復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

救出に向けて

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 ……廊下に、足音が響いていた。タタタッ、と、3人分の足音だ。

 いつも通っていた廊下のはずなのに、どうしてか、とても冷たく感じられる。


「ヤネッサ、ヤークの場所はわかる!?」

「うんと……こっち!」


 先導するヤネッサに従い、ノアリとアンジェリーナは、潜入に成功した騎士学園の内部を、走っていた。

 ヤネッサには、においを敏感に察知する鼻がある。どれだけ離れていても、対象のにおいは決して忘れない。

 その特技……と呼んでいいのかわからないが……に頼る形ではあるが、ノアリたちはヤネッサを頼りにしていた。


「それにしても……大丈夫、でしょうか」

「ん?」


 隣を走るアンジェリーナが、不安げな表情を浮かべている。捕まっているヤークワードのことを気にかけているのだろうか。


「先ほどの……シン・セイメイさんでしたっけ」


 違ったようだ。もちろん、ヤークワードが心配じゃない、というわけではないだろうが。

 それでも、直前のあの男の安否も、気になっているらしい。


「大丈夫よ、あの男なら。アンジェさんも見たでしょ? あいつの力」

「えぇ」


 セイメイとの死闘、それは途中参戦だったアンジェリーナも、目撃している。その力を見て、不安に思うのは、相手があのクロードだからだろうか。

 そんなノアリの考えに、アンジェリーナは小さく首を振る。


「あの人の安否、というのもそうですが……」

「なにか、別の心配事でも?」

「……他にも、クロード先生のような方が、私たちの妨害をしに来ないかと」


 アンジェリーナが抱える不安。それは、自分たちのことだ。

 クロードが飛び抜けて、とはいえ、他の教師だって敵に回ったら厄介なことこの上ない。それに、クロードに並ぶ実力者もいないわけではない。

 入り口では、セイメイに任せる形で学園内に入ることができたが……


「話しても、わかってくれそうにないし」


 先ほどクロードに呼びかけても無駄だったように。他の教師に、ヤークワードを返してくれと話しかけても、それは無駄に終わるだろう。

 そもそも、どれだけの数が、ヤークワードを捕らえることに協力しているのか。それに、真相を知っているのか。

 ここまで来てなんだが、敵の数も思惑も、未知数なのだ。


「それにしても、さっきから誰とも会わないわね。入り口でもあんなに騒いでたのに」

「先ほどの爆発を調べに行っているのではありませんか?」

「ふふーん、なぜ誰とも出くわさないか。それは……私が、人のいない道を選んで進んでいるからだよ!」

「ヤネッサナイス!」


 薄い胸を自慢げに張るヤネッサ。どうやら、彼女にはヤークワードへの案内とは別にも、現在進行系でお世話になっているようだ。 

 ヤネッサの鼻があれば、人がいない道を選ぶことも、簡単だということだ。


「ま、あの男のことは今は置いておきましょ。それより、気になるのは……」


 味方とは言いにくい男ではあるが、目的は同じ。そのために、クロードを足止めしてくれるというのなら、これ以上に心強いことはない。

 あの男の力は、一度戦った自分たちがよく、わかっている。

 それよりも、気がかりがあるとすれば……


「ミライヤ……」


 裏門に、ひとり残されたであろうミライヤだ。

 人払いの結界により、セイメイと対峙したことのあるノアリたち以外は、結界……つまり学園の外へと、弾き出されてしまった。

 そうであるならば、ミライヤと一緒のはずのアンジー、ロイ、ミーロも弾き出されてしまったはずだ。


「あぁもう、気になるぅ!」


 先ほどは、セイメイとクロードとのごたごたで、裏門にまで確認に行く余裕がなかった。だが、本当なら今すぐにでも裏門に向かいたい。

 とはいえ、ここから裏門まで距離がある。すでに結界が張られて時間が経っている以上、ずっとじっとでもしてくれていないと、すれ違いになってしまう。

 そう、ノアリが悶々していると……


「きっと、大丈夫だと思いますよ」


 アンジェリーナが、ノアリを安心させるような優しい口調で、言う。

 大丈夫……それは、希望的観測というよりも、どこか確信あっての、言葉に思えた。


「どうして……」

「……彼女は強いです。あなたも、わかっているでしょう?」

「……」


 それは、根拠というよりは希望的なものに近い。だが、下手な根拠を出されるよりも、よっぽど信頼できる言葉だ。

 そうだ、ミライヤは強い。ノアリが、それを一番良くわかっているではないか。

 この、貴族だらけの騎士学園で。平民という、見下される対象にありながら折れることなく在席し続けた。

 それに、彼女の居合いは目を見張るものがある。精神的にだけでなく、技術的にも、彼女は強いのだ。


「……そうね、きっと大丈夫」


 ミライヤもきっと、この状況下でやるべきことをやっているはず。だからノアリたちも、進もう。

 一同その思いを胸に、走り続ける…………


 ----------


「あ、アンジーさん……ロイさん……ミーロ様ぁ……みんな、どこ行っちゃったんですかぁ……? こ、こんなところで、ひとりに、しないでくださいよぉ……」


 裏門で、たったひとりになってしまった少女は、目に涙を溜めて、うろうろしていた。
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