DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXVIII 生と死-I

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 最早私の住処すみかと化した、職場の書斎。読書時だけでなく、寝床の役割も持っているアームソファに足を組んで座り、マクファーデンから受け取った本を1人読み進める。
 しかし、あの計画が頭の中を埋め尽くし、中々本の内容が入ってこない。小さく溜息を漏らし、本から顔を上げた。
 なんと無しに視線を向けたのは、サイドテーブルに置いていた計画の全容を書き記した紙。本来はこの様な計画を文字に残すべきではない。もし万が一この紙を紛失でもしてしまえば、私達が殺人計画を企てた事が簡単に外部に漏れてしまうからだ。セドリックとこの計画を共有し終えたら、直ぐにでも燃やし灰にしてしまわなければならない物だった。
 この計画が上手くいくかどうかは、全てセドリックの行動に懸かっている。だが彼なら、上手くやってくれる筈だ。彼の目的は、エルを守る事。留置所に入ってでもアルフレッドを殺す事ではない。
 ――しかし、何故だか妙に不穏な予感がしていた。
 外はまだ暗い。あとどの位で陽が昇るだろうかと、書斎の窓から外を眺める。

「!」

 突如、書斎の外から物音が聞こえびくりと肩を揺らした。
 今のは、恐らく玄関扉が開閉される音だ。随分と乱暴な音だった為、考えが及ぶのに少々時間が掛かってしまった。
 こんな時間に、依頼者が此処を訪れる事はない。ルーシャも、昨日来たばかりだ。セドリックとどの様な話をしたかは分からないが、連日で此処を訪れた事は過去に一度も無かった。それに、この屋敷の玄関はしっかりと施錠されている。今此処に来たのは、セドリックだと断定して良いだろう。

 早まる鼓動に急かされるまま、書斎の扉に駆け寄り耳をくっつける。
 扉の外から聞こえてくる足音は、確かにセドリックのものだ。階段を上ってくる気配に、緊張感が走る。
 そっと扉を開き、外の廊下を覗いた。遠目に見えるのは、シークレットルームに消えていくセドリックの背中。殺気立ったその背に、例の事件に関する何かがあったのだと悟る。
 身を捻り開いた扉の隙間を擦り抜け、セドリックに気付かれぬ様に階段を駆け降りた。そして階段から死角になる位置の壁に凭れ掛かり、1人思考を巡らせる。

 ――セドリックに、なんと声を掛ければ良いのだろうか。
 正面から何があったのかと聞いても、彼はきっと答えてはくれないだろう。シークレットルームに入って行ったという事は、彼は銃器を使って何かをしようとしているという事だ。それも、良くない何かを。
 力づくででも、止めるしかない。だが、どうやって?
 体格差があるだけでなく、自身と同じ様に護身術を身に着け、更には大人の男を簡単に片付けられる位には戦闘にも長けている彼を、私1人で抑え込める筈が無い。
 自身の計画を伝える事さえ出来れば、何か変わるかもしれない。せめて、話だけでも聞いてくれれば――。


 
 シークレットルームの扉が開き、階段を降りてくる足音が聞こえる。
 何を伝えるかは、考えられていない。それでも、引き止める他無い。此方に気付かないまま玄関の方へ向かうセドリックに、高鳴る心音を隠し声を掛けた。

「――こんな時間に、何処行くの」

 静かなホールに響く、自身の声。普通に話せていただろうか。声が震えてやしなかっただろうか。
 しかしそんな不安など彼は知りもせず、更には私が此処に居る事にも驚くことなく「お前には関係ない」と私の言葉を跳ね除けた。
 その声は普段よりも低く、殺気が籠っているのが分かる。それに、自身の耳に流れてくる耳鳴りもとりわけ強い。
 
 今の彼の精神は、普通じゃない。今にも自身を無視して此処を出て行ってしまってもおかしくはない状況だ。どうにかそれを阻止し、彼を此処に留まらせなければならない。
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