173 / 307
第7章 人魔戦争
現状把握の一手
しおりを挟む俺たちは魔族にいいように遊ばれ、そのうちに城は落とされた。
気を回せば、周囲ではすでに人々の悲鳴すらも聞こえない。それは、誰もが魔族に拘束されたっていうことなのか。
「さて。あなた方も、共に来てもらいましょう」
「……共に、だと?」
「えぇ。あなた方も、他の皆さんが心配でしょうから」
……つまり、俺たちも捕らえて、捕らえられた他のみんなと一緒に固めておこう、ってことか。
みんなの安否を確認するには、その方がいいのかもしれない。だが……
「断る。制圧だなんだと言っても、要はお前を倒せばいいんだろ」
「……やれやれ。あまり手荒な真似はしたくないのですがね」
俺は、剣を構え直す……が、魔族は構える様子すらなく、肩をすくめる。
そして……指を、鳴らした。
「なにを……わっ?」
魔族の行動の意味が、わからない……そこへ、突然後ろから、誰かに押し倒される。なんだ、なにも気配を感じなかったぞ?
正体を確かめるために、なんとか首を動かし、後ろを見る。そこにいたのは……
「ま、ぞく……?」
魔族だ……人々を襲っていた、魔族。それが、俺をうつぶせに押し倒し、腕を押さえ動けないようにしている。
こいつ、どこから……? 気配も、足音もしなかったぞ。
「先生……アンジー……!」
先生とアンジーも、同じように魔族に押し倒されている……が、俺は見た。
魔族が、先生の、アンジーの、影から出てきたのを。
「まさか……影に、潜んで……?」
そう考えれば、国中に魔族が現れた理由も、説明がつく。どういう手段かは知らないが、魔族は俺たちの影に、潜んでいた。
くそっ、油断していたわけじゃないのに……! 多分、あの魔族よりは弱いだろうに……強い力で、振りほどけない!
「では、行きましょうか。大丈夫、殺しはしません。我々は平和的話し合いを持って、あなた方にもわかってもらいたいだけです」
……平和的とか、どの口が言うんだ。
アンジーも、先生も、もう動けない。なら、俺がなんとかしないといけないのに……魔族一体にすら、なにも出来ないのかよ。
無理やり立たされ、歩かされる。このまま抵抗も出来ずに、こいつらに従わないといけないのか……
……シュッ!
「がっ……」
……音も聞こえないほどに、鮮やかな一閃。それが、俺を捕らえていた魔族を襲う。視界に映ったのは、ただ銀色に光る剣だけだ。
突然の出来事に、俺は解放されるもそのまま倒れそうになり……誰かに、支えられた。
「! これはこれは……思わぬ人物が現れましたね」
「……」
「どうも、お初にお目にかかります。『勇者』ガラド・フォン・ライオス殿」
俺を支えているのは……俺を助けたのは、ガラドだった。
「ガ……父上?」
「よぉヤーク。少し遅くなってしまった」
かつて魔王を討ち、『勇者』と呼ばれた男……なぜ、こんなところに?
そりゃ、国中で異変が起こっているのはわかるだろうが……どうして、ここに。
「立てるか、ヤーク」
「え、えぇ。父上……あの……」
「まあ、聞きたいことはあるだろうが。それは後だ」
ガラドは、魔族から目を離さない。そうだ、今は魔族の対処が先だ。
情けない話だが、ガラドの力があれはこの場を切り抜けられる。ガラドの力は、俺が一番よくわかっている。
「隙を作る。そのうちに逃げるぞ」
「はい。……はい?」
思わず、聞き返してしまう……今、この男なんて言った?
逃げると、そう言ったのか? この状況で?
「なんで……! 父上なら、この場を切り抜けることだって……」
「買いかぶり過ぎだ。あの魔族相当出来る……それに、情けない話だが……」
言って、ガラドは右腕を見せる。そこからは、おびただしいほどの血が流れている。
転んで怪我をした……なんて、かわいいものではない。
「それ……まさか、魔族に?」
「あぁ、ここに来るまでに随分と手こずってな。このざまだ」
万全ではない……それが、逃げる理由なのか。いや、それだけではないのか?
というか……魔法が使えない結界の中でも、母上なら、『癒やしの巫女』と呼ばれるミーロなら、これくらいの傷治せるはずだ。
……ミーロは、どうした?
「詳しい状況も、まだ呑み込めていない。それを理解するためにも、ここは一旦引く」
「けど……なら、アンジーと先生も……」
「……殺すつもりなら、すでにそうしてるはずだ」
つまり、今は放っておいても、すぐに殺されるわけではないと……言わんとすることは、わかるが。
だが、すべてを納得して逃げに徹したところで……逃げられるのか? こいつらから。
気づけば、すっかり魔族に囲まれている。国中の、人々の影から出てきた魔族が集まっているのか。本当に、みんな捕まったのか。
「今は悔しいが、逃げるしかない。お前も、その手、万全じゃないだろ」
「っ……」
「この場の魔族を倒せたとして、それですべてが解決するとは、俺は思えん。逃げとは言っても、現状把握のための撤退だ。……逃げるくらいなら、なんとかやれる」
現状把握のための、撤退か……悔しいが、それが一番の手か。
この場は、嫌だが……本当に、嫌だが。ガラドと、協力して、逃げるしかない。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる