事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

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運命と出逢った俺は、運命とつがえない

デート?②

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 手も繋がないように気をつけているのに、身体に触れるのは非常にまずい。世間体とか道徳観念の問題プラス俺の理性の問題だ。

「お兄さんかな、弟さんの手伝い、してあげなよ」
「あ……」 

 店の人に言われ、そう見えるのならホッとするはずだが、なんとなく胸の中がモヤっとする俺がいる。
 ……いや、なにモヤっとしてるんだ俺は。

「違います。岳人さんは僕の運め」
「あー! すばる君、ほら、一緒にやろう。熊、熊を当てよう!」

 すばる君が発する言葉を察し、もやもやが拭き飛んだ。
 俺はつい、すばる君を後ろから抱きしめるようにして鉄砲を持ってしまった。
 すばる君が話すのをやめる。

 ……耳の裏、真っ赤。

 あー、これやばいわ。今日も抑制剤を飲んできたし、予備も持ってきて良かった。
 ぎゅっと抱きしめて、耳を口に含みたい欲を押さえ込むことができる。

「あれ、取ろうな」

 耳の後ろで小さく言うと、すばる君の肩がビクッと震えた。

 恥ずかしがらせたか。それとも俺がアルファの欲を抑えきれていなくて、怖がらせたか?

 これが射的でよかった。集中してさらに欲を引っ込ませろ。
 集中、集中……。

 パンッ。

 軽い発砲音のあと、コルク玉が熊のぬいぐるみを倒した。

「わ……! 当たった。岳人さん当たりました!」
 
 すばる君が俺に振り向く、前頭部の半分が胸に当たって前髪が乱れ、ヘアピンがちょうど俺の前開きのシャツに挟まった。

「ごめんなさい。嬉しくって」
「いいよ、大丈夫。ほら、先に熊をもらいな」

 ヘアピンを服から取りながら熊に目線をやると、店の人が倒れた熊を取り、すばる君に差し出してくれる。

「おめでとう。はいどうぞ」
「ありがとうございます……!」

 ふわっとしたいい笑顔。俺の欲もすっかり消え去り、一緒に笑顔になる。

 店の人にお辞儀しながらその場を後にすると、すばる君は熊を顔の前に持ってきて、顔にちゅ、とキスをした。

「へへ。岳人さんが取ってくれた熊。宝物です。ありがとうございました」

 ぅ、わっ……なんか、もう、なんかなんか、なんかだ。可愛いが過ぎてやばいって。

「……あー、そ、そうだ。ヘアピン、はい」

 場を保てそうになく、突如思い出してヘアピンを見せる俺。
 すばる君は俺の手のひらのそれをしばし見てから、俺の顔を見上げた。

「付けて、もらえますか?」
「えっ」
「鏡ないし、ここに斜めにして付けてください」

 しっかりと俺と向かい合い、顔を上げて瞳を見つめてくる。

 う……なんたるアクシデント……。

 ささっと左右に視線を走らせると、ほとんどの人たちは各々おのおの楽しんで俺たちが目に入らないようだし、目に入った人もやはり兄弟にでも見えるのだろう、俺が気にする類の視線は感じない。

「俺、下手だと思うけど……」

 観念するも、アルファの弟しかいない俺は誰かにヘアピンをつけたことはない。

 小さな頭は壊れ物みたいだ。そっと触れ、ゆっくりとピンを留める。
 反射的にすばる君の瞼が閉じた。俺は最低だ。キスするときの顔に見えて、ドキッとしてしまう。

「……っできた! そろそろ昼時だし、つぎはフードブースに行こうか」

 俺はすぐに身体を離して背を向けた。
 いい大人なのに、初恋をした中学生みたいに鼓動を走らせている。顔も赤いかもしれない。知られたくない。
 
「岳人さん、あの……」

 だがすばる君は、俺の片腕に掴まった。

「人、多くなってきたから、手を繋いでもらいたいです」
「あー。……そうだな、じゃ、服の裾に掴まってて?」
「服……僕と手を繋ぐの、嫌ですか?」

 あ……明らかに悲しい顔。こんな顔をさせたいわけじゃないのに。

「そうじゃないけど、なんて言うかな。俺とすばる君じゃ年が離れすぎてるから、手を繋いでると不思議に思う人もいるからな」
「どうしてですか?」
「どうしてって、ええっと……」
「岳人さんは僕の運命の人で、僕は岳人さんが好きです。岳人さんも僕を好きだって言ってくれました。誰かに聞かれたら”恋人同士だから”って言えばいいんじゃないんですか?」
「こ、恋人って、すばる君!?」

 すばる君の口から予想していなかった言葉が次々に出て、面食らってしまう。

「俺たちは恋人ってわけじゃ……」

 じゃあ、なんなんだ、と訊かれたら答えられない。もし、なにも知らない他人に詰問されたら、今の俺はどう答えるんだろう。

「違うんですか? じゃあ、今日ってデートじゃないんですか? 僕、そうだと思って、月に一度、まだ三回しか会えてなかったけど、今日はデートだと思って嬉しかったんです。だから本当は最初から手を繋いでほしいって思ってました。でも岳人さんが繋いでくれないから、勇気を出したのに、全部僕が勝手に思ってただけ……?」

 すばる君は俺の腕から手を離すと、不安そうに胸の前でぎゅっと握った。
 瞳も不安に揺れている。

「岳人さん、僕たちって、なんなんですか?」

 すばる君本人に訊かれてしまった。
 情けなくも俺は、身体を強張らせて口ごもってしまう。
 
 すばる君を傷つけたくない。彼を泣かせたくない。いつでも笑顔でいさせてやりたい。だがどう答えていいのかわかならない。すばる君がすでにそんなふうに思っていたなんて、想像もしていなかった。

 年上の俺の方が、この奇跡の出会いの向かう先に着いて行けていない。
 すばる君、俺は君とゆっくりゆっくりと時を重ねたいんだ。

「俺たちは……」
「……もういいです。僕、今日は帰ります」

 はっきりと答えられない俺から目をそらし、顔を背けるすばる君。

「待って、すばる君」

 肩に手を置く。小さく震えて、泣くのを我慢しているようだった。

「真鍋さん!」

 そこに、俺を呼ぶ耳障りの良い声。この声は。

「……高梨君」
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