復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

ロイvs魔族

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 ……世界が、ゆっくり動いているように、感じられた。人の動きが、風の動きが、なにもかもが。

 俺は、手を伸ばす……しかし、その手は届かない。当然だ、世界がゆっくりになっているということは、俺の動きもゆっくりになっているということ。

 届かない、届かない……俺の手は、また俺の大切なものを守れない。

 それも、シュベルトの時とは違う……俺の、目の届く。手の届く範囲にいて、それでも、助けられない……自分への怒りが、湧いてくる。

 やりきれなさが、悔しさが、湧き出て、そして…………


「アンジー!!!」


 ……ズシャッ……!


 目の前の光景を、ただ見ていることしかできなかった。

 倒れたアンジーに、魔族が迫り……その手には、剣を持っていた。それを、アンジーに振り下ろして……

 鮮血が、舞った。


「ぁ……っ……」


 舞った血の色は……赤色では、なかった。


「かっ……」

「?」


 アンジーを襲った魔族は、うめき声を上げて倒れた。舞った鮮血は、アンジーのものではなく魔族のものだ。

 魔族が、斬られて、倒れた……その光景は、一瞬、夢かと思うほどで。それでも、確かに現実だった。

 魔族を斬り、アンジーを助けた人物。そこに、立っていたのは……


「アンジーに、手を出すな……!」

「せ、先生!?」

「ロイ、様……」


 そこには、一人の男が立っていた。剣を構え、振るったことで刃に付着した魔族の血を振り払う。

 ロイ・ダウンテッド……俺の剣の先生である人物が、そこにいた。


「先生、先生……!」

「やぁヤーク。お久しぶりですね。元気にしてましたか?」


 先生とは、久しぶりの再会だ。俺が学園に入ってからは、会っていない。

 だが、実家にはよく顔を出しているらしい。なんでも、キャーシュの家庭教師……もちろん剣の、ではない。勉学のだ。ロイ先生は頭もいいのだ。

 それに、先生はアンジーといい仲のように見えた。家に通っているのは、それが理由でもあるのだろう。


「先生、えっと……なにから、説明すればいいか」

「大丈夫。なにが起こっているかは、ここに来るまでの間に大方」


 先生は、国中に現れた魔族の存在に、異変を察知して魔族と戦ってくれていた。その中で、俺たちの姿を見つけたのだという。

 俺たちを見つけたのは偶然だが、その偶然に今は感謝したい。


「ほぉ……『勇者』以外にも、戦える者がいたのですね」

「!」


 先生の姿を見て、あの魔族が興味深そうにつぶやく。

 やっぱり、勇者の……ガラドの存在を、知っている。知っていて、仕掛けてきたっていうのか。


「あの程度の魔族なら、戦える者はたくさんいると思いますが?」

「そうですか。私の調べでは、この国で魔族に対抗できる人間は『勇者』ガラド、『癒やしの巫女』ミーロ、……以前勇者パーティーと呼ばれた者たちくらいだと思っていました」

「!」


 この国にいる、2人の名前……その中に、俺(ライヤ)の名前は入っていないか。

 実際、単体で魔族と戦える力なんてなかったから、仕方ないが。……ん、2人?


「残りの勇者パーティーメンバー、エーネとヴァルゴス。エーネは現在、エルフの森に。ヴァルゴスは行方知れずとなっている。勇者パーティーの力は、文字通り半減……容易いと、思ったのですが」

「ぇ……」


 魔族の口から、予想もしていなかった事実が語られる。ヴァルゴスが……行方知れず?

 確かに、ヴァルゴスの情報だけは、いくら探しても得られなかった。積極的に探そうとしたわけでもないが、かつての勇者パーティーメンバーなら、そのうち勝手に見つかると思っていた。

 まさか、行方知れずになっているなんて……


「さらに言うなら、『癒やしの巫女』は戦闘向きではない。この国に、もはや我々魔族と渡り合えるのはひとりだけ……そう、思っていたのですがね」

「あてが外れたな」


 魔族の言葉を受けても、先生は動揺することなく剣を構える。アンジーを守るように、立ちながら。

 そして、それからしばしの沈黙……動きがあったのは、僅か数秒後だった。


「はっ……!」

「ふっ……!」


 その場から消えるように、互いに接近し……剣と腕とが、激しくぶつかり合う。

 金属同士が打ち合ったような、激しい音が響いた。


「っ、さっきの魔族とは、まるで違うな」

「あなたも、人間にしては素晴らしい力を持っている」


 その後何度か、互いに打ち合う。剣が、腕が、交錯する。1本しかない剣に対し、魔族の対する腕は2本……単純に数の分が悪い。

 だが先生は、繰り出される腕をひとつひとつ丁寧に、払っていく。


「す、すげぇ……って、見とれてる場合か!」


 今のうちに、俺はアンジーの側へと駆け寄る。結界のチカラデ全体的に弱まり、さっきの魔法攻撃をもろに食らったのだ。

 アンジーはなんとか立ち上がろうとしているが、俺はそれを押さえる。


「アンジー、じっとしてて」

「し、かし……」

「大丈夫だから」


 アンジーがこれ以上無理をして倒れたら、俺も先生も悔やみきれないだろう。こんな時に、魔法さえ使えれば……

 不意に、人間は昔魔術を使えていたと言ったセイメイの顔が浮かぶが……それを、振り払う。ないものねだりをしても、仕方ない。


「ヤーク! アンジーを連れて、どこか、安全な場所へ! こいつは、私が……!」

「先生!?」

「安全な場所? はて……そんなもの、もう国中のどこにも、ありはしませんよ」


 先生を置いて、逃げろと……そんなこと、できるはずがない。だが、このままここにいても、仕方ないのも事実。

 迷う時間すら、しかし与えてはくれない。先生と魔族は、何度かの斬り合いの後距離を離す。


「いいですねぇ、その動き、気迫。実に私好みだ……しかし、それだけに惜しい。人間の体では、それが限界のようだ」

「……?」


 言って、魔族はなにもない空間に手を伸ばす。そして、まるで鞄からなにかを取り出すかのように、手を探らせ……なにかを、掴んだ。

 そのまま、なにかを引っ張り出す。……なにもない空間から、出てきたのは、黒い刀身の剣だった。
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