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V 彼の変化-II
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幼馴染である私は駄目で、目の前の女性は良かった理由とはなんだろうか。現に、今自身も彼の家に居る時点で矛盾も何も無いのだが、その違いに僅かに疑問を抱く。
しかし、それは嫉妬などの感情では無い。どちらかと言えば、好奇心の方だった。
女性だけでなく、人に関心の無かった彼が初めて見せた行動。それは、彼を家族の様に思っていた自身にとって喜ばしい事でもあった。
いつ死んでもいいと生に無頓着であり、生き続ける事に意味を見出していなかった彼が、初めて自身の意志で行動をしたのだ。仮にそれが、何処かの令嬢を匿う行為だとしても、仮に誘拐だったとしても、彼の変化はただただ嬉しく思った。
「惚れてないなんて言ってるけど、その服を熱心に選んでたのは誰だったかな?」
喜ばしさ故か、揶揄う様にセドリックの腕に抱えられている紙袋を指差す。
「……」
一瞬止まった彼の動きと、僅かに感じた苛立ち。少々、悪戯が過ぎたかもしれない、と思いつつもふふ、と笑うと彼が鬱陶しそうに顔を歪めた。
「――あ、あの、貴方は?」
鈴の転がる様な声が聞こえ、ベッドの方へ視線を向ける。
――しまった。完全に彼女を置き去りにして会話を進めてしまっていた。
今この状況を最も理解できていないのは他でも無い彼女だ。反省しながらも、彼女に優しく微笑みかける。
「あぁ、ごめんね。突然で、びっくりしたよね」
彼女から伝わるのは、疎外感と黒いもやもやした感情。彼女を見ている限り、我儘な令嬢、という訳では無い様だ。寧ろ、何処か謙虚で、何かに怯えている様にも見える。
「私はマーシャ・レイノルズ。貴女の話は……、まぁ、それなりにセディから聞いてる」
セドリックから色々と口止めされている事を思い出し曖昧に述べると、彼女が何かを察したのか、その顔に苦笑いが浮かんだ。それに釣られ、自身も苦笑する。
「貴女が生きていた世界と、私達が生きている世界は違う。と言っても、私達も正しい階級を持ち合わせている訳でも無いんだけど。でも、これから色々苦労する事もあるだろうし、私も貴女の力になれる事はある筈だからさ、気軽に頼ってよ」
「……ありがとう。――レイノルズ、さん」
想像していたよりも、ずっと淑やかで儚げな子だ。そんな彼女に、マリアの姿が重なる。
マリアも、彼女の様に淑やかな女性だった。いつも何かに怯えている様に生きていて、消えてしまいそうな儚さを孕んだ存在。喉が詰まる様な苦しさを覚え、自身の心を誤魔化す様に「マーシャでいいよ」と軽やかな口調で告げた。
「服、色々とマーシャに用意させた。サイズは……多分大丈夫だと思うんだが」
私と彼女の間に割って入ったセドリックが、服の入った紙袋を彼女の膝の上に乗せた。落とさない様に両手で紙袋を抱えた彼女が、袋の中を覗き込む。
そこで、はたととある事に気付いた。先程、セドリックに言われるがまま服を用意したが、女性にとって最も重要である下着を用意していない。
視界の隅に入った、僅かに引かれた椅子。その上に、美しい装飾が施されたドレスと下着が畳まれて置いてある事に気付いた。ドレスの下に身に着ける、頑丈で硬い下着だという事は手に取らなくても分かる。しかし、とりまず今日1日凌ぐ下着はある様だ。僅かに安堵しながらも、自身が扱う商品の中に女性物の下着はあっただろうか、と記憶を巡らせる。
そんな事を考えている間にセドリックは彼女の傍を離れてしまった様で、少し距離の離れた場所の椅子に腰掛け眉間に皺を寄せていた。私が揶揄った所為か、それとも寝不足か、将又“トラウマ”に心を支配されているのか、彼の機嫌はあまり良く無い様だ。今のセドリックに、彼女はあまり関わらない方が良い様に思える。
私はセドリックの心の内が読める為基本機嫌の良し悪しは気にしないが、彼は表情が乏しく常に機嫌が悪そうなオーラを放っている。一般人からすれば、恐怖を感じる様な人間だ。彼女がセドリックを怖がってしまえば、関係が壊れる原因にもなり得る。
彼女がセドリックに何かを言おうと口を開いたが、それを遮る様に彼女より先に言葉を発した。
しかし、それは嫉妬などの感情では無い。どちらかと言えば、好奇心の方だった。
女性だけでなく、人に関心の無かった彼が初めて見せた行動。それは、彼を家族の様に思っていた自身にとって喜ばしい事でもあった。
いつ死んでもいいと生に無頓着であり、生き続ける事に意味を見出していなかった彼が、初めて自身の意志で行動をしたのだ。仮にそれが、何処かの令嬢を匿う行為だとしても、仮に誘拐だったとしても、彼の変化はただただ嬉しく思った。
「惚れてないなんて言ってるけど、その服を熱心に選んでたのは誰だったかな?」
喜ばしさ故か、揶揄う様にセドリックの腕に抱えられている紙袋を指差す。
「……」
一瞬止まった彼の動きと、僅かに感じた苛立ち。少々、悪戯が過ぎたかもしれない、と思いつつもふふ、と笑うと彼が鬱陶しそうに顔を歪めた。
「――あ、あの、貴方は?」
鈴の転がる様な声が聞こえ、ベッドの方へ視線を向ける。
――しまった。完全に彼女を置き去りにして会話を進めてしまっていた。
今この状況を最も理解できていないのは他でも無い彼女だ。反省しながらも、彼女に優しく微笑みかける。
「あぁ、ごめんね。突然で、びっくりしたよね」
彼女から伝わるのは、疎外感と黒いもやもやした感情。彼女を見ている限り、我儘な令嬢、という訳では無い様だ。寧ろ、何処か謙虚で、何かに怯えている様にも見える。
「私はマーシャ・レイノルズ。貴女の話は……、まぁ、それなりにセディから聞いてる」
セドリックから色々と口止めされている事を思い出し曖昧に述べると、彼女が何かを察したのか、その顔に苦笑いが浮かんだ。それに釣られ、自身も苦笑する。
「貴女が生きていた世界と、私達が生きている世界は違う。と言っても、私達も正しい階級を持ち合わせている訳でも無いんだけど。でも、これから色々苦労する事もあるだろうし、私も貴女の力になれる事はある筈だからさ、気軽に頼ってよ」
「……ありがとう。――レイノルズ、さん」
想像していたよりも、ずっと淑やかで儚げな子だ。そんな彼女に、マリアの姿が重なる。
マリアも、彼女の様に淑やかな女性だった。いつも何かに怯えている様に生きていて、消えてしまいそうな儚さを孕んだ存在。喉が詰まる様な苦しさを覚え、自身の心を誤魔化す様に「マーシャでいいよ」と軽やかな口調で告げた。
「服、色々とマーシャに用意させた。サイズは……多分大丈夫だと思うんだが」
私と彼女の間に割って入ったセドリックが、服の入った紙袋を彼女の膝の上に乗せた。落とさない様に両手で紙袋を抱えた彼女が、袋の中を覗き込む。
そこで、はたととある事に気付いた。先程、セドリックに言われるがまま服を用意したが、女性にとって最も重要である下着を用意していない。
視界の隅に入った、僅かに引かれた椅子。その上に、美しい装飾が施されたドレスと下着が畳まれて置いてある事に気付いた。ドレスの下に身に着ける、頑丈で硬い下着だという事は手に取らなくても分かる。しかし、とりまず今日1日凌ぐ下着はある様だ。僅かに安堵しながらも、自身が扱う商品の中に女性物の下着はあっただろうか、と記憶を巡らせる。
そんな事を考えている間にセドリックは彼女の傍を離れてしまった様で、少し距離の離れた場所の椅子に腰掛け眉間に皺を寄せていた。私が揶揄った所為か、それとも寝不足か、将又“トラウマ”に心を支配されているのか、彼の機嫌はあまり良く無い様だ。今のセドリックに、彼女はあまり関わらない方が良い様に思える。
私はセドリックの心の内が読める為基本機嫌の良し悪しは気にしないが、彼は表情が乏しく常に機嫌が悪そうなオーラを放っている。一般人からすれば、恐怖を感じる様な人間だ。彼女がセドリックを怖がってしまえば、関係が壊れる原因にもなり得る。
彼女がセドリックに何かを言おうと口を開いたが、それを遮る様に彼女より先に言葉を発した。
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