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第7章 人魔戦争
今後の方針
しおりを挟むこの2日間で起こったことは、あまりに大きな問題だ。なんせ、国中の人間の大半が今や起きぬ眠りについている……
国王が亡くなりシュベルトが殺されたあのとき以来の大事件……規模だけで言えば、あのときを遥かに上回る。
その原因を作り出した魔族は倒したが、果たしてそれですべてが解決するのか……それは、俺にも誰にも、わからなかった。
「……とにかく今は、眠ってしまった人々が起きるのを待つしかない……な」
腕を組み、ガラドは言う。街の復興をするにも、今いる人数だけでは全然足りない。国中の人間全員の力を合わせて、どれだけ時間がかかるかというほどだ。
人手を考えれば、人々が目覚めるのを待つしかない。……だが、眠ってしまった人々が、いったいつ、目を覚ませるのか……それが、実際にはわからない。
魔族を倒したのだ、さすがにこのままずっと目覚めない、なんてことはないと思うが……
「国内の被害確認、そしてエルフ族の故郷ルオールの森林の確認……おおまかには、この2つを解決していきましょう」
これまでの話を纏め、リーダ様が言う。もう、魔族の脅威に怯えることはなくなったのだ……ならば、格段に動きやすくなった。
人々が目覚めるまでの間、現状をこの目で確認しておくのも、大切だ。
「待ってください」
そこに、ひとりの貴族が手を上げる。
あのおっさんは……今朝、食堂で騒いでいたおっさんか。リーダ様がいるからか、その様子はおとなしく見える。
「なにか、ドーバさん」
「エルフの森への調査に人員を割くのは、いかがなものかと」
発言の先を求められたドーバというおっさんは、今纏めた話に意義があるようだ。
正確には……エルフの森へと、確認しに行く人員を割くことを。
「それは……どういう?」
「簡単な話です。確認するまでもなく、この国はボロボロです。一刻も早い復旧が必要でしょう、でなければ隣国にいつ異変を気取られるか。そんな時に、ただでさえ少なくなっている人数を減らす意味はない」
「……」
なるほど、それがドーバの意見か。あくまで国の復興が最優先、他のことは後回しでいい。
だが……それは、エルフ族のことを軽んじている。いや……気にかける必要すらないと言うように、聞こえる。
「今残っている人数だけではなにをするにも不十分。だから、できることは確認のみ……それを実行するという話で纏まったはずでは?」
だから俺は、思わず口を出していた。
「纏まった? 私は、賛同した覚えはありませんよ」
「……」
「今残っている人数をさらに減らす意味はない、と言っているのだ。それに、本当に魔族の襲撃は終わったのか? またなにかあったとき、少なくなった人数で対処できると?」
「それは……」
「それにエルフの森が焼失したと、言ったのはキミだろう? それを、わざわざ確認しに行くことのなんの意味がある。しかも、1日2日でたどり着く距離ではないのだぞ」
「っ……」
確認することに、意味はない……そう言われ、俺は思わず言葉を詰まらせていた。
俺はその光景を見たわけではない。魔族の言葉だけを聞いただけだったら、信用できずに無理にでも行っただろう。
だが……ヤネッサが。その目で、見てきたであろう彼女が、言ったのだ。目の前で、森が燃えたと。
「ヤーク様……」
実際、ルオールの森林が燃えていたとして……そこにたどり着いて、俺に出来ることはあるか? なにもなくなった跡地を見て、俺になにが出来る。
「時間の無駄だ、エルフ族に構っている暇などない」
「!」
このおっさんの言葉は、正論だ。昨日、そして今朝の件からただ横暴な人物かと思っていたが、そうではないのだ。
だが、今の言葉は……エルフ族のことを軽んじる言葉は、聞き逃せない。
「あんた……」
「ヤーク様、ダメですよ、ここで感情的になるのは」
とっさに言い返しそうになる俺の手を、ミライヤが掴む。止めてくれるな、と振り払おうとしたが……ミライヤの手は、震えていた。
ミライヤだって、なにも思っていないわけじゃ、ないのだ。
……元々エルフ族は、人間族に差別されてきた。その認識が改まったのが、魔王討伐のメンバーの中にエルフ族……正確にはハーフエルフ……のエーネがいたからだ。
以降、アンジーがウチで働いているように。エルフ族は国に馴染んできた。だが、まだエルフ族に対し、いい印象を持っていない者もいる。
このおっさんも、おそらく……
「こほん。エルフ族を軽んじるような発言はともかく、ドーバさんの意見には一考の余地があります」
「っ……」
一瞬肩を跳ねさせたドーバは、ほっと一息つく。自分の発言を問い詰められなかったことへの、安堵か。
ともかく、このままではおっさんの意見が取り入れられそうだ。実際に、魔族がまた襲ってこないってのは希望的観測……なにが起こるか、わからない。
人々がまだ眠ったままなのが、証拠だ。まだなにかあるのではと、疑心を植え付けるには充分。
「できれば、そのヤネッサさんからも話を聞きたいところではありますが……」
「……ヤネッサは、今クルドが見ています。それに……」
彼女に、目の前で故郷が焼かれたときの話をさせろと? そんな酷な話、させられるわけがないだろう。
大切な人が殺されたんだ。そんなことを、思い出させて、話させるなど……
「大丈夫、私が見たことを話すよ」
ふと、この場にはなかった声が響いた。それは、部屋の入り口から聞こえてくるもの……
全員の視線が、一斉に一か所に向く。そこに立っていたのは……
「ヤネッサ……」
ヤネッサが、クルドに支えられた状態で、立っていた。
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