復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

圧倒的な魔族の力

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 ……魔族の顔面を狙った、鋭い蹴り。それは魔族の腕に防がれてしまったが、強烈な一撃であったことは見てわかる。

 なぜなら、防いだはずの魔族の腕が少し、震えている。もし顔面に直撃していたならば、相当なダメージを与えていただろう。

 長いスカートから伸びた白い脚……それを放ったのは、他でもないアンジーであった。


「アンジー……」

「ヤーク、様に……申し訳、ありません。助太刀が、遅れて……!」


 アンジーは苦しそうな表情を浮かべたまま、俺に謝ってくる。俺の手首の骨が砕かれたこと、気にしているのだろうか。

 だが、アンジーが謝る必要なんてどこにもない。むしろ、結界の影響で苦しんでるはずなのに、俺のためにここまで……


「ほぉ、これは驚きました。その状態で、まだこうも動けるとは。それに、この威力……素晴らしい。この結界の中では動くどころか、立っているのもやっとのはずですが?」

「こんな、もの……全然、大したこと、ないですよ」

「そうですか。実に素晴らしい、あなたの身体能力。エルフ族は魔力にかまけて近接戦などからっきしだと思っていました。この、しなやかに伸びた脚から放たれる蹴り……実に、いいですね」


 魔族は、今なにを思って話しているのか……表情が、読めない。


「えぇ、えぇ……これは修正が必要ですね。エルフ族の認識に対する修正が。…………しかし」

「っ、あ……!」


 アンジーの蹴りを受け止めた状態で、魔族はアンジーの足首を素早く掴む。

 そのまま、アンジーの足首を引っ張るように……体ごと、上空へと打ち上げる。そして……


 ドッ……!


「か、は……!」


 ……アンジーは、背中から地面へと叩きつけられた。


「悲しいかな、エルフ族と人間族の体の構造は、体内に保有する魔力を除けばほとんど同じ。それはつまり……あなた方エルフ族も、いくら鍛えても我々魔族には、敵わない」

「ぐっ……あ、あぁ……!」


 まはアンジーを見下し、あろうことかアンジーの腹部を思い切り踏みつける。

 その光景に、自分の中で血が頭に上っていくのを、感じた。


「てめぇ、アンジーから離れろ!」

「片手は使えないはずですが……今のあなたには、関係ないようだ。」


 片手の骨は砕けているが、そんなこともはや頭になかった。あるのはただ、目の前の魔族に対する怒りのみ、

 俺は素早く剣を抜き、魔族に振るう。


「らぁっ!」

「ふむ……」


 ガギンッ……


 渾身の力を込めて、一太刀を放つ……しかし、それはいとも簡単に、魔族の腕に受け止められてしまった。

 いくら力を入れても、これ以上押し進めない……どうなってんだ、こいつの皮膚は……


「くそっ……」

「先ほどはまだ、冷静さも見えましたが……怒りに呑まれてしまっては、動きを読むのも容易い」

「! ぐはっ……」


 不意に、体がよろめく。力を込めて腕をぶった斬るつもりだったが、力の流れが変わる。

 魔族は、剣を受け止めることから受け流すことに動きを変える。込めていた力の行き先が変わり、バランスを崩してしまったところで……腹部に、魔族の鋭い蹴りが打ち込まれた。


「ヤーク様……! っ、く、ぁあ……!」

「お二人とも、おとなしくしてもらいますよ。無駄な殺生は好みません……っ?」

「ぅ、らぁ!」


 俺は、打ち込まれた足先を掴み……魔族を巻き込んで、地面に転がる。その衝撃で、アンジーの上から魔族が退く。


「っ、が……けほ、けほっ……」

「アンジー、無事か!」


 俺はそのまま、アンジーの下へと駆け寄る。苦しんではいるが……どうやら、深い傷はないようだ。

 あのまま押しつぶされていたら……考えたくもないが、無事でよかった。


「やれやれ……あのまま、私を拘束しておけばよかったものを」

「……俺の力じゃ、あのままお前の動きを止めとくのは無理だ」

「あぁ、よくお分かりで」


 立ち上がる魔族は、おもむろに周囲を見回す。その動きにつられ、俺も同じように周囲を見回す。

 ……出現した無数の魔族に、人々が襲われている。ほとんどは、魔族に拘束されている……それを、人々はなんとか抵抗を試みている状態だ。


「私ひとりに手こずっているようでは、この国の人間を救うことなど、できませんよ? その役立たず……もといエルフは捨てたらどうです」

「……知らねえ誰かより、俺はアンジーの方が大事だ」


 ここでアンジーを見捨てて、人々を助けに行く選択肢は、俺にはない。そのせいで大勢死ぬとしても、だ。

 アンジーは、打ち所が悪かったのだろう。すぐに起き上がれずにいる。おまけに、腹を潰されかけたんだ……


「はぁ……ヤーク様……そのような、ことを言っては……いけませんよ」

「! アンジー?」


 俺の言葉をとがめるような、声。振り返れば、苦し気な表情を浮かべたまま、アンジーが立ち上がっていた。


「アンジー、休んでなって。ここは俺が……」

「なにを、言いますか……ヤーク様は、片手が、存分に使えないじゃ、ありませんか」


 アンジーの言うとおり……今の俺は、片手は使えない。使わなくても剣に添えることは出来るかと思ったが、それも難しそうなのでただぶら下げている。

 とはいえ、傷の話をするなら……そもそもアンジーは、結界の影響で満足に動けない。


「私のことなら、大丈夫……他の場所も、きっと。旦那様も、います……ですから、今は目の前の、敵のことだけ……」

「……わかった」


 こうなれば、早く片をつけて、アンジーを休ませる。それくらいしか、アンジーを納得させられそうにない。

 もしも結界さえなければ、この傷をアンジーに治してもらえるのだが……ないものねだりをしても、仕方ない。


「やれやれ、力の差は見せたつもりですが……いいでしょう、存分にお相手差し上げますよ。元より、国の制圧は私がいなくても容易いこと。制圧が終わるまでの間、暇つぶしとさせていただきましょう」


 ……これが、魔族の力か。それに、威圧感……転生前、魔族と対峙したことはある。だがそのときは、頼もしい仲間がいた。

 この体で、魔族と対峙するのは初めて。アンジーは頼もしい、だが俺含め、万全ではない。

 だが、そんなもの弱音にすらならない。魔族なんかに、好きにさせてたまるか!
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