250 / 307
第8章 奪還の戦い
許せない悲しみ
しおりを挟むバチバチッ……と、まるで稲妻が迸るかのごとく、魔力が弾け飛ぶ。
身体中から雷が走る……この現象は、鬼族の特徴によく似ている。現に、鬼族の血が覚醒したミライヤも、迸る雷を操っている。
だが、そもそもとして雷と、雷のように見える魔力という違いがあり……なにより……
「う、うぅ……!」
今のヤネッサは、怒りに呑まれてしまっている。抑えきれない魔力が、あふれ、周囲に被害を及ぼしている。
なにがあったのか、ノアリたちにはわからない。だが、尋常でない事態であることは、確かなのだ。
「ヤネッサ……!」
暴走……その経験は、ノアリにもある。そのときは、ヤークワードとクルドが必死の思いで止めてくれた。
が、今のヤネッサは、単なる暴走とも違う。
目からは涙を流し、歯を食いしばり……まるで、なにかを悲しんでいるようにも、見えるのだ。
「ねえ、どうしたの、ヤネッ……」
「ゆる、さない!」
ノアリの声も、届かない。ヤネッサはついに、その場で叫ぶ。
感情の昂りに呼応するように、あふれる魔力も激しさを増し……周囲を、傷つけていく。
このままでは、ヤネッサの魔力で学園が崩壊してしまうのではないか……そう、思われたとき。
「ぁ、ぐっ……!」
「!?」
突如、ヤネッサの体がよろめく……鮮血が、舞う。
まるでスローモーションのように、ヤネッサの体が倒れていき……
「ヤネッサ! ヤネッサァ!」
見えた……ヤネッサの肩が、撃たれたのだ。狙撃手は、先ほどヤネッサが倒したのではなかったのか。
いや、新手が現れたのだ。それが、ヤネッサを狙撃した。
魔力があふれ出しているとはいえ、無防備であることには変わりはない。近づかなければ、被害もなく狙い撃ちすることができる。
「くっ、そ……!」
再び向かってくる弾丸を、今度は弾くノアリ。先ほどヤネッサに助けてもらったばかりだ、ここで全滅することは避けたい。
ヤネッサ野介抱はアンジェリーナに任せ、ノアリは弾丸の飛んできた方向を見つめる。
「うぅう……らぁあああい!」
「!?」
ノアリは、己の中に流れる竜族の血に意識を集中させ、身体能力を向上させる。
こちらへ狙いを定めている狙撃手を、逆に見定め。瞬間的な移動で、まるで消えたかのように錯覚。
狙撃手の目の前に現れたノアリは、その顔面を容赦なく蹴り飛ばした。
「げはっ……!」
間抜けな声を漏らし、吹き飛ばされるのはやはり教員。
大丈夫だ、殺してはいない。ただ、少しの間じっとしておいてもらうだけだ。
「ここは、もう危ない」
図らずも、先ほどの狙撃により、ヤネッサの暴走は多少の落ち着きを見せた。
とにかく、ここに自分たちがいることがバレている。このままにしていたら、また続々と新手が来ることだろう。
「アンジェさん、ヤネッサ! ここから移動するよ!」
「え、えぇ……わぁ!?」
言うや、ノアリはアンジェリーナとヤネッサ、それぞれを抱える。
本来、ノアリが2人を抱える……ましてやその状態で移動するなど、不可能であるが……
「の、ノアリさん、その姿は……!?」
視線を動かし、ノアリの姿を認めたアンジェリーナは、驚愕に声を震わせる。しかしそれは恐怖からではなく、純粋な驚きから。
「あはは……そういえば、アンジェさんには見せたこと、なかったでしたっけ」
そう苦笑いを浮かべるノアリの皮膚は、朱色の鱗に覆われ……気のせいではないだろう、翼や尻尾のようなものまで、生えている。
これは、竜人たるノアリの姿……思い返せば、この姿を見せたことがあるのはごく限られた人間だけだ。
「説明は、後! 舌噛まないでくださいよ!」
「えっ……あぁ!?」
瞬間、アンジェリーナは風になった……いや、そう錯覚しただけだ。
アンジェリーナとヤネッサを抱えていては、ノアリは得物を持つ手が塞がってしまう。だが、ノアリひとりが対応するより、2人を連れてこの場を離脱するべき……そう、判断した。
その速度は凄まじく、アンジェリーナは思わず悲鳴を上げそうになってしまう。だが、そのために口を開くことすら、ためらわれる。
「……っ」
……騎士学園は広い、とはいえ、これだけの速度で走れば、すぐに行き止まりに突き当たる。
軽く息を整え、ノアリは2人を下ろした。元々気を失っていたヤネッサはともかく、アンジェリーナはとても見せられない顔をしていた。
「う、うぅ……気持ち悪い、です……」
「あはは、すみません……」
酔ってしまったのか、その場で軽く咳き込み、アンジェリーナは息を整える。そして、その視線はノアリへ。
改めてじっと見つめられると、照れる。
「とりあえず、ここまで来たら安心だと思うけど……っと、ヤネッサ!」
場所は移した、ここは先ほどよりは安全なはずだ。なので、次はヤネッサの治療だ。
幸いにも、被弾したのは肩……命に別条はない。ノアリは迷うことなく、スカートを少しちぎり、切れ端で傷口を押さえる。
自分にも魔法が使えれば、こんな怪我すぐに治せるのだが……
「よし、っと」
ヤネッサの応急処置は済んだ。
しかし、道案内に頼みのヤネッサは気絶し、起きてもまた暴れないとも限らない。その上、道を適当に走ってきてしまった。
ここは、どこだろう。そしてヤークワードは、どこにいるのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる