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XII 窮屈なアフタヌーンティー
I
「――……」
私たちに与えられた部屋の窓際。四層になったカーテンは全て開かれ、派手な装飾が施された部屋は陽の光に照らされて艶めいて見えるほどに明るい。
薄く開かれた窓からは柔らかな風が流れ込み、金の絹糸で編まれたタッセルで留められた重厚なカーテンがゆらゆらと揺れていた。
私たちが着いているのは、朝には無かった筈の丸テーブル。屋敷案内をして貰っている間に、誰かが運び入れたのだろう。
丸テーブルには、白糸刺繍が施されたリネンのテーブルクロスが掛けられている。クロスの裾を一周ぐるりと囲む様に編まれた薔薇のクロッシェレースが印象的で可愛らしい。
そしてその上には、シルバープレート製の三段ケーキスタンドが中心に置かれ――どの段にも三人分はあるのではないかと思う程に所狭しと軽食が乗せられている――周りにティーポットとミルクピッチャーなどのティーセットが散りばめる様に並べられていた。仕上げに私たちの目の前には、美しい赤茶色の紅茶が注がれた、これ以上ない程の意匠が凝らされたティーカップが置かれている。
私たちに与えられたアフタヌーンティーは、一周回って興醒めしてしまうぐらいに豪華だ。何処から手を付ければ良いかが分からないセッティングを前にして、私とレイは顔を見合わせた。
「最悪」
レイが溜息交じりに呟く。
彼女のその言葉は、今この状況に最も適していると言えるだろう。心の底から思う。最悪だ。何事にも、程度というものがある。
贅沢や豪華なものというのは、度を超すと窮屈に感じてしまうものだ。きわめて、生まれた時からこの生活を送っている人間からすれば逆にこの豪華さが安心に繋がるのだろうが。
それに、部屋の扉の前にはアイリーンが門番の如く控えていた。アイリーンとはこの屋敷に連れて来られてから基本の行動を共にしている為、他の使用人よりかは慣れていると言えるのだが、それでもまだ信頼をしている訳では無い。
故にアイリーンの前で不満を漏らせる筈が無く――連れて来られた当初は家に帰りたい云々と訴えていたが――果せる哉私たちの本音を聞かせる事は出来なかった。
私たちの居る窓際から扉まではだいぶ距離が離れているが、会話を聞かれない保証はない。つまり私たちに与えられたこのティータイムは、束の間の休息にすらならないという事だ。
溜息をつき、純銀製のシュガーポットに手を伸ばす。シュガーポットに反射した自身の顔は随分と間抜けに見えて、やや苛立ちながらも乱暴に蓋を開けた。そしてテーブルに置かれていたシュガートングを使い、一個、二個、三個と躊躇いなく紅茶に砂糖の塊を入れていく。
「…………そんな湯水の様に砂糖使うの、ルイと女王陛下だけだよ」
ぽつりと呟く様に言った声に棘は無いが、嫌味にも捉えられるレイの言葉に「砂糖は最高級品だとでも言いたいの?」と問う。
「いや、そうじゃなくて。見ているだけで、胸焼けするっていうか」
「随分と今更ね。家でも同じだけ砂糖を使っていたじゃない」
「……」
言葉が見つからなかったのか、将又呆れているのか、レイが口を噤む。
砂糖が高級品だという事は私たちにも分かる事だが、何故だか家では砂糖に困る事が殆ど無かった。恐らく父が用意していたのだろうが、どうやって用意していたのかと考えるのは今すべき事では無い。
口を尖らせているレイを他所にミルクピッチャーを引っ掴み、ティーカップの縁ギリギリまでミルクを注ぎ入れた。美しい赤茶色の紅茶が一瞬にして濁る。
柄から柄尻にかけてが一輪の薔薇の様に装飾されているティースプーンでカップの中をぐるぐると掻き混ぜ、再び溜息をついた。
私たちに与えられた部屋の窓際。四層になったカーテンは全て開かれ、派手な装飾が施された部屋は陽の光に照らされて艶めいて見えるほどに明るい。
薄く開かれた窓からは柔らかな風が流れ込み、金の絹糸で編まれたタッセルで留められた重厚なカーテンがゆらゆらと揺れていた。
私たちが着いているのは、朝には無かった筈の丸テーブル。屋敷案内をして貰っている間に、誰かが運び入れたのだろう。
丸テーブルには、白糸刺繍が施されたリネンのテーブルクロスが掛けられている。クロスの裾を一周ぐるりと囲む様に編まれた薔薇のクロッシェレースが印象的で可愛らしい。
そしてその上には、シルバープレート製の三段ケーキスタンドが中心に置かれ――どの段にも三人分はあるのではないかと思う程に所狭しと軽食が乗せられている――周りにティーポットとミルクピッチャーなどのティーセットが散りばめる様に並べられていた。仕上げに私たちの目の前には、美しい赤茶色の紅茶が注がれた、これ以上ない程の意匠が凝らされたティーカップが置かれている。
私たちに与えられたアフタヌーンティーは、一周回って興醒めしてしまうぐらいに豪華だ。何処から手を付ければ良いかが分からないセッティングを前にして、私とレイは顔を見合わせた。
「最悪」
レイが溜息交じりに呟く。
彼女のその言葉は、今この状況に最も適していると言えるだろう。心の底から思う。最悪だ。何事にも、程度というものがある。
贅沢や豪華なものというのは、度を超すと窮屈に感じてしまうものだ。きわめて、生まれた時からこの生活を送っている人間からすれば逆にこの豪華さが安心に繋がるのだろうが。
それに、部屋の扉の前にはアイリーンが門番の如く控えていた。アイリーンとはこの屋敷に連れて来られてから基本の行動を共にしている為、他の使用人よりかは慣れていると言えるのだが、それでもまだ信頼をしている訳では無い。
故にアイリーンの前で不満を漏らせる筈が無く――連れて来られた当初は家に帰りたい云々と訴えていたが――果せる哉私たちの本音を聞かせる事は出来なかった。
私たちの居る窓際から扉まではだいぶ距離が離れているが、会話を聞かれない保証はない。つまり私たちに与えられたこのティータイムは、束の間の休息にすらならないという事だ。
溜息をつき、純銀製のシュガーポットに手を伸ばす。シュガーポットに反射した自身の顔は随分と間抜けに見えて、やや苛立ちながらも乱暴に蓋を開けた。そしてテーブルに置かれていたシュガートングを使い、一個、二個、三個と躊躇いなく紅茶に砂糖の塊を入れていく。
「…………そんな湯水の様に砂糖使うの、ルイと女王陛下だけだよ」
ぽつりと呟く様に言った声に棘は無いが、嫌味にも捉えられるレイの言葉に「砂糖は最高級品だとでも言いたいの?」と問う。
「いや、そうじゃなくて。見ているだけで、胸焼けするっていうか」
「随分と今更ね。家でも同じだけ砂糖を使っていたじゃない」
「……」
言葉が見つからなかったのか、将又呆れているのか、レイが口を噤む。
砂糖が高級品だという事は私たちにも分かる事だが、何故だか家では砂糖に困る事が殆ど無かった。恐らく父が用意していたのだろうが、どうやって用意していたのかと考えるのは今すべき事では無い。
口を尖らせているレイを他所にミルクピッチャーを引っ掴み、ティーカップの縁ギリギリまでミルクを注ぎ入れた。美しい赤茶色の紅茶が一瞬にして濁る。
柄から柄尻にかけてが一輪の薔薇の様に装飾されているティースプーンでカップの中をぐるぐると掻き混ぜ、再び溜息をついた。
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