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III 新しい父親
IV
声の方へ視線を向けると、そこにはダークブロンドの髪をホワイトブリムで纏めた、美しい顔立ちをした使用人が立っていた。セシリアンブルーの双眸が印象的な、熟年の女性だ。
「わたくしが責任をもって、お二方にお仕えさせて頂きます」
その使用人の言葉に、ラルフの表情が僅かに和らぐ。
「あ、あぁ、そうだな。2人の事はお前に任せよう。服やアクセサリーはあの女の物を宛がえばいい。2人の指輪と服――それと、靴もだな。身に付けているものは全て処分しろ」ラルフが“全て処分”という言葉を強調して言う。「それと、怪我をしている様だから手当をしてやってくれ。床を汚されてはかなわん」
「畏まりました」
彼女が無駄のない美しい所作で頭を下げ、私たちに向き直った。
にこりともしないその顔は人形思わせる。セシリアンブルーの瞳は感情を宿しておらず、宝石の様に綺麗ではあるが、ガラス玉にしか見えなかった。なんだか気味の悪い女性だ。
「ルイお嬢様、レイお嬢様、お部屋にご案内致します。どうぞ此方へ」
その言葉に従って良いものかとラルフを一瞥するが、彼はもう私たちから興味を失ってしまった様で、先程の男2人と言葉を交わしていた。
レイと一度顔を見合わせ、その使用人に近付く。すると彼女はくるりと踵をかえし、ホールの奥へと進んでいった。連れていく気があるのか無いのか、随分と足が速い。置いていかれぬ様に、どちらからともなくレイと手を繋ぎ彼女の後を追いかけた。
ホールから離れて、どの位が経っただろう。屋敷は想像以上に広く、既にここが何処だか分からない。
それは隣のレイも同じだった様で、彼女は先程から頻りに辺りを見渡していた。
前を歩く使用人は変わらず足が速く、駆け足でついていくのがやっとだ。徐々に息が上がり、じわりと汗が滲んでくる。
すると、漸く彼女が足を止めた。その先には、きっと広い部屋があるのだろう、ダマスク柄の壁紙が貼られた壁に、大きな両開き扉が埋め込まれる様にして存在していた。
「此方が、お嬢様方のお部屋となります。ご自由にお使いください」
私たちに一瞥もくれず、彼女がその扉を大きく開く。果たせる哉その先の部屋は広かった。私たちが生まれ育った家と同じくらいの広さがあるのではないだろうか。
促されるまま部屋に足を踏み入れ、ぐるりと一周見渡す。
くすみの無い鏡が埋め込まれたドレッサーに、大きな四柱式ベッド。天井まで届く程の窓に掛けられたカーテンは、ベネチアン・ブラインド、ホワイトのレースカーテン、ベルベットの厚地サブカーテン、ダマスクに似たブロカテルの四層になっており、更には垂れ飾りまでついている。壁は繰形で上下で模様が分かれており、下方には上質な木材、上方にはブルーに草木の絵が描かれた壁紙が貼られていた。
大きなチェストだけでなく、ブドワールやドレッシングルームまで付属している。2人で使うには良くも悪くも贅沢な部屋だった。
「あの……此処って、私たちの部屋、なんですか?」
隣で私と同じことを思っていたらしきレイが、恐る恐るといった様子で使用人に尋ねる。すると、彼女は当たり前だとでも言う様な顔で頷いた。
「左様でございます。入用が御座いましたら、わたくしから旦那様へお伝え致しますので、何なりとお申し付けくださいませ」
彼女が私たちに向かって、ぺこりと頭を下げる。そして顔を上げた瞬間何かを思い出したのか、あっと声を上げた。レイと2人揃って、彼女のその声に首を傾げる。
「申し遅れました、わたくしアイリーン・スチュアートと申します。これからお2人の侍女としてお仕えさせて頂きますので、何なりと仰せ付けください」
彼女の自己紹介を聞いて、そこで漸く、名前をまだ聞いていなかった事を思い出した。咄嗟に自身も名乗ろうと口を開くが、先程玄関ホールで「ルイお嬢様」と呼ばれたばかりだ。玄関ホールでずっと、ラルフの後ろに控えていたのだろう。
開きかけた口を閉じ、暫し逡巡したのち小さく頷いた。
「スチュアート、さん?」
隣のレイがぎこちなく、尋ねる様に言った。
私たちの家には、言うも愚か使用人は居なかった。故に、彼女たちの様な職業の人物をどう呼べばいいのかが分からないのだろう。此処は自分の家では無いのだから、猶更だ。
レイを一瞥したのち、私も同じように彼女に視線を向ける。
「アイリーン、とお呼びください。敬称は不要です」
彼女――アイリーンは、にこりともせず、相変わらずの無表情でそう告げた。
「わたくしが責任をもって、お二方にお仕えさせて頂きます」
その使用人の言葉に、ラルフの表情が僅かに和らぐ。
「あ、あぁ、そうだな。2人の事はお前に任せよう。服やアクセサリーはあの女の物を宛がえばいい。2人の指輪と服――それと、靴もだな。身に付けているものは全て処分しろ」ラルフが“全て処分”という言葉を強調して言う。「それと、怪我をしている様だから手当をしてやってくれ。床を汚されてはかなわん」
「畏まりました」
彼女が無駄のない美しい所作で頭を下げ、私たちに向き直った。
にこりともしないその顔は人形思わせる。セシリアンブルーの瞳は感情を宿しておらず、宝石の様に綺麗ではあるが、ガラス玉にしか見えなかった。なんだか気味の悪い女性だ。
「ルイお嬢様、レイお嬢様、お部屋にご案内致します。どうぞ此方へ」
その言葉に従って良いものかとラルフを一瞥するが、彼はもう私たちから興味を失ってしまった様で、先程の男2人と言葉を交わしていた。
レイと一度顔を見合わせ、その使用人に近付く。すると彼女はくるりと踵をかえし、ホールの奥へと進んでいった。連れていく気があるのか無いのか、随分と足が速い。置いていかれぬ様に、どちらからともなくレイと手を繋ぎ彼女の後を追いかけた。
ホールから離れて、どの位が経っただろう。屋敷は想像以上に広く、既にここが何処だか分からない。
それは隣のレイも同じだった様で、彼女は先程から頻りに辺りを見渡していた。
前を歩く使用人は変わらず足が速く、駆け足でついていくのがやっとだ。徐々に息が上がり、じわりと汗が滲んでくる。
すると、漸く彼女が足を止めた。その先には、きっと広い部屋があるのだろう、ダマスク柄の壁紙が貼られた壁に、大きな両開き扉が埋め込まれる様にして存在していた。
「此方が、お嬢様方のお部屋となります。ご自由にお使いください」
私たちに一瞥もくれず、彼女がその扉を大きく開く。果たせる哉その先の部屋は広かった。私たちが生まれ育った家と同じくらいの広さがあるのではないだろうか。
促されるまま部屋に足を踏み入れ、ぐるりと一周見渡す。
くすみの無い鏡が埋め込まれたドレッサーに、大きな四柱式ベッド。天井まで届く程の窓に掛けられたカーテンは、ベネチアン・ブラインド、ホワイトのレースカーテン、ベルベットの厚地サブカーテン、ダマスクに似たブロカテルの四層になっており、更には垂れ飾りまでついている。壁は繰形で上下で模様が分かれており、下方には上質な木材、上方にはブルーに草木の絵が描かれた壁紙が貼られていた。
大きなチェストだけでなく、ブドワールやドレッシングルームまで付属している。2人で使うには良くも悪くも贅沢な部屋だった。
「あの……此処って、私たちの部屋、なんですか?」
隣で私と同じことを思っていたらしきレイが、恐る恐るといった様子で使用人に尋ねる。すると、彼女は当たり前だとでも言う様な顔で頷いた。
「左様でございます。入用が御座いましたら、わたくしから旦那様へお伝え致しますので、何なりとお申し付けくださいませ」
彼女が私たちに向かって、ぺこりと頭を下げる。そして顔を上げた瞬間何かを思い出したのか、あっと声を上げた。レイと2人揃って、彼女のその声に首を傾げる。
「申し遅れました、わたくしアイリーン・スチュアートと申します。これからお2人の侍女としてお仕えさせて頂きますので、何なりと仰せ付けください」
彼女の自己紹介を聞いて、そこで漸く、名前をまだ聞いていなかった事を思い出した。咄嗟に自身も名乗ろうと口を開くが、先程玄関ホールで「ルイお嬢様」と呼ばれたばかりだ。玄関ホールでずっと、ラルフの後ろに控えていたのだろう。
開きかけた口を閉じ、暫し逡巡したのち小さく頷いた。
「スチュアート、さん?」
隣のレイがぎこちなく、尋ねる様に言った。
私たちの家には、言うも愚か使用人は居なかった。故に、彼女たちの様な職業の人物をどう呼べばいいのかが分からないのだろう。此処は自分の家では無いのだから、猶更だ。
レイを一瞥したのち、私も同じように彼女に視線を向ける。
「アイリーン、とお呼びください。敬称は不要です」
彼女――アイリーンは、にこりともせず、相変わらずの無表情でそう告げた。
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