DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

文字の大きさ
58 / 162

XIII その時彼女は何を見る-V

しおりを挟む
「……なんだ」

「なんだとはなんだセドリック! エルちゃん、毎日うちに来てはロケットを眺めて帰るんだよ。いい加減、買ってやんな!」

 ライリーの耳に障る高い声に顔を歪め、1歩後退る。
 店としては、やはり商品が売れる事に越したことは無い。毎日買いもせず眺めに来るだけの客など、迷惑でしか無いのだろう。

「見に来られて迷惑なら追い返せよ」

「そういう話をしてるんじゃないよ! あの子はあんたと違って、私の長話も笑顔で最後まで聞いてくれる素直でいい子だ。迷惑な訳無いじゃないか。だからこそ、あの子が気の毒でね……。毎日眺めに来る程気に入る物なんて、そうそうないよ」

 台にアクセサリーと一緒に並べられたロケットペンダントのチェーンを摘まみ、目の高さまで持ち上げる。
 楕円形の小さなロケットの中心に、十字架が彫られたシンプルなデザインだ。何度見ても、これが女が好む物だとは思えない。

「これの何処が良いんだか……」

 自身は決してアクセサリーなどに興味は無いが、もし仮に自身が買うとするなら別の物を選ぶ。
 確かに艶のあるシルバーには惹かれるものがあるが、敢えてこれを選ぶ事は断じてない。

「あんた、エルちゃんとどこまで進んでるんだ」

「期待するような事は何も」

「気持ちを伝えずに、身体の関係だけなんて事にはなるんじゃないよ」

「そんなん、なる訳無いだろ」

 手に持っていたペンダントを、台の上にそっと戻す。
 そのついでに短くなった煙草を地面に落とすと、ライリーから「店の前にごみを捨てるな」と怒声と共に平手打ちが飛んできた。じわりと痛む頬を、手で押さえる。

「あんた、このロケットの意味知ってんのかい?」

「意味?」

「やっぱり知らないのか。男が女にプロポーズする時に、このロケットの蓋の内側に2人の名前を彫って女に渡すんだ。指輪の代わりにね」

「へぇ」

 ライリーの言葉に、特に関心を持たず適当に返事をすると、また再度きつい平手が飛んできた。
 頬に直撃する前に、身体を反って回避する。

「まだ分かんないのかい! エルちゃんはこのロケットが欲しいんじゃなくて、あんたと夫婦になりたいって思ってんだよ!」

「……いや、流石にロケット1個欲しがっただけで、その解釈はないだろ……」

「いいや! エルちゃんを見ていたら直ぐに分かる」

 ライリーとの押し問答は次第にヒートアップし、気付けば自分達の周りには人が居なくなっていた。店主と客の喧嘩だとでも思ったのだろうか、遠巻きに見つめる人達の視線が痛い。
 この様に注目をされる事は嫌いだ。酷く不愉快である。咳払いをして、反論しようとした言葉を飲み込んだ。

「あんたの所為で客が寄って来なくなっちまったじゃないか。ほれ、早く買って帰ってくれ。ロケットは12ペンスだよ」

「押し売りかよ……」

 渋々、ポケットから財布を取りだす。

「名前は? 当然入れるだろ?」

「……入れるのにどの位時間が掛かるんだ」

「うちの旦那が彫刻をしてるんだ。何処かに依頼する必要が無いから、最短で明日の朝かな」

「……じゃあ、頼む」

 財布から12ペンスを取り出し、差し出されたライリーの掌の上に落とした。
 ペンダントのチェーンに“Sold”の文字が書かれたタグが麻紐で括られるのを見ながら、それをエルにどう言って渡そうか思索する。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...