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XV 危険なティータイム -VIII
しおりを挟む「暗殺の依頼も、強盗も、その服が盗品ってのも、全部嘘。冗談」
「ちょっと待って! 冗談で済まされる事じゃないわ!」
彼女が怒りに任せ、手に持っていたカップをソーサーに叩き付ける。ガチャンと鳴り響いた嫌な音に、衝撃でカップが割れたのだと分かった。その音に、鼓動が跳ね上がる。
しかし、今の私はそれに動じてはいけない。彼女を怒らせる程の事をしたのは私だ。寧ろ、カップを叩き割る程度で済んで良かっただろう。
「うん、そうだね。でも、これは全部セディの為でもあったんだ」
彼女から流れてくる強い苛立ちと殺気。それは何故だか、セドリックが持つものと酷似していた。同じ苛立ちの感情でも、流れてくる空気、気配、匂い、音は全て人それぞれ微小に違う。だというのに、彼女から発せられる苛立ちはセドリックが普段放つものと同じに等しい。
――昔、貸本屋で妙な書物を見つけた事があった。それは、所謂自伝という物だ。作者本人の人生が綴られた、分厚い書物であった。
文字の読み書きを覚えた頃から読書が好きだった私は、大人の指3本分はあるであろう分厚さのその書物をたったの2日で読み終えた。
その書物の主人公である作者は、私と同じエンパスだった。相当古い書物の様で、きっとエンパスという言葉がまだ無い時代の物だったのだろう。作者は自身の能力を“常軌を逸した共感性”と記していた。
そこに、“あくまで作者独自の見解”だが、相性の良い者同士、俗に言う言葉で直せば運命である者同士は、発する空気が同じだと書かれていた。
“運命”。ツインソウルとも呼ばれ、前世では同じであった1つの魂が、2つに別れたものを指す。
それは確かめる術の無い、神のみぞ知る領域。信じる者も居れば、信じない者も居る。伝説じみた話だ。
しかし今この瞬間、彼女から流れて来た空気を感じ、それは実在する話なのでは無いかと思った。
今迄に、流れてくる空気が同じだった人物は居ない。あの書物を読んで、私もツインソウルなど存在しないと思っていた。だがセドリックとエルが、そんな運命で結ばれた者同士であったら? 女嫌いのセドリックが彼女を屋敷から連れ出したのも納得が出来る。
彼女に述べた通り、確かに私の嘘はセドリックの為であったが、なんと無しにもうこれ以上エルを疑う必要は無いと感じていた。しかし、当然此処で会話をやめる訳にもいかず、頭を回しながら言葉を続ける。
「貴女も貴族社会に居たなら分かると思うけど、貴族を敵に回すのは私達にとっても危険が高いんだよ。貴女にとっては自分の両親への反抗だったとしても、下手すればそれでセディが“誘拐犯”に仕立て上げられてしまう」
「……」
私の言葉を理解してくれた様で、彼女が悲し気な香りを漏らし口をきつく結んだ。
「――でも、貴女が半端な覚悟で此処に来たって訳じゃない事は分かった」
彼女が屋敷を抜け出した理由は、はっきりとはまだ分からない。今分かっている事は、元の家を厭悪し、そして僅かに怯えているという事だけだ。
しかし、犯罪に加担するという言葉。揺らぐ事の無い意志。そしてセドリックと同じ空気。やはり彼女は、セドリックに相応しい相手だ。
「嘘付いちゃったお詫び……ってのも変だけど、本当の事は教えてあげないとね。エルちゃんも、このままじゃ気が済まないでしょ」
私の言葉に、彼女が僅かに困惑する。無理もない話だ。私達が犯罪者だという事を受け入れた直後にこんな事を言われても、ピンとこないだろう。
しかし、彼女も彼女なりに思う事があったようで、真剣な瞳で私の瞳を見つめた。その思いを汲み取り、微笑みを浮べ小さく頷く。
「――“ブローカー”って言って、分かるかな」
「……言葉は知っているけれど、具体的に何をする人なのかまでは……」
「馴染み無い言葉だもんねぇ。ブローカーは、物を売りたい人と、物を買いたい人の仲介をする人の事。私もセディも、17……位の時からかな。ブローカーを仕事にして生きてる」
私の言葉に、彼女が複雑な表情を浮べた。
「あはは、納得いってないって顔してるね」
「あっ、いや……」
彼女の慌てる様子を見ながら、そこで漸くセドリックから口止めをされている事を思い出した。ブローカーという職業を口にしてしまったが、失言だったかもしれない。
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