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XXV それぞれの思い-III
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それから、約1時間程度だろうか。
エルと会話をしながらサンドイッチを食べ終え、満腹になった腹を摩りながら椅子の背凭れに体を預ける。
「一生分のサンドイッチ食べた気がする」
「ごめんなさいね、付き合わせてしまって」
エルは食が細い方であった為、皿に並べられたサンドイッチは殆ど私が平らげた。3、4人分のサンドイッチが難なく腹に収まった事に自身でも驚くが、エルは料理が上手く、更には具材のレパートリーも多かった為、不思議と食べ終わるまで満腹を感じる事は無かった。
しかし、改めて3、4人分のサンドイッチを平らげたのだと思うと、後悔にも似た罪悪感が沸き上がる。暫くは、食事制限をした方が良いかもしれない。
「でも、凄く美味しかった。セディの所に持っていけば、喜ばれたと思うんだけどなぁ」
「……そう、かしら。でも、どうしても邪魔をしたくなくて……」
「うぅん、セディなら、エルちゃんを邪魔だなんて思わないと思うけど」
「そうね、私自身を邪魔だとは言わないでしょう。けれど、私が劇場に行った事で結果的に練習時間が短くなってしまうのは事実よ。それが嫌なの」
テーブルに肘を突いて、俯くエルを見つめる。
相当、気が滅入っている様だ。食事をしている時も、彼女が元気になる様にと色々な話題を振ったが、笑顔を返してはくれるもののやはり心は沈んだままだった。今の彼女を元気づけられるのは、セドリック以外に居ないのだろう。
「当日、コンサートは観に行くの?」
「一応、観に行くつもりだけれど……どうして?」
「いや、エルちゃんイブニングドレス持ってるのかなぁと思って」
「……あぁ、そういえば……持っていないわね……」
エルがハッとした様に顔を上げた後、何処か言いづらそうにもごもごと呟く様に言った。当日着ていく服の事を、一切考えていなかったらしい。
元貴族令嬢故に、服装には気を使っているのかと思っていたが、どうやらそうでは無かった様だ。
考えてみれば、彼女は未だに此処へ来た当初私とセドリックが用意した衣服を身に纏っている。勿論数着増えては居るが――恐らくセドリックが買い与えたのだろう――彼女は衣服やアクセサリーに無頓着なのだと見受けられる。身に付けているアクセサリーも、セドリックが贈ったらしきロケットペンダントのみ。靴も、あまり綺麗とは言えないヒールの低い革靴1足だ。
世界的歌姫のコンサートともなれば、当然の事ながら貴族も足を運ぶだろう。階級の低い人間がどれほど訪れるかは検討もつかないが、それなりの身形をさせなければかえって目立ってしまうかもしれない。
イブニングドレスは、私が仕事で最も多く取り扱っているドレスである。種類も多い為、エルを“コンサート相応の見た目”に仕立て上げる事は容易い。
「当日用のドレスは、私が貸してあげる。靴も、アクセサリーも合わせて選んでおくよ」
「……ありがとう。色々と、ごめんなさい」
「いいんだよ。もしかしたらセディが買ってあげてたかな、と思ったけど……私の仕事が役に立ってよかった。当日までに持ってくるね」
そう言って笑うと、彼女も弱々しく微笑んだ。しかし直ぐにその微笑みを崩し、表情を曇らせる。
「いつも、家に来て貰ってばかりで申し訳ないから、ドレスは私が受け取りに行くわ。ドレスはマーシャの職場にあるのよね? 職場の場所を教えてもらえれば、近々伺うわ」
「えっ」
彼女の言葉に、笑顔のまま固まってしまう。
確かに、職場にドレスを保管している為職場へ招く事が出来れば大変都合が良い。
しかし、彼女に明確な仕事内容を教えていない現在、あの職場に彼女を招くのは非常に危険だ。
「いや、大丈夫だよ、ここまで持ってくるから」
「ただでさえ貸して貰えるというのに、持ってきてもらうだなんて……。ドレスは重いし嵩張るでしょう? せめて、私も一緒に運ぶ位はさせて欲しいわ」
「うぅん……」
エルは少々頑固な所がある為、どれだけ断っても引き下がらないだろう。何かと理由をつけて、自分が取りに行くと言い続ける筈だ。押し問答になる未来が見える。
「わかった、じゃあ――」
これが最善策かどうかは分からない。出来れば、避けたかった方法でもある。
しかし、職場に招くよりかは何倍もマシだ。
「――私の家に、来てくれる?」
「マーシャの家?」
「そう。私の家……っていうか、借家なんだけどね」
仕方ない、と言えば仕方ないだろう。
彼女をシーラに会わせたくは無いが、今はこれしか方法がない。
「――これが地図。比較的分かりやすい場所にあるから、迷わず来れると思うよ」
エルから借りたペンと紙を使って簡易的な地図を描き、彼女に手渡した。
セドリックにすら教えていない、私の住処。エルに教えてしまって良かったのだろうかと一抹の不安が拭えないが、全てはセドリックと交わした約束――正確には口封じだが――を守る為だ。
溜息を吐きたくなるのを抑え、仕方ないと自身に言い聞かせた。
エルと会話をしながらサンドイッチを食べ終え、満腹になった腹を摩りながら椅子の背凭れに体を預ける。
「一生分のサンドイッチ食べた気がする」
「ごめんなさいね、付き合わせてしまって」
エルは食が細い方であった為、皿に並べられたサンドイッチは殆ど私が平らげた。3、4人分のサンドイッチが難なく腹に収まった事に自身でも驚くが、エルは料理が上手く、更には具材のレパートリーも多かった為、不思議と食べ終わるまで満腹を感じる事は無かった。
しかし、改めて3、4人分のサンドイッチを平らげたのだと思うと、後悔にも似た罪悪感が沸き上がる。暫くは、食事制限をした方が良いかもしれない。
「でも、凄く美味しかった。セディの所に持っていけば、喜ばれたと思うんだけどなぁ」
「……そう、かしら。でも、どうしても邪魔をしたくなくて……」
「うぅん、セディなら、エルちゃんを邪魔だなんて思わないと思うけど」
「そうね、私自身を邪魔だとは言わないでしょう。けれど、私が劇場に行った事で結果的に練習時間が短くなってしまうのは事実よ。それが嫌なの」
テーブルに肘を突いて、俯くエルを見つめる。
相当、気が滅入っている様だ。食事をしている時も、彼女が元気になる様にと色々な話題を振ったが、笑顔を返してはくれるもののやはり心は沈んだままだった。今の彼女を元気づけられるのは、セドリック以外に居ないのだろう。
「当日、コンサートは観に行くの?」
「一応、観に行くつもりだけれど……どうして?」
「いや、エルちゃんイブニングドレス持ってるのかなぁと思って」
「……あぁ、そういえば……持っていないわね……」
エルがハッとした様に顔を上げた後、何処か言いづらそうにもごもごと呟く様に言った。当日着ていく服の事を、一切考えていなかったらしい。
元貴族令嬢故に、服装には気を使っているのかと思っていたが、どうやらそうでは無かった様だ。
考えてみれば、彼女は未だに此処へ来た当初私とセドリックが用意した衣服を身に纏っている。勿論数着増えては居るが――恐らくセドリックが買い与えたのだろう――彼女は衣服やアクセサリーに無頓着なのだと見受けられる。身に付けているアクセサリーも、セドリックが贈ったらしきロケットペンダントのみ。靴も、あまり綺麗とは言えないヒールの低い革靴1足だ。
世界的歌姫のコンサートともなれば、当然の事ながら貴族も足を運ぶだろう。階級の低い人間がどれほど訪れるかは検討もつかないが、それなりの身形をさせなければかえって目立ってしまうかもしれない。
イブニングドレスは、私が仕事で最も多く取り扱っているドレスである。種類も多い為、エルを“コンサート相応の見た目”に仕立て上げる事は容易い。
「当日用のドレスは、私が貸してあげる。靴も、アクセサリーも合わせて選んでおくよ」
「……ありがとう。色々と、ごめんなさい」
「いいんだよ。もしかしたらセディが買ってあげてたかな、と思ったけど……私の仕事が役に立ってよかった。当日までに持ってくるね」
そう言って笑うと、彼女も弱々しく微笑んだ。しかし直ぐにその微笑みを崩し、表情を曇らせる。
「いつも、家に来て貰ってばかりで申し訳ないから、ドレスは私が受け取りに行くわ。ドレスはマーシャの職場にあるのよね? 職場の場所を教えてもらえれば、近々伺うわ」
「えっ」
彼女の言葉に、笑顔のまま固まってしまう。
確かに、職場にドレスを保管している為職場へ招く事が出来れば大変都合が良い。
しかし、彼女に明確な仕事内容を教えていない現在、あの職場に彼女を招くのは非常に危険だ。
「いや、大丈夫だよ、ここまで持ってくるから」
「ただでさえ貸して貰えるというのに、持ってきてもらうだなんて……。ドレスは重いし嵩張るでしょう? せめて、私も一緒に運ぶ位はさせて欲しいわ」
「うぅん……」
エルは少々頑固な所がある為、どれだけ断っても引き下がらないだろう。何かと理由をつけて、自分が取りに行くと言い続ける筈だ。押し問答になる未来が見える。
「わかった、じゃあ――」
これが最善策かどうかは分からない。出来れば、避けたかった方法でもある。
しかし、職場に招くよりかは何倍もマシだ。
「――私の家に、来てくれる?」
「マーシャの家?」
「そう。私の家……っていうか、借家なんだけどね」
仕方ない、と言えば仕方ないだろう。
彼女をシーラに会わせたくは無いが、今はこれしか方法がない。
「――これが地図。比較的分かりやすい場所にあるから、迷わず来れると思うよ」
エルから借りたペンと紙を使って簡易的な地図を描き、彼女に手渡した。
セドリックにすら教えていない、私の住処。エルに教えてしまって良かったのだろうかと一抹の不安が拭えないが、全てはセドリックと交わした約束――正確には口封じだが――を守る為だ。
溜息を吐きたくなるのを抑え、仕方ないと自身に言い聞かせた。
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