DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LV 思案-II

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「私がブローカーってのは、カルテを見てるだろうし、知ってるよね?」

「勿論、存じ上げていますよ」

「セディの事は?」

「……」

 彼が不自然に私から視線を逸らし、「まぁ、そうですね」と誤魔化す様に言葉を漏らした。私がこの仕事を始めた当時、エリオット先生にどこまでの事を話したかは覚えていない。その為、セドリックが何を扱っているブローカーなのか、という事がカルテに書かれているかを把握していなかった。
 しかし、彼の反応を見て直ぐに察しがつく。

「知ってるんだね」

「……ある程度の事は」

 彼も、セドリックが“良くない物”を扱っている、という事を把握している様だ。故に、声高に知っているとは言えないのだろう。わざとらしく咳払いをして、彼が私に続きを話すよう促した。

「その子の家族……、多分母親かな。職場の屋敷に来たんだよね、今日」

「……ご家族の方は、その子を返せ、と?」

「うぅん。その人、エルちゃんを探してる感じでは無かった……」

「…………エル」

 彼がぽつりと零した名前に、自身がついうっかり名前を出してしまった事に気付いた。あっと声を漏らし、自身の口元に手を遣る。

「ち、違くて、えっと」

 言い訳をした所でもう遅い。まさか自分自身が、こんなにも簡単にボロを出してしまうとは思わなかった。深い溜息を吐いて、自身の顔を両手で覆う。

「――まぁ、彼女の事だろうとは思っていましたが」

「先生、何かに気付いてるっぽかったもんね」

「彼女――エルさんの育ちが良い事は、会話していれば直ぐに分かりますよ。あれ程綺麗なクイーンズイングリッシュを話す人は街にそうそう居ません。貴女や幼馴染さんも発音は綺麗な方ですが、多少訛りがあるでしょう」

 英語の発音など今迄気にした事が無かったが、彼に言われてはたと気付く。確かに、私もセドリックも街の人間よりかは訛りが少ない方ではあるが、完璧かと言われればそうでは無い。勿論、目の前の彼もだ。

「姐さんも、昔同じ事言ってたなぁ……」

「この街は上流階級の人間を嫌う人が多い。ですが、そんな場所から逃げ出してきた人を弾き出す程薄情な訳でもない。でしょう?」

「……うん」

「正直、今更エルさんが元上流階級の人間だった、と言われても驚きませんし、騒ぎ立てたりもしませんよ。それに、彼女は街でも慕われている様だ。エルさんの家の人間が無理に連れ戻そうとしたら、少なからずエルさんを守ろうと盾となる人間が出てくるのでは?」

「だといいなぁ……」

 嘆く様に漏らすと、彼が再び愛しむ様に私の頭をぽんと撫でた。

「私、先生と距離近くなってから口が軽くなった気がする……」

「ふふ、良い事じゃないですか。従順な証拠ですよ」

「全然いい事じゃないから! 私が口滑らせた事、絶対エルちゃんとかセディに言わないでよね!」

「勿論、言いませんよ」

 彼が心底楽しそうに、幸せそうに、顔を綻ばせる。
 私はエルの名前をうっかり口にしてしまった自分が許せず、自己嫌悪に陥り止まらないというのに、彼は今も笑顔のままだ。
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