283 / 307
第8章 奪還の戦い
即席のチームワーク
しおりを挟む魔族と真っ向打ち合うヤネッサ。手に持つ矢を剣のように振り回し、魔族へと斬りつけていく。
『魔導書』事件の一件で、右腕を失ったヤネッサは当初は慣れない動きに苦労したものの、今では左腕のみでも生活に支障はない程度にはなっている。
それはあくまで生活には支障がないレベルだ。こうした極限の戦いに、しかも魔族を相手にしてそう長い時間耐えられるかというと……
「動きが乱れていますよ」
「っ!」
何度か打ち合ったその後、腹に蹴りを入れられる。その場に踏ん張り数歩後退りした後、その場に膝をついてしまう。
片腕がない、それだけでも重心のブレや、単純に体力の低下がある。もはや左腕のみの生活に慣れたとはいえ、舞台が戦いの場ともなると話は別だ。
ヤネッサ自身、それはこれまでの経験で、痛いほどわかっている。
「あなたは……あぁ、以前あの森を焼き払ったときの、生き残りでしたか」
「!」
「その後、どうです? お仲間の弔いなどは……あぁ、そんな暇はありませんでしたね。これは失敬……」
「お前……!」
ヤネッサを見下し、魔族は煽るように口を開く。それが挑発だとわかっていても、ヤネッサは反応せずにはいられない。
怒りに目を見開き、顔を上げる……そこには、憎き魔族の姿があって。
……その背後に、飛びかかるアンジェリーナとリィの姿があった。
「やぁあ!」
「せぇい!」
「む……」
声が上がる前から気配には気づいていたのだろう、剣を振るわれる位置に、先んじて防御するように魔族は腕を動かす。
横薙ぎに払われた刃は、魔族の鉄のような腕に受け止められて……
「っ、また……!」
苦悶の声を漏らす魔族。その理由は、アンジェリーナとリィの剣を受け止めたことによるものだ。
竜族の攻撃さえも軽くいなす魔族にとって、人間の小娘が放つ攻撃などたかが知れているだろう。
だが、今放たれたのはただの、人間の小娘が放った刃ではない。魔術により強化された、刃だ。
「ぬっ……!」
魔族は、力を込めて刃を押し返す。人間の攻撃が、こうもダメージになるとは……つくづく、あのエルフの魔力は厄介だ。
彼を先に始末したいが、そのためには立ちふさがる相手が多い。
そもそも、魔族にとってエルフ族を相手にするのは前回の襲撃が初めてだ。ルオールの森林ではエルフを結界内に閉じ込めた上で燃やし、対峙したアンジーやヤネッサは結界内で魔力が使えなかった。
これがエルフ族の、本来の戦い方なのだろうか。
数の差は承知の上で姿を現したが……
「少しばかり、早計でしたか」
軽く舌を打つようにして、魔族は己の行動が逸ったか後悔する。だがその一方で、あのタイミングしかなかったとも思うのだ。
あのまま彼らが結界の外に出てしまえば、戦力はさらに増す。その上、今正門で暴れているが、用がなくなればさっさと撤退するであろうシン・セイメイの存在もある。
さすがにアレを相手にはできない。
「もっと早ければ、よかったのですがね」
迫る無数の刃をなんとかかわしながら、魔族はタイミングの悪さを呪う。
そもそも、あの男……騎士学園の校長であるゼルジアル・フランケルトにあの薬を渡したときから、全ては始まっていた。
あれは魔力を感じられるようになる一方で、だんだんと魔物に変化してしまうものだ。そして、最終的に魔物になってしまえばもはや人間とは呼べなくなる。
さらに、ゼルジアルが変化した魔物は、魔族にとって自分が死んだときのための保険。魔を通じて、死んだ己を復活させる。転生とは、また違った方法だ。
あれは、ゼルジアルを依り代とし、自分が復活するための布石。それが、この魔族とあの薬が揃えば可能だった。
「せめて学園の中なら……」
ゼルジアルが倒され、その後魔族が復活するには時間がかかる。魔族が復活したタイミングが、せめてヤークワードたちが学園の外に出る前であったなら。
魔族が目を覚ましたときには、すでにヤークワードたちは学園を出る寸前。だから、せめて先回りをして待ち伏せていたが……
学園の中のような狭い空間であればともかく、このような開けた空間では、数の差はより大きなものとなる。
「ぬん!」
刃をかわす中で、魔族は行動を変える。己の中の魔力を手先に集中させ、魔力による剣を作り出す。
ただでさえ鉄のように硬い魔族の体、しかしそれはもはや、エルフの魔術の前では意味をなさない。
だから、こうして武器を手に打ち合うことで、形勢の逆転を目論む。
だが……
「はぁあああ!」
「せぇい!」
子供とはいえ、騎士学園で剣術を学んできた生徒たち。対して魔族は、全身が武器ゆえにその一芸には長けているわけではない。
そもそも強力な魔力は、震えばそれだけで圧倒的な力となる。
それを知ってか知らずか、よりによって竜族の娘と鬼族の娘がコンビネーションを交えて、魔族の反撃の手を摘んでいく。
「前は、悔しいけど一対一だったから負けた! でも……」
力押しに刃を振るう竜族は、以前の雪辱を悔しがるように唇を噛む。
悔しいが、ひとりでは勝てない。けれど、こうして誰かと……友達と一緒ならば。どんな敵にだって、打ち勝てる。
ノアリをサポートするように、あらゆる角度から攻めるミライヤ。一方に気を取られれば、一方に押し切られる……そんな、ギリギリの状態に、魔族は……
「鬱陶しい、ですね……!」
自身の魔力を高め、反撃を試みる。左手側にもう一本、魔力による剣を作り出し、二刀として剣を振るう。
これにより、なんとか2人の攻撃を捌くことはできる。が……
「っ」
そんな2人の間をすり抜けて、遠距離からの攻撃が放たれる。
ヤネッサの魔法と、エルフの魔術。それを避けても、人間の娘による攻撃が再び入り込む。
即席のチームワークではあるが、確実に魔族は、追い詰められていった。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる