベルトの死因は、毒殺。犯人は未だ捕まっていない。第一発見者は俺たちであり、またその目撃情報から犯人は女の子である可能性が高い。
当時、俺たちも疑われたが、その後の調べで解放された。犯人とおぼしき女の子は姿をくらまし、また女の子という情報しかないため、捜査は難航を極めているようだ。
「……」
一時は、リーダ様の暗躍が囁かれた。邪魔な兄シュベルトを貶め、第一王子の座から引きずり下ろした男……そのタイミングも相まって、疑いの目は彼にも向けられた。
だが、証拠はない。それに、貶めるのが目的ならすでに目的は達成されている。また、あの状況で殺せば、私が殺しましたと言っているようなものだ。
リーダ様なら、そんなことはしないだろう。なにより……兄弟で、殺しがあったなどと……思いたくも、ない。
だが、やっていないという証拠がないのもまた事実。なので、リーダ様は次期国王且つそのカリスマ性は健在でありつつ、兄殺しの疑いが完全には晴れていない、微妙な立場になった。
「ヤーク様、大丈夫ですか?」
「え? ……あぁ、大丈夫……とは、言えないかな」
隣を歩くアンジーが、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。いかんいかん、余計な心配をさせてしまった。
シュベルトが亡くなって、半年……俺たちが一番に見つけたのに、シュベルトが亡くなっていることにはすぐには気付けなかった。ずっと、眠っているだけと思っていた。
実際に、眠るように死んでいたなんて、気付くこともなく。
あれから、短くない時間が過ぎた。俺の心には、まだポッカリと穴が空いたようだ。それに、彼女たち……特に、アンジェさんとリエナは、深い悲しみを抱いた。
時間が解決する……なんて言葉をどこかで聞いた。だが、そんなに簡単なものではない。大切な人を失った気持ちは、いつまで経っても晴れることはないだろう。
「やはり、シュベルト様のことですか?」
「うん……半年も、経ってるのにな」
「時間など、関係ありません。悲しいのは皆同じです」
アンジーには、やはりお見通しのようだな。
シュベルトと仲良くしていた俺たちだけでなく、他にもシュベルトの死を悲しんでいる者はいる。特に、シュベルトと関わりのあった、同じ組のみんなとかだ。
騙されていたことはショックだが、だからといって死んでほしかったわけではない。そういった意味でも、悲しみを抱く者も多い。
「アンジェリーナ様も、リエナ様も、難しい立場になってしまいましたね」
「……そうだな」
シュベルトの婚約者であった、アンジェさん。彼女は、シュベルトの出自をもちろん知っていた……知っていて、家族の反対を押し切り彼と婚約したのだという。それは、アンジェさんの親にとって面白くないものだっただろう。
だが、今回の件をまるで幸運だと言わんばかりに、アンジェさんの親はアンジェさんに、別のお見合い相手を紹介していった。まだ、心の傷も癒えていないアンジェさんにだ。
シュベルトの侍女だったリエナは、仕える主を失い、別の王族に仕えることになる。リエナの事情はよくは知らないが、シュベルト個人が亡くなればお役御免、というわけではないらしい。
リエナにとっては、シュベルト個人に仕えているつもりであっても、現実としては王族に仕えているのだ。リエナの意志で、どうこうできる問題じゃあない。
「……友達が死んでも、素直にそれだけ悲しめないなんてな」
「……仕方ありません。立場の、難しい方ですから」
俺だけではない、ノアリもミライヤも、心を痛めている。そんな2人は、同じ女の子同士ということもあってか、最近はアンジェさんやリエナと一緒にいることが多い。
以前は休日には、2人と行動することが多かったが……今の状況を、寂しくないとは言えない。だが、俺よりも寂しさを覚えている人たちがいるのだ。
助けになれるなら、なんとかしたい。
「……」
アンジェさんやリエナの立場、次期国王リーダ様の扱い、亡くなったシュベルトの扱い……なんの問題も解決しないまま、新たな問題ばかりが増えていく。
国中が混乱している今なら、俺の目的も果たしやすい……ガラドの命を、狙えるのではないかと思っていたが。
とても、そんな気分には……
「失礼、少々よろしいか」
「! は、はい……」
ふいに、声をかけられた。背後からのそれに、少しだけ驚いてしまう……人の気配を、感じ取れなかったからだ。
だが、考え事で頭がいっぱいだった。そのせいで、他のことに気を回せなかったのだと思うことにして、声の主を確認するために振り向いた。
「なにか、用で……!?」
振り向いた先にいたのは……思わず、言葉が詰まってしまうほどに、変わったいでたちをした人物だった。
そこには、ひとりの男……だろうか……がいた。男だと判別しにくいのは、その全身が、鎧のようなものに覆われているから。ただ、声だけで男だと思っただけだ。
全身を鎧に包み込んでいる……それも、顔まで。兵士なんかは、鎧を着ていることはある。だが、顔まで隠れているというのは、見たことがない。
しかも、顔を隠してる……仮面、と言えばいいのか。それはまるで骸骨のような見た目をしていた。ただの骸骨ではない、頭の左右から角が生えている。
なんというか……初対面でなんだが、不気味だ。
「……」
「……あの?」
その人物は、俺たちと向き合ったまま、なにも答えない。徐々に、警戒の気持ちが高まり……アンジーも、構えている。俺も、腰の剣に手を伸ばして……
「……え?」
目の前の人物が、動きを見せる……その動きに、俺は間の抜けた声を出してしまった。アンジーも、唖然としてる。
なぜ、そんな反応をすることになったのか……それは、当然とも言える。なぜなら……
その人物は、まるで……かしずくかのように、その場に、膝をつき、頭を下げたのだから。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる