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LV 思案-II
しおりを挟む「私がブローカーってのは、カルテを見てるだろうし、知ってるよね?」
「勿論、存じ上げていますよ」
「セディの事は?」
「……」
彼が不自然に私から視線を逸らし、「まぁ、そうですね」と誤魔化す様に言葉を漏らした。私がこの仕事を始めた当時、エリオット先生にどこまでの事を話したかは覚えていない。その為、セドリックが何を扱っているブローカーなのか、という事がカルテに書かれているかを把握していなかった。
しかし、彼の反応を見て直ぐに察しがつく。
「知ってるんだね」
「……ある程度の事は」
彼も、セドリックが“良くない物”を扱っている、という事を把握している様だ。故に、声高に知っているとは言えないのだろう。わざとらしく咳払いをして、彼が私に続きを話すよう促した。
「その子の家族……、多分母親かな。職場の屋敷に来たんだよね、今日」
「……ご家族の方は、その子を返せ、と?」
「うぅん。その人、エルちゃんを探してる感じでは無かった……」
「…………エル」
彼がぽつりと零した名前に、自身がついうっかり名前を出してしまった事に気付いた。あっと声を漏らし、自身の口元に手を遣る。
「ち、違くて、えっと」
言い訳をした所でもう遅い。まさか自分自身が、こんなにも簡単にボロを出してしまうとは思わなかった。深い溜息を吐いて、自身の顔を両手で覆う。
「――まぁ、彼女の事だろうとは思っていましたが」
「先生、何かに気付いてるっぽかったもんね」
「彼女――エルさんの育ちが良い事は、会話していれば直ぐに分かりますよ。あれ程綺麗なクイーンズイングリッシュを話す人は街にそうそう居ません。貴女や幼馴染さんも発音は綺麗な方ですが、多少訛りがあるでしょう」
英語の発音など今迄気にした事が無かったが、彼に言われてはたと気付く。確かに、私もセドリックも街の人間よりかは訛りが少ない方ではあるが、完璧かと言われればそうでは無い。勿論、目の前の彼もだ。
「姐さんも、昔同じ事言ってたなぁ……」
「この街は上流階級の人間を嫌う人が多い。ですが、そんな場所から逃げ出してきた人を弾き出す程薄情な訳でもない。でしょう?」
「……うん」
「正直、今更エルさんが元上流階級の人間だった、と言われても驚きませんし、騒ぎ立てたりもしませんよ。それに、彼女は街でも慕われている様だ。エルさんの家の人間が無理に連れ戻そうとしたら、少なからずエルさんを守ろうと盾となる人間が出てくるのでは?」
「だといいなぁ……」
嘆く様に漏らすと、彼が再び愛しむ様に私の頭をぽんと撫でた。
「私、先生と距離近くなってから口が軽くなった気がする……」
「ふふ、良い事じゃないですか。従順な証拠ですよ」
「全然いい事じゃないから! 私が口滑らせた事、絶対エルちゃんとかセディに言わないでよね!」
「勿論、言いませんよ」
彼が心底楽しそうに、幸せそうに、顔を綻ばせる。
私はエルの名前をうっかり口にしてしまった自分が許せず、自己嫌悪に陥り止まらないというのに、彼は今も笑顔のままだ。
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