DachuRa 4th story -冷刻という名の、稀有なる真実-

白城 由紀菜

文字の大きさ
46 / 52
XIII 同じドレス

II

しおりを挟む
 夕食を終えた後の、入浴の時間。やっときつく締めたコルセットから解放され、深く息をつく。
 夕食時、あの男――ラルフはやけに上機嫌だった。私たちが纏ったドレスを大層気に入り、同じデザインのものを着ていると双子の美しさが際立つ、と喜ばれた。
 レイは相変わらずで、テーブルマナーを意識していたのか、将又緊張していたのか、今日はゴブレットを倒して水をぶちまけていた。けれどもラルフは不思議と顔色を変える事は無く、あろう事か「慣れない場所での食事だからな、初めは上手くいかない事が多いだろう」と慰めの言葉まで口にしていた。ドレスの凄まじい効果に、畏怖を感じる。

「――あんた、今日は派手にやってくれたわね。また怒声が飛ぶんじゃないかってひやひやしたわよ」

 石鹸の泡をたっぷりと乗せ、やや乱暴な手付きでレイの髪を洗っていたネルが恨めしそうに言う。恐らくゴブレットを倒した事について言っているのだろう。

「だって! 手袋して食事したことなんて無いし!」

「上流階級の世界ではあれが常識よ。臨機応変に対応できる様にしておきなさいな」

「無茶言わないでよ、まだ此処に来て2日目なんだから」

 イブニングドレスは、デイドレスと違って首元や胸元、そして両腕が大きく露出している。夜の正装とはそうと決まっている様で、それにドレスに合う色の手袋を合わせ、開いた胸元は宝石で飾る。
 手袋は二の腕まで長さがある為あまり露出をしているという感覚は無いが、私たちの手の大きさに合わせて作られたものでは無い故に布が余ってしまう事が困りものだった。仮に体格や年齢が同じであったとしても、指の長さや手の大きさは人それぞれ違うのだ。養女――ノエルの手袋が私たちの手にぴったりと馴染む、なんて奇跡は当然起こる筈が無く、今日の夕食は非常に苦労した。
 ただでさえラルフとの食事は苦痛極まりないというのに、それに合わない手袋が加わるとなると愈々精神を病んでしまいそうだ。

「――そういえば……」

 ふと、先程のドレッシングルームでの疑問が脳裏を過った。
 奇妙という程の事では無いのかもしれないが、何故だか引っ掛かる――そんな曖昧なものであった為、ネルが相手でも尋ねづらい事ではあった。だが黙っているのも気持ちが悪く、暫し逡巡したのち問いを投げ掛ける。

「ネル、この家の養女だという、ノエル様ってどんな方だったの?」

 然程驚く事でもないだろう漠然とした問いだというのに、ネルはぎょっとした顔で私を見た。

「な、何よ急に! スチュアートさんに余計な事言っていないでしょうね!」

「何も言っていないわ。……というか、アイリーンには訊けないからこうして貴女に訊いているのだけど」

「それは……そうだけど……」

 ネルがばつが悪そうに顔を背け、もごもごと口籠る。

「昨日言った通りよ。大人しくて寡黙で、我儘も言わないし、存在感も無い。何処となく儚げなお嬢様だったわね。なんというか、“お嬢様”って言葉が似合わない素朴な方だったかも」

 彼女が一拍置いて「でも少し妙な事を耳にする事が多かったわね」と言葉を続けた。

「私、このお屋敷には15の頃に来ているの。だからまだ1年と少ししか経っていないのよ。つまりね、ノエル様と接していた期間が短かったから、その“妙な事”ってのも、私にはあまり良く分からないんだけど……」

 妙に回りくどく、歯切れの悪い言い方だ。また昨晩の様に、他言を恐れているのだろうか。

「心配しなくても、誰にも言わないわよ」

「馬鹿ね、今更他言を怖がる訳ないでしょ。ノエル様とキース様の話をあんたたちにしちゃった時点で、それが周囲に知られたら私はおしまいなの。あんたは大丈夫でも――妹の方が心配ね、口が軽そうだわ」

「えっ」

 唐突に話を振られたレイが声を上げ、ぱっと振り返り背後のネルを見遣った。その拍子に彼女の髪から小さな泡がふわふわと舞い上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...