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IV 冷たい使用人と大切な指輪
II
「――ルイ、聞いてる?」
突如耳に届いた、レイの棘のある声にふと我に返る。顔を上げると、二人分の怪訝な顔が此方を向いていた。
「ルイお嬢様、御加減が優れない様でしたら医者をお呼び致します」
「……いえ、結構です」
喉奥から零れた声は、あまりに説得力に欠けるか細い声だ。念押しの意味を込めて掌を彼女に向け、この話を終わらせるべくふいと顔を背けた。
「ね、ねぇ、ルイ、どうしたの?」
「何が?」
「何がって……、ルイはこの状況に、何も思わないの……?」
「……何も、思わない訳では無いわ。でも、此処で今騒いでも状況は変わらない。騒ぐのは、彼が何の目的でこんな事をしているのか分かってからでも遅くはない筈よ」
反論する言葉が見つからなかったのか、レイがきゅっと口を結び私をじとりと睨めつける。
――此処で感情的になっても仕方が無い。
今は、とにかくラルフの目的、そして此処から脱出する方法を探さねばならない。
目の前のアイリーンは、変わらず感情の宿っていない冷たい表情をしている。使用人の一人でも味方に付けられれば――と思っていたのだが、彼女は見るからに厳しそうな人だ。アイリーンの目を欺く事、そして彼女を味方につける事は難しいだろう。
「――お話中失礼致します」アイリーンの冷ややかな声が頭上から降ってくる。「お嬢様、指輪をお渡し頂けますか」
「指輪……?」
彼女に懐疑的な目を向けたレイが、隠す様に指輪の嵌った手を背後に回す。
ラルフは先程ホールで、レイの腕を掴んで私たちの大切な指輪を「なんだこの薄汚い指輪は」と罵った。そして、無情にも「処分しろ」とも言った。
私も、レイと同じくこの指輪だけは奪われたくない。服や靴は諦められたとしても、この指輪だけは駄目だ。
それは言わずもがな、私とレイを磁石の様に引き寄せるもの、そして、家族を繋ぐ大切なものだからだ。
「――大切なもの、なのですか?」
レイの仕草に、アイリーンが相変わらずの冷めた声で問う。
どう答えたものか――と考えていると、レイが俯きがちに私を見遣った。まるで助けを求める様にその瞳は揺れていて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……これは、両親から誕生日に貰った大切な指輪なんです」
いつまでも、アイリーンとの会話をレイに任せている訳にもいかない。自身の膝の上に置いていた手をぎゅっと握り締め、アイリーンを見上げた。
「この指輪だけは、見逃して貰えないでしょうか」
後先が考えられていない発言だと、自分でも思う。冷静に考えれば、この家の使用人であるアイリーンが私たちの願いを聞くわけが無いのだ。
だが、僅かに眉を下げ、同情する様な、憐れんでいる様な複雑な表情を浮かべた彼女を見て、アイリーンは私たちが思っている程冷淡な人間では無いのではないかと思った。
一縷の望みに縋り、「お願いします」と言葉を続ける。レイも、期待を孕んだ目でアイリーンを見つめていた。
しかし、果たせる哉アイリーンが首を縦に振る事は無かった。
突如耳に届いた、レイの棘のある声にふと我に返る。顔を上げると、二人分の怪訝な顔が此方を向いていた。
「ルイお嬢様、御加減が優れない様でしたら医者をお呼び致します」
「……いえ、結構です」
喉奥から零れた声は、あまりに説得力に欠けるか細い声だ。念押しの意味を込めて掌を彼女に向け、この話を終わらせるべくふいと顔を背けた。
「ね、ねぇ、ルイ、どうしたの?」
「何が?」
「何がって……、ルイはこの状況に、何も思わないの……?」
「……何も、思わない訳では無いわ。でも、此処で今騒いでも状況は変わらない。騒ぐのは、彼が何の目的でこんな事をしているのか分かってからでも遅くはない筈よ」
反論する言葉が見つからなかったのか、レイがきゅっと口を結び私をじとりと睨めつける。
――此処で感情的になっても仕方が無い。
今は、とにかくラルフの目的、そして此処から脱出する方法を探さねばならない。
目の前のアイリーンは、変わらず感情の宿っていない冷たい表情をしている。使用人の一人でも味方に付けられれば――と思っていたのだが、彼女は見るからに厳しそうな人だ。アイリーンの目を欺く事、そして彼女を味方につける事は難しいだろう。
「――お話中失礼致します」アイリーンの冷ややかな声が頭上から降ってくる。「お嬢様、指輪をお渡し頂けますか」
「指輪……?」
彼女に懐疑的な目を向けたレイが、隠す様に指輪の嵌った手を背後に回す。
ラルフは先程ホールで、レイの腕を掴んで私たちの大切な指輪を「なんだこの薄汚い指輪は」と罵った。そして、無情にも「処分しろ」とも言った。
私も、レイと同じくこの指輪だけは奪われたくない。服や靴は諦められたとしても、この指輪だけは駄目だ。
それは言わずもがな、私とレイを磁石の様に引き寄せるもの、そして、家族を繋ぐ大切なものだからだ。
「――大切なもの、なのですか?」
レイの仕草に、アイリーンが相変わらずの冷めた声で問う。
どう答えたものか――と考えていると、レイが俯きがちに私を見遣った。まるで助けを求める様にその瞳は揺れていて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……これは、両親から誕生日に貰った大切な指輪なんです」
いつまでも、アイリーンとの会話をレイに任せている訳にもいかない。自身の膝の上に置いていた手をぎゅっと握り締め、アイリーンを見上げた。
「この指輪だけは、見逃して貰えないでしょうか」
後先が考えられていない発言だと、自分でも思う。冷静に考えれば、この家の使用人であるアイリーンが私たちの願いを聞くわけが無いのだ。
だが、僅かに眉を下げ、同情する様な、憐れんでいる様な複雑な表情を浮かべた彼女を見て、アイリーンは私たちが思っている程冷淡な人間では無いのではないかと思った。
一縷の望みに縋り、「お願いします」と言葉を続ける。レイも、期待を孕んだ目でアイリーンを見つめていた。
しかし、果たせる哉アイリーンが首を縦に振る事は無かった。
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