復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第9章 復讐の転生者

世界の転換点

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「竜が、いる」


 外に、いや天にいるという圧倒的な存在。アンジーはそれを、『りゅう』だと言った。

 それを聞いてまず思い浮かぶのが、竜族であるクルド。彼と同類の存在。同じ竜族の、誰か。

 しかしそれが、なぜこの場に現れたかは、一切不明で。


「なんなのです、その、りゅうというのは」


 おずおずと手を上げ、アンジェリーナが聞く。彼女は、クルドと会ったことがなかっただろうか。

 とはいえ、同じ疑問を抱いた者は多いだろう。それらに答えるため、アンジーは軽くうなずく。


「龍とは、遥か昔に存在した、伝説上の生き物とされています」

「伝説の?」

「はい。その姿は、大蛇のように長い胴体で、4本の手足。それに、硬い鱗を持つとされています」

「……ん?」


 アンジーの語る、『りゅう』の特徴……しかし、その姿の情報を聞いて、ヤークワードの中にようやく別の疑問が生まれる。

 彼女の語った『りゅう』の姿、それがヤークワードの知る竜……クルドのものと、大きく違っていたからだ。

 鱗や、手足は問題ない。問題なのは、大蛇のように長い胴体、というもの。


「ねぇ、それって、竜族とは違うの?」


 同じ疑問に至ったのか、ノアリが疑問をぶつける。クルドとも交流があり、なにより自らも竜族の血を取り込んでいるのだ。気にならないはずがない。

 竜族、と単語を受け、アンジーは緩く首を振って。


「竜族、とは、ヤーク様やノアリ様が言っていたクルド殿のことですね。同じようで、明確に違います」


 きっぱりと、言い切ったのだ。


「そう、なの……」

「私も、書物での情報しかわかりませんが……竜族とは、種族として昔、この世界に君臨していた4つの種族のひとつ」


 アンジーの話を聞きながら、ヤークワードは思い出す。確か、セイメイも同じようなことを言っていた。

 竜族、鬼族、魔族、そしてエルフ族……かつて命族と呼ばれた4つの種族が、この世界に存在していたと。今は、人と共存しているエルフ族、人知れず暮らしている竜族、復活した魔族がちらほらといる程度だ。

 その、数少なくあったエルフ族も……


「しかし、龍とは……世界に、ただ一体しか存在しないとされる存在」

「ただ一体……」


 感傷に浸りかけていたヤークワードの意識は、再び話を始めたアンジーへと戻される。龍の存在なんて、セイメイからも聞いたことがない。

 まさか、知らないとも思えないが……まあ、あの状態で話す内容でもないだろう。


「私、知らない……」

「ヤネッサは、難しい本とか読まないでしょう」

「うっ」


 エルフの森にあった書物であるなら、ヤネッサの目にも触れているはずだ。しかし、彼女はそれを読んだことはない。難しい本は読まない性格なので、当然だが。

 そのヤネッサは、今なお、ミーロに回復魔法をかけ続けている。無駄かもしれないとわかっていても。

 結界を維持するため、アンジーにはそちらに集中してもらいたい。


「けど、その龍ってやつと、外で起こってる現象、なんの関係があるの?」


 外に存在するものの正体はわかった。あくまでアンジーの推測ではあるが。

 それでも、龍と外の現象の説明がつかないのも、事実だ。


「書物によると、龍が現れるときは、世界にとっての転換点……と。世界が変わるかどうかの瀬戸際に現れるとされています。その存在感は、出現するだけで周囲に影響を及ぼすと」

「……なんかスケール大きすぎて、いまいちピンとこないわね」

「じゃ、じゃあ、これはあの龍が自発的にやってるわけじゃないってことですか……? 世界の転換点って……?」

「!」


 交わされる会話、その中で、ヤークワードには心当たりがあった。龍だとか世界の転換点だとか、ノアリの言うようにスケールが大きすぎる。だが、そうなりかねない要因に。

 そっと、己の胸元に手を当てる。自分が、魔王の生まれ変わりだとして……それが、復活するまであと半年。それが、世界を滅ぼすのだとしたら?


『本来存在しえない命……それが生まれたことが、『歪み』となり、少なからず世界に影響を与えることになる』


 以前セイメイは言っていた。転生者が新しく命を授かる場合、それは世界の『歪み』になるのだと。


『主、周りでなにか……異常なことはなかったか? なにか、大きな事件とか』

『不可解な出来事、と言ってもいい。それが、主が転生したことにより発生した歪みじゃ』


 思い当たることは、多い。『呪病』事件、『魔導書』事件、魔族が現れたのだって……本来、あり得ない事象のはずなのだ。

 そして今、またもあり得ないものが、空に君臨している。もしも、アンジーの言う通りなら……ヤークワードの中にいるかもしれない魔王は、以前ガラドたちが倒したものとは別次元の可能性がある。

 あまりに大雑把な理由。けれど、そう、思えた。


「世界の転換点とかなんとか知らないけど、その龍が今、たくさんの人を殺してるじゃない!」

「本人にそのつもりはない……ということでしょうね」

「はた迷惑すぎるわよ!」

「今は、この状況をどうするかが先決だ」


 ここで言い合っていても仕方がない。あれが龍だろうが世界の転換点だろうが、このままではみんな死んでしまうだろう。

 しかし、外に出れば瞬く間に押しつぶされてしまう。魔力で守ってもらえれば、ある程度は大丈夫だろうが……


「俺が、行く」

「ヤーク……?」


 そこで、声を上げるのはヤークワード……もしも、龍が現れた原因が自分にあるというのなら、自分が出ていけば、事態は収束するかもしれない。そう考えてのことだ。

 だが、それに納得する者は、もちろんいない。


「なにを言っているの、そんなのダメよ」

「そ、そうですよ!」


 ノアリが、続けてミライヤが首を振る。他のみんなも、同じ意見だ。

 自分が出て行って事態が収束する確信が、あるわけではない。それでも、ヤークワードは窓の外から天を睨む。


「こんなことになったのは、俺のせいかもしれない。だから……」

「? それって……」

「……」


 先ほど決めた覚悟、それとはまったく違う形で、決断を迫られている。

 だが、みんなを納得させるには……なにより、自分が納得するには、もうこれしかなかった。


「俺は…………魔王の、生まれ変わり。かも、しれないから」


 己の中に秘めていたものを……ついに、吐き出した。
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