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XXVI 彼女に良く似合うイブニングドレス-II
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自身の部屋にエルが居るだなんて、なんだか不思議だ。こうして部屋に人を呼ぶ事が無かったからか、それとも大事な妹のような存在であるエルを招いたからか、羞恥心の様な、むず痒くなる様な、複雑な感情が沸き上がる。
「そういえばエルちゃん、何持ってるの?」
今の今迄気付かなかったが、彼女の腕には茶の紙袋が抱えられていた。それ程大きなものでは無いが、皺の無いその紙袋を見るに、何か手土産でも買って来たのだろう。
「あまり大層な物では無いのだけど……」
怖ず怖ずと、彼女がその紙袋を此方に差し出す。
それを受け取り、紙袋の中を覗くと、可愛らしく1個1個ラッピングされたカントリースコーンと、小瓶に入れられた赤いジャムが入っていた。
「味気ないかとも思ったのだけれど、マーシャがどんなものを好むかが分からなかったから、無難にスコーンを選んだの。ジャムは、店員さんにオススメされたものよ。ピムスが使われている苺のジャム」
「わ、嬉しい。ピムスの苺ジャム、食べてみたかったんだ」
流石、元貴族令嬢だ。エルが着の身着のままで来る事は無いだろうと予測はしていたが、まさか此処までしっかりとした手土産を持って来てくれるとは思わなかった。
私はいつも、手土産には自分の好きなビスケットを選んでいる。エルがそれを好むかどうか、とは考えた事が無かった。そんな自身の行動を恥ずかしく思いながらも、手土産の嬉しさに頬を緩めた。
「じゃあ、早速だけどドレス選ぼうか。一応、エルちゃんに似合うかな、って思う色のドレス3着持って来たんだけど……」
エルが椅子から腰を上げ、ベッドに近付き覗き込む様に腰を屈める。
「そうね……、マーシャは、どれが良いと思う?」
「うぅん、ブラウンのドレスなら、髪色や瞳の色と合わせても色が反発しないからいいかなって思うけど、逆に言えばパッとしないんだよね。コンサートだから派手にする必要は無いし、派手にしちゃうとマナーが欠けてるって思われちゃうからパッとしなくてもいいかもしれないけど……」
「確かに、そうね。それにデザインも、エレガントではあるけれど、私位の歳の女性が着るには少し背伸びしすぎたデザインかもしれないわね」
「言われてみればそうかも。似合う色合いで持ってきちゃったけど、年齢考えるならグリーンかパープルかな。グリーンはゴールドとかブラウンとも相性がいいし、エルちゃんに似合うと思うよ」
ベッドから腰を上げ、左手にブラウンのドレスを、右手にグリーンのドレスを持ち、エルの体に合わせてみる。ブラウンは彼女の言う通り、若い女性が着るには背伸びしすぎたデザインだ。見る人によっては、母親の御下がりを着ている様に見えるかもしれない。それに比べて、グリーンはエルの年齢によく合うデザインであり、可愛らし過ぎず、かといって背伸びもし過ぎないデザインだ。
左手のブラウンのドレスをベッドに置き、今度はパープルのドレスを手に取る。彼女の体に当ててみるが、パープルも彼女の髪色や瞳の色と良く似合っていて捨てがたい。エルは肌が白い為、パープルのドレスを着ればとても様になるだろう。
「これも悪くないね。良い意味で大人っぽいデザインだから、年齢が少し上がって見えるかも」
「でも、これは……」
エルがパープルのドレスを見て、言葉を詰まらせる。
彼女の言いたい事は分かる。きっと、胸元を気にしているのだろう。確かに胸を強調するデザインではあるが、このドレスは胸の大きな女性が着れば逆に下品に見えてしまう。エルも決して小さな方では無いが、彼女位の胸の大きさの女性が着れば最も美しく見えるに違いない。
「胸元も開いてるし、アメシストとかパープルサファイア、アレキサンドライトとかが付いたネックレスを着ければ凄く映えると思う」
「……あ、合わない、かもしれないけれど、コンサートにはロケットペンダントを着けて行きたいの。あのペンダントが無いと、落ち着かなくって」
「そっか、じゃあグリーンの方が良いかもしれないね」
グリーンのドレスは、比較的胸元が締まっていてロケットペンダントを着用していても然程目立たないだろう。反対に、パープルのドレスは胸元が開きすぎている為、ロケットペンダントを着用すれば目を引いてしまう。
「じゃあ、グリーンのドレスを、借りようかしら」
「うん、そうしよ。グリーンも充分似合うし、それにエルちゃんのイメージにも合うからさ」
手早くグリーンのドレスを畳み、ベッドの上に丁寧に乗せる。そして自身が最も楽しみにしていたものである、ジュエリーボックスを手に取った。
「次はアクセサリーだね。ネックレスは着けられなくても、耳飾りは着けられるでしょ?」
「ええ、そうね。やはり、宝石を付けるのが一般的なのかしら」
「“アクセサリー=宝石”、というのが一般的ではあるけど、最近は宝石を使わない可愛いアクセサリーも増えてきてるんだよ」
ジュエリーボックスを開き、仕事部屋で30分も掛けて厳選したアクセサリーをエルに見せる。
どのドレスを選んでも問題無い様に、沢山のアクセサリーを詰め込んできた。それこそ、ブラウンのドレスにはブラウンジルコン、シンハライト、シトリンなどのブラウン系統の宝石を、グリーンのドレスにはエメラルド、ツァボライト、ディマントイドガーネット等のグリーン系統の宝石を、パープルのドレスにはアメシスト、パープルサファイア、アレキサンドライト等のパープル系統の宝石を。しかし、彼女に告げた通り最近では宝石を使わないアクセサリーも増えている。貴族にはあまり受けないが、ガラス細工であったり金属細工であったり様々だ。
「勿論、宝石を付けた方が高貴には見えるだろうけど、私は無理に宝石を付けなくても良いと思うな。例えば、これとか」
ジュエリーボックスから取り出したのは、植物のアイビーを模ったガラス細工の耳飾り。グリーンの薄いガラスが幾重にも重なり、揺らす度にシャラシャラと軽やかな音を立てる。
「可愛い……」
エルが瞳を輝かせ、耳飾りに指先を触れさせた。
「他にも、宝石だとこういうのがあるけど……」
手に取って、幾つか宝石の付いた耳飾りを見せてみるが、彼女の反応はイマイチだった。エルの瞳はアイビーの耳飾りに向いていて、他の宝石にはあまり興味が無い様だ。
「ふふ、アクセサリーはこれで決まりかな」
彼女の掌に耳飾りを乗せると、エルの口元がふわりと緩んだ。
「これなら、グリーンのドレスにもよく合うと思うし……凄く可愛いわ」
「じゃあ、これにしようか」
ジュエリーボックスを閉じ、彼女の掌から耳飾りを片方だけ摘まみ上げる。そしてエルの形の良い耳にその耳飾りを宛がってみると、美しく整った彼女の顔がより一層華やかになった気がした。
「そういえばエルちゃん、何持ってるの?」
今の今迄気付かなかったが、彼女の腕には茶の紙袋が抱えられていた。それ程大きなものでは無いが、皺の無いその紙袋を見るに、何か手土産でも買って来たのだろう。
「あまり大層な物では無いのだけど……」
怖ず怖ずと、彼女がその紙袋を此方に差し出す。
それを受け取り、紙袋の中を覗くと、可愛らしく1個1個ラッピングされたカントリースコーンと、小瓶に入れられた赤いジャムが入っていた。
「味気ないかとも思ったのだけれど、マーシャがどんなものを好むかが分からなかったから、無難にスコーンを選んだの。ジャムは、店員さんにオススメされたものよ。ピムスが使われている苺のジャム」
「わ、嬉しい。ピムスの苺ジャム、食べてみたかったんだ」
流石、元貴族令嬢だ。エルが着の身着のままで来る事は無いだろうと予測はしていたが、まさか此処までしっかりとした手土産を持って来てくれるとは思わなかった。
私はいつも、手土産には自分の好きなビスケットを選んでいる。エルがそれを好むかどうか、とは考えた事が無かった。そんな自身の行動を恥ずかしく思いながらも、手土産の嬉しさに頬を緩めた。
「じゃあ、早速だけどドレス選ぼうか。一応、エルちゃんに似合うかな、って思う色のドレス3着持って来たんだけど……」
エルが椅子から腰を上げ、ベッドに近付き覗き込む様に腰を屈める。
「そうね……、マーシャは、どれが良いと思う?」
「うぅん、ブラウンのドレスなら、髪色や瞳の色と合わせても色が反発しないからいいかなって思うけど、逆に言えばパッとしないんだよね。コンサートだから派手にする必要は無いし、派手にしちゃうとマナーが欠けてるって思われちゃうからパッとしなくてもいいかもしれないけど……」
「確かに、そうね。それにデザインも、エレガントではあるけれど、私位の歳の女性が着るには少し背伸びしすぎたデザインかもしれないわね」
「言われてみればそうかも。似合う色合いで持ってきちゃったけど、年齢考えるならグリーンかパープルかな。グリーンはゴールドとかブラウンとも相性がいいし、エルちゃんに似合うと思うよ」
ベッドから腰を上げ、左手にブラウンのドレスを、右手にグリーンのドレスを持ち、エルの体に合わせてみる。ブラウンは彼女の言う通り、若い女性が着るには背伸びしすぎたデザインだ。見る人によっては、母親の御下がりを着ている様に見えるかもしれない。それに比べて、グリーンはエルの年齢によく合うデザインであり、可愛らし過ぎず、かといって背伸びもし過ぎないデザインだ。
左手のブラウンのドレスをベッドに置き、今度はパープルのドレスを手に取る。彼女の体に当ててみるが、パープルも彼女の髪色や瞳の色と良く似合っていて捨てがたい。エルは肌が白い為、パープルのドレスを着ればとても様になるだろう。
「これも悪くないね。良い意味で大人っぽいデザインだから、年齢が少し上がって見えるかも」
「でも、これは……」
エルがパープルのドレスを見て、言葉を詰まらせる。
彼女の言いたい事は分かる。きっと、胸元を気にしているのだろう。確かに胸を強調するデザインではあるが、このドレスは胸の大きな女性が着れば逆に下品に見えてしまう。エルも決して小さな方では無いが、彼女位の胸の大きさの女性が着れば最も美しく見えるに違いない。
「胸元も開いてるし、アメシストとかパープルサファイア、アレキサンドライトとかが付いたネックレスを着ければ凄く映えると思う」
「……あ、合わない、かもしれないけれど、コンサートにはロケットペンダントを着けて行きたいの。あのペンダントが無いと、落ち着かなくって」
「そっか、じゃあグリーンの方が良いかもしれないね」
グリーンのドレスは、比較的胸元が締まっていてロケットペンダントを着用していても然程目立たないだろう。反対に、パープルのドレスは胸元が開きすぎている為、ロケットペンダントを着用すれば目を引いてしまう。
「じゃあ、グリーンのドレスを、借りようかしら」
「うん、そうしよ。グリーンも充分似合うし、それにエルちゃんのイメージにも合うからさ」
手早くグリーンのドレスを畳み、ベッドの上に丁寧に乗せる。そして自身が最も楽しみにしていたものである、ジュエリーボックスを手に取った。
「次はアクセサリーだね。ネックレスは着けられなくても、耳飾りは着けられるでしょ?」
「ええ、そうね。やはり、宝石を付けるのが一般的なのかしら」
「“アクセサリー=宝石”、というのが一般的ではあるけど、最近は宝石を使わない可愛いアクセサリーも増えてきてるんだよ」
ジュエリーボックスを開き、仕事部屋で30分も掛けて厳選したアクセサリーをエルに見せる。
どのドレスを選んでも問題無い様に、沢山のアクセサリーを詰め込んできた。それこそ、ブラウンのドレスにはブラウンジルコン、シンハライト、シトリンなどのブラウン系統の宝石を、グリーンのドレスにはエメラルド、ツァボライト、ディマントイドガーネット等のグリーン系統の宝石を、パープルのドレスにはアメシスト、パープルサファイア、アレキサンドライト等のパープル系統の宝石を。しかし、彼女に告げた通り最近では宝石を使わないアクセサリーも増えている。貴族にはあまり受けないが、ガラス細工であったり金属細工であったり様々だ。
「勿論、宝石を付けた方が高貴には見えるだろうけど、私は無理に宝石を付けなくても良いと思うな。例えば、これとか」
ジュエリーボックスから取り出したのは、植物のアイビーを模ったガラス細工の耳飾り。グリーンの薄いガラスが幾重にも重なり、揺らす度にシャラシャラと軽やかな音を立てる。
「可愛い……」
エルが瞳を輝かせ、耳飾りに指先を触れさせた。
「他にも、宝石だとこういうのがあるけど……」
手に取って、幾つか宝石の付いた耳飾りを見せてみるが、彼女の反応はイマイチだった。エルの瞳はアイビーの耳飾りに向いていて、他の宝石にはあまり興味が無い様だ。
「ふふ、アクセサリーはこれで決まりかな」
彼女の掌に耳飾りを乗せると、エルの口元がふわりと緩んだ。
「これなら、グリーンのドレスにもよく合うと思うし……凄く可愛いわ」
「じゃあ、これにしようか」
ジュエリーボックスを閉じ、彼女の掌から耳飾りを片方だけ摘まみ上げる。そしてエルの形の良い耳にその耳飾りを宛がってみると、美しく整った彼女の顔がより一層華やかになった気がした。
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