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XIII その時彼女は何を見る-V
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「……なんだ」
「なんだとはなんだセドリック! エルちゃん、毎日うちに来てはロケットを眺めて帰るんだよ。いい加減、買ってやんな!」
ライリーの耳に障る高い声に顔を歪め、1歩後退る。
店としては、やはり商品が売れる事に越したことは無い。毎日買いもせず眺めに来るだけの客など、迷惑でしか無いのだろう。
「見に来られて迷惑なら追い返せよ」
「そういう話をしてるんじゃないよ! あの子はあんたと違って、私の長話も笑顔で最後まで聞いてくれる素直でいい子だ。迷惑な訳無いじゃないか。だからこそ、あの子が気の毒でね……。毎日眺めに来る程気に入る物なんて、そうそうないよ」
台にアクセサリーと一緒に並べられたロケットペンダントのチェーンを摘まみ、目の高さまで持ち上げる。
楕円形の小さなロケットの中心に、十字架が彫られたシンプルなデザインだ。何度見ても、これが女が好む物だとは思えない。
「これの何処が良いんだか……」
自身は決してアクセサリーなどに興味は無いが、もし仮に自身が買うとするなら別の物を選ぶ。
確かに艶のあるシルバーには惹かれるものがあるが、敢えてこれを選ぶ事は断じてない。
「あんた、エルちゃんとどこまで進んでるんだ」
「期待するような事は何も」
「気持ちを伝えずに、身体の関係だけなんて事にはなるんじゃないよ」
「そんなん、なる訳無いだろ」
手に持っていたペンダントを、台の上にそっと戻す。
そのついでに短くなった煙草を地面に落とすと、ライリーから「店の前にごみを捨てるな」と怒声と共に平手打ちが飛んできた。じわりと痛む頬を、手で押さえる。
「あんた、このロケットの意味知ってんのかい?」
「意味?」
「やっぱり知らないのか。男が女にプロポーズする時に、このロケットの蓋の内側に2人の名前を彫って女に渡すんだ。指輪の代わりにね」
「へぇ」
ライリーの言葉に、特に関心を持たず適当に返事をすると、また再度きつい平手が飛んできた。
頬に直撃する前に、身体を反って回避する。
「まだ分かんないのかい! エルちゃんはこのロケットが欲しいんじゃなくて、あんたと夫婦になりたいって思ってんだよ!」
「……いや、流石にロケット1個欲しがっただけで、その解釈はないだろ……」
「いいや! エルちゃんを見ていたら直ぐに分かる」
ライリーとの押し問答は次第にヒートアップし、気付けば自分達の周りには人が居なくなっていた。店主と客の喧嘩だとでも思ったのだろうか、遠巻きに見つめる人達の視線が痛い。
この様に注目をされる事は嫌いだ。酷く不愉快である。咳払いをして、反論しようとした言葉を飲み込んだ。
「あんたの所為で客が寄って来なくなっちまったじゃないか。ほれ、早く買って帰ってくれ。ロケットは12ペンスだよ」
「押し売りかよ……」
渋々、ポケットから財布を取りだす。
「名前は? 当然入れるだろ?」
「……入れるのにどの位時間が掛かるんだ」
「うちの旦那が彫刻をしてるんだ。何処かに依頼する必要が無いから、最短で明日の朝かな」
「……じゃあ、頼む」
財布から12ペンスを取り出し、差し出されたライリーの掌の上に落とした。
ペンダントのチェーンに“Sold”の文字が書かれたタグが麻紐で括られるのを見ながら、それをエルにどう言って渡そうか思索する。
「なんだとはなんだセドリック! エルちゃん、毎日うちに来てはロケットを眺めて帰るんだよ。いい加減、買ってやんな!」
ライリーの耳に障る高い声に顔を歪め、1歩後退る。
店としては、やはり商品が売れる事に越したことは無い。毎日買いもせず眺めに来るだけの客など、迷惑でしか無いのだろう。
「見に来られて迷惑なら追い返せよ」
「そういう話をしてるんじゃないよ! あの子はあんたと違って、私の長話も笑顔で最後まで聞いてくれる素直でいい子だ。迷惑な訳無いじゃないか。だからこそ、あの子が気の毒でね……。毎日眺めに来る程気に入る物なんて、そうそうないよ」
台にアクセサリーと一緒に並べられたロケットペンダントのチェーンを摘まみ、目の高さまで持ち上げる。
楕円形の小さなロケットの中心に、十字架が彫られたシンプルなデザインだ。何度見ても、これが女が好む物だとは思えない。
「これの何処が良いんだか……」
自身は決してアクセサリーなどに興味は無いが、もし仮に自身が買うとするなら別の物を選ぶ。
確かに艶のあるシルバーには惹かれるものがあるが、敢えてこれを選ぶ事は断じてない。
「あんた、エルちゃんとどこまで進んでるんだ」
「期待するような事は何も」
「気持ちを伝えずに、身体の関係だけなんて事にはなるんじゃないよ」
「そんなん、なる訳無いだろ」
手に持っていたペンダントを、台の上にそっと戻す。
そのついでに短くなった煙草を地面に落とすと、ライリーから「店の前にごみを捨てるな」と怒声と共に平手打ちが飛んできた。じわりと痛む頬を、手で押さえる。
「あんた、このロケットの意味知ってんのかい?」
「意味?」
「やっぱり知らないのか。男が女にプロポーズする時に、このロケットの蓋の内側に2人の名前を彫って女に渡すんだ。指輪の代わりにね」
「へぇ」
ライリーの言葉に、特に関心を持たず適当に返事をすると、また再度きつい平手が飛んできた。
頬に直撃する前に、身体を反って回避する。
「まだ分かんないのかい! エルちゃんはこのロケットが欲しいんじゃなくて、あんたと夫婦になりたいって思ってんだよ!」
「……いや、流石にロケット1個欲しがっただけで、その解釈はないだろ……」
「いいや! エルちゃんを見ていたら直ぐに分かる」
ライリーとの押し問答は次第にヒートアップし、気付けば自分達の周りには人が居なくなっていた。店主と客の喧嘩だとでも思ったのだろうか、遠巻きに見つめる人達の視線が痛い。
この様に注目をされる事は嫌いだ。酷く不愉快である。咳払いをして、反論しようとした言葉を飲み込んだ。
「あんたの所為で客が寄って来なくなっちまったじゃないか。ほれ、早く買って帰ってくれ。ロケットは12ペンスだよ」
「押し売りかよ……」
渋々、ポケットから財布を取りだす。
「名前は? 当然入れるだろ?」
「……入れるのにどの位時間が掛かるんだ」
「うちの旦那が彫刻をしてるんだ。何処かに依頼する必要が無いから、最短で明日の朝かな」
「……じゃあ、頼む」
財布から12ペンスを取り出し、差し出されたライリーの掌の上に落とした。
ペンダントのチェーンに“Sold”の文字が書かれたタグが麻紐で括られるのを見ながら、それをエルにどう言って渡そうか思索する。
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