DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLIII 悪いのは-III

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「――先生……」

 彼の背に手を回し、掠れた声を絞り出す。

「――私、先生の事好きだよ」

 それは、あの日彼に告げた言葉と同じ。でも今では、その重さが僅かに違う。
 少しの期間だったが、彼と離れてみて良く分かった。
 私がどれだけ彼が好きか、彼を――愛しているか。

「――やめてください、この状況でそんな事言うの。不安に、なるじゃないですか」

「私を、死なせないんじゃなかったの」

「死なせませんよ。でも――」

 彼が私を抱く腕に力を籠め、彼にしては珍しく声を震わせた。
 
「貴女は天使ではない。人間だけれど、でも天使の様な人だから、いつか神が貴女を連れて行ってしまいそうで怖いんですよ」

 彼の言葉に、ふと昔の事を思い出す。そういえば私は、エリオット先生からずっと“天使”だと言われ続けていた。私は天使だと、天使は人を救わなければならないと思い込み、ずっと人の幸せを願い続け、人に手を差し伸べ続けた。そんな私を初めて否定したのは、他でもないマクファーデンだった。だったというのに、そんな事を言うなんて。


「――エリオット先生から貴女のカルテを見せて貰った日から、僕は貴女に恋をしていたんです。顔を見た事が無い、声も聴いた事が無い、文章だけで綴られた貴女に、初めて心を奪われた。天使と讃えられた、健気で哀れな貴女を、僕の手で解放してあげたいと思った」

「……なに、それ……、変だよ、先生」

「そうですね、変だと思います。僕は今迄恋愛なんてものには興味が無く、非常に情の無い人間だった。患者の疾患に興味はあっても、患者自身には興味が持てなくて。でも貴女が、それを変えたんです。エリオット先生が居なくなった話を聞いた時、僕は貴女に会う為にこの診療所に来ることを志願した。周囲の人間から、街医者をやるだなんて勿体ないと反対されたのも押し切って」

「――……」

 彼が続きの言葉を紡ごうと、口を開く。しかし、すぐさまその口は閉じられた。そして彼がそっと、私から身体を離す。
 身体に残った彼の体温が、寒雨かんうによって奪われていく。それが何より寂しくて、苦しくて、思わず彼のジャケットを掴んだ。

「少し、喋り過ぎました。今の貴女に必要なのは会話じゃない、治療です」

「まって……もう少し、話聞かせて」

「駄目です。今は治療が最優先。医者だというのに、患者の容態も確認せずこんなにも長々と無駄話をしてしまうとは。医者失格ですね」

「無駄話じゃないよ、先生の話もっと聞きたい」

 私の背と膝裏に腕を回した彼が、軽々と私を抱き上げる。体が宙に浮く初めての感覚に恐怖を抱き、その腕から逃れようと身を捻るが、その瞬間脇腹に激痛が走った。
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