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X 朝の支度
IV
そんなこんなで地獄の様な着替えが終わり、きつく締められたウエストをドレス越しに摩りながら息をついた。ドレッシングルームの壁に立てかけられていた姿見に視線を投げる。
既に疲労困憊であるのだが、美しいドレスに身を包んだ自身を見ると僅かに――本当に僅かにであるが、高揚感を抱いた。しかし、ウエストが苦しい。眼福程度で苦しさは紛らわせない。
「ルイ、見て」
隣から弾んだ声が聞こえ、げんなりとしながらも其方に顔を向ける。
目に入ったのは、パウダーピンクがメインに使われた、お姫様を連想するドレスに身を包んだ妹の姿。沢山のフリルが付き、裾にはピンクの薔薇が描かれているやや子供っぽいデザインのドレスだ。如何にも、レイが好みそうなものである。
身体を左右に振りながらドレスの裾をひらひらと揺らしている彼女を見ていると、お気楽なものだな、なんて思ってしまう。だが、それ等の反応や仕草は、彼女なりの現実逃避なのかもしれない。すぐさま昨晩の彼女の涙を思い出し、その思考を掻き消した。
「貴女らしいドレスね」
「もっと他に言う事無いの?」
じとりとした目で見つめられ、ややたじろいでしまう。慌てて、「似合っているわ」と返すと、レイが頬を膨らませた。
「……なんか、言わせたみたいで嬉しくない」
――我儘な娘だ。一体私に何を求めていると言うのか。
つきたくなる溜息を飲み込み、「嘘じゃないのよ、可愛いわ」と言葉を加えた。
実際、嘘ではない。今の彼女はとても愛らしく、ドレスも良く似合っている。ただこの状況と、この環境に、心がついていけていないだけなのだ。仮にもし、両親に連れられて仕立屋に行き、このドレスを着せられたとしたら。心の底から喜べただろうし、彼女の事も美しいと、可愛いと素直に思えただろう。童話のお姫様みたいだ、なんて言葉も出てきたかもしれない。
私の言葉に納得したのか否か、「まぁいいや」と言って彼女が私と共に姿見を覗き込んだ。
「――正反対のドレス着ると、双子なのになんだか別人みたいだね」
レイの言葉に黙って頷き、お互いのドレスを鏡越しに見比べる。
家に居た時は、似たデザインの服を着る事が多かった。服の貸し借りも、頻繁にした方だ。
それはレイが望んだ事でもあり、洋服店の主人や、時々服をプレゼントしてくれるマーシャの勧めでもあった。どうやら私たちを見ていると、同じ顔をしているのだから同じ服を着せるべきだ、という感覚を抱くらしい。
ただでさえ双子は見分けが付きづらいのだから、服くらい別の物を着た方が良いのでは――と内心ずっと思っていた。だが同じ服を着ればレイが喜ぶ為、私はそれを拒絶した事は無かったし、拒絶するつもりも無かった。それに、私は心底ファッションに興味が無かった故に、何を着せられようがどうだって良かったのだ。似合っているか否か、すら気にしていなかったと思う。
けれどもこうして、正反対のドレスを身に纏った今。まるで他人の様に見えてくる私たちの姿に、何故だか言い知れぬ不安に襲われた。
既に疲労困憊であるのだが、美しいドレスに身を包んだ自身を見ると僅かに――本当に僅かにであるが、高揚感を抱いた。しかし、ウエストが苦しい。眼福程度で苦しさは紛らわせない。
「ルイ、見て」
隣から弾んだ声が聞こえ、げんなりとしながらも其方に顔を向ける。
目に入ったのは、パウダーピンクがメインに使われた、お姫様を連想するドレスに身を包んだ妹の姿。沢山のフリルが付き、裾にはピンクの薔薇が描かれているやや子供っぽいデザインのドレスだ。如何にも、レイが好みそうなものである。
身体を左右に振りながらドレスの裾をひらひらと揺らしている彼女を見ていると、お気楽なものだな、なんて思ってしまう。だが、それ等の反応や仕草は、彼女なりの現実逃避なのかもしれない。すぐさま昨晩の彼女の涙を思い出し、その思考を掻き消した。
「貴女らしいドレスね」
「もっと他に言う事無いの?」
じとりとした目で見つめられ、ややたじろいでしまう。慌てて、「似合っているわ」と返すと、レイが頬を膨らませた。
「……なんか、言わせたみたいで嬉しくない」
――我儘な娘だ。一体私に何を求めていると言うのか。
つきたくなる溜息を飲み込み、「嘘じゃないのよ、可愛いわ」と言葉を加えた。
実際、嘘ではない。今の彼女はとても愛らしく、ドレスも良く似合っている。ただこの状況と、この環境に、心がついていけていないだけなのだ。仮にもし、両親に連れられて仕立屋に行き、このドレスを着せられたとしたら。心の底から喜べただろうし、彼女の事も美しいと、可愛いと素直に思えただろう。童話のお姫様みたいだ、なんて言葉も出てきたかもしれない。
私の言葉に納得したのか否か、「まぁいいや」と言って彼女が私と共に姿見を覗き込んだ。
「――正反対のドレス着ると、双子なのになんだか別人みたいだね」
レイの言葉に黙って頷き、お互いのドレスを鏡越しに見比べる。
家に居た時は、似たデザインの服を着る事が多かった。服の貸し借りも、頻繁にした方だ。
それはレイが望んだ事でもあり、洋服店の主人や、時々服をプレゼントしてくれるマーシャの勧めでもあった。どうやら私たちを見ていると、同じ顔をしているのだから同じ服を着せるべきだ、という感覚を抱くらしい。
ただでさえ双子は見分けが付きづらいのだから、服くらい別の物を着た方が良いのでは――と内心ずっと思っていた。だが同じ服を着ればレイが喜ぶ為、私はそれを拒絶した事は無かったし、拒絶するつもりも無かった。それに、私は心底ファッションに興味が無かった故に、何を着せられようがどうだって良かったのだ。似合っているか否か、すら気にしていなかったと思う。
けれどもこうして、正反対のドレスを身に纏った今。まるで他人の様に見えてくる私たちの姿に、何故だか言い知れぬ不安に襲われた。
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