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19.私の価値

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「毎度ありがとうございますっ!!」

結果、ギシャンは宣言通りこの店のドレス全ての代金を出してくれた。
サイズだけ測ってもらい、後日調整したドレスを侯爵家宛に送ってもらう手筈だ。
今日着るため1着だけは急ピッチで仕上げてもらったけど。
当初の予定では買えるのは3着くらいのつもりだったから嬉しい誤算ね。

デザイナーは泣きながら私とギシャンを崇めていた。
あまり繁盛してはいなさそうだったし滅多にいない太客に感動したのね。

そしてお店を出た後、ギシャンがさも当たり前のようにエスコートしようと手を伸ばしてきたため、問答無用ではたき落とす。

「まだ何か?」
「折角だしお茶でもと思ってね」

若干驚いた様子のギシャンだが、すぐ立て直した。
やっぱりこれくらいじゃビクともしないわね。

「生憎これから用事がありますの。お誘いはまた今度にしてくださいな」

にっこり笑って言い放つが、ギシャンに引き下がる様子はない。
そりゃあそうだろう。
決して安くはない値段のドレスをざっと50着は買ったのだ。何らかの見返りがあると思って当然。

今までの女ならば適当にプレゼントすれば喜んで股を開いたのだろうが、生憎私はそんな甘くない。

親にも愛されていなかったゲームのプレイシアは、少し優しくされただけで絆されたかもしれない。
だけど私は前世で散々愛されてきた。親からは勿論、友達も多かったし、男からのプレゼントだって腐るほど貰ってきた。

だからこれくらいのプレゼントで、私の気持ちは動かせない。

「じゃあ次会う時は期待してもいいんだね?」
「さあ? 何のことを仰っているのかさっぱりですわ」

一貫してとぼけた顔をしていると、さすがのギシャンでも表情が強張った。

もう一押し、かしら。

「…まさか、何の見返りもなしに買ってあげただなんて思ってないよね?」

にこりと笑みを浮かべるギシャンだけど、若干紫の瞳に焦りが見える。
やっぱりね。予想通りのセリフだ。
私からしたら、とんだ傲慢にしか聞こえないけれど。

「そちらこそ。で私をどうこうできるとでも? 私が欲しいのなら、全財産貢ぎなさい」

呆気に取られるギシャンを、優雅な笑みで一瞥する。

ふふ、やっと面白い顔が見れた。
この世にだってね、あなたの思い通りにならない女がいるものなのよ。
これで逆恨みするような男だったらはなから眼中にない。


次に顔を合わす時、彼はどんな反応をするか。
心底楽しみだと思った。
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