28 / 49
スローライフ編
勇者様、大切な人の幸せを思う
しおりを挟む
食事が終わってから荒れた部屋の片付けを済ませ、改めて昨夜のことを話す。
ルナトゥスが自分を見失ったと同時に部屋の中に嵐が起きたこと。その時から朝まで、触れた者に火傷を起こさせるほどに発熱したこと。そして、黒い瞳が赤く光ったこと。
「僕……どこかおかしいの……?」
ルナトゥスが不安げに問う。やはり昨夜のことも、もちろん過去の記憶もない様子だった。
「おまえを拾ったのは魔の森の近くなんだ。あのあたりは魔法や呪術のスキルがある人間もいると聞いている。だからお前にも少しの魔力が備わっているんだと思うんだ……なにもおかしいことじゃない。性質の一つなんだからな」
ジェイミーは諭すように、慎重に言葉を選びながら続ける。
「ただ、その力はお前が負の感情を抱いた時に、意思に関係なく発動するようなんだ。いわば風邪みたいなものだ。だから普段から気をつけていればきっと大丈夫。怒りや悲しさを感じた時に、気持ちをコントロールする訓練をするんだ。わかるか?」
魔王であることは伏せているが、内容的には間違っていないはずだ。
「負の気持ちのコントロール……」
「そう。さっき、姉さんにちゃんと謝れただろう? それはさ、きっとルナが姉さんに対して愛情を感じているからできたんだ。大事な人を思えば、自然に気持ちは柔らかくなるし、あったかくなると俺は思うんだ」
「大事な人を思うと暖かくなる……?」
「うん。俺も、姉さんやルナトゥスのことを思うと、ここがぽかぽかする。ルナはどう?」
ジェイミーが自分の胸を押さえて見せると、ルナトゥスも同じように自分の左胸に手のひらを当てる。
(ぽかぽか……ジェイミーが僕を大事に思ってくれるって思うと、確かにぽかぽかほわほわする。あの時も……。あの時? ……あれ? なにか僕、なにか大事なことを忘れているような気がする)
「ルナ? どうした、ぼーっとして」
「えっ!?」
ジェイミーに顔を覗かれて我にかえった。気づけばハンナもルナトゥスを心配そうに見ている。
「なんでもない。僕、ジェイミーの言うこと、わかったと思う。僕、ジェイミーやお姉ちゃんが好きだから、ジェイミーやお姉ちゃんか悲しい気持ちにならないように気をつけるね」
にこっと笑うルナトゥスを見て、ジェイミーもハンナも胸を撫で下ろした。しかし、まだ問題は残っている。
***
そんなわけで恒例だ。現在三人は、村の集会所にいた。
目の前には村の重鎮たち。
「ふ~む。こりゃまた一晩で大きくなったもんじゃのう。一六、七というところか。いや、しかし黒なのになかなかの美男子ぶり」
村長がルナトゥスに触れながら体の隅々まで見るのを、ジェイミーの方が居心地が悪くなり、ルナトゥスを我が身の方へ引き寄せる。
ジェイミーも老若男女問わず、もてはやされる美丈夫ぶりではあるが、ルナトゥスの場合はなにかが違う。
(なんだろう。色気と言うか艶めかしいと言うか……はっ! 俺は我が子に対してなんてことを考えてるんだ)
いや、我が子だからこそ、ジェイミーにはルナトゥスの貞操を守る義務がある。
「ジェイミー、変な顔してるよ」
ジェイミーに腕を引き寄せられたままのルナトゥスに見上げられたため、ジェイミーの顎にルナトゥスの額がこすれる。細く真っすぐな前髪がこそばゆい。
同じ石鹸を使っているのに甘い香りがして、どうしてか不意に、今朝のルナトゥスの肢体が思い出された。
乱れた黒髪を垂らし、白い太ももと、成長した男性のしるしをあわらにしてジェイミーを跨いでいたルナトゥス。
昨晩の熱が残っていたのか、体温がやや高く、肌の匂いがふんわりと香った。
(だから!! 俺はなにを思い出して!!)
頭をぶるぶる振って、ルナトゥスを椅子に座らせ、自分も隣に座った。鼻で深呼吸する。
「それで、村長、皆さん。村の皆さんはこのルナを受け入れてくれるでしょうか」
一人ドキマギしているジェイミーをよそに、ハンナが冷静に切り出した。
「うーむ。まあ、驚きはあるがルナトゥスの変化は二度目だしのう。ルナトゥスがこの村に来て一年、村に変わった様子はない。逆に言えばルナトゥスは学校でも成績優秀と聞いているし、なにより父親代わりとなったジェイミーの成長が目覚ましく、皆喜んでおる、ルナトゥスの存在や変化がこのように福を成しているなら、まず問題はないじゃろう」
横で聞いていた重鎮たちも頷いて賛同した。ジェイミーたち三人は顔を見合わせ、安堵の息を吐く。
「しかしジェイミー。お前は昨夜サリバ村に同行したのでは? 共に行った者たちはまだ戻ってきていないが、まさかお前、仕事を放り出して帰ってきたのではあるまいな」
「ち、違いますよ! 昨日、俺は夜には帰る約束をルナとしてたんで、雨風の中必死に帰って来たんです。会合にはきちんと出ましたし役目も全うしました!」
「そうかそうか。ジェイミーは本当に立派な父親代わりになったものだな。いや、これならハンナも安心じゃな。そろそろハンナも自分の身の振り方を考えねば」
「村長! 私のことはいいんです。では失礼します」
ハンナが、やにわに席を立ち、集会所から出ていく。
「姉さん、待って!」
ジェイミーもルナトゥスも追いかけようとしたが、どこに走ったのか、ハンナの姿はたちまち見えなくなった。
「ジェイミー。ハンナももう二十九になる。じゃが今までお前たち三兄弟……特に末子のお前の世話に身を捧げて生きてきて、浮いた話がひとつもない。お前も生活のスキルがついたことだ。ルナトゥスのこともあるが、ハンナの幸せも考えてやらねばなるまいぞ」
長老に肩をぽんぽん、と叩かれて諭される。
(そうなんだよな。俺も気になっていたんだ。姉さんにも幸せになって欲しいのに……)
ルナトゥスが自分を見失ったと同時に部屋の中に嵐が起きたこと。その時から朝まで、触れた者に火傷を起こさせるほどに発熱したこと。そして、黒い瞳が赤く光ったこと。
「僕……どこかおかしいの……?」
ルナトゥスが不安げに問う。やはり昨夜のことも、もちろん過去の記憶もない様子だった。
「おまえを拾ったのは魔の森の近くなんだ。あのあたりは魔法や呪術のスキルがある人間もいると聞いている。だからお前にも少しの魔力が備わっているんだと思うんだ……なにもおかしいことじゃない。性質の一つなんだからな」
ジェイミーは諭すように、慎重に言葉を選びながら続ける。
「ただ、その力はお前が負の感情を抱いた時に、意思に関係なく発動するようなんだ。いわば風邪みたいなものだ。だから普段から気をつけていればきっと大丈夫。怒りや悲しさを感じた時に、気持ちをコントロールする訓練をするんだ。わかるか?」
魔王であることは伏せているが、内容的には間違っていないはずだ。
「負の気持ちのコントロール……」
「そう。さっき、姉さんにちゃんと謝れただろう? それはさ、きっとルナが姉さんに対して愛情を感じているからできたんだ。大事な人を思えば、自然に気持ちは柔らかくなるし、あったかくなると俺は思うんだ」
「大事な人を思うと暖かくなる……?」
「うん。俺も、姉さんやルナトゥスのことを思うと、ここがぽかぽかする。ルナはどう?」
ジェイミーが自分の胸を押さえて見せると、ルナトゥスも同じように自分の左胸に手のひらを当てる。
(ぽかぽか……ジェイミーが僕を大事に思ってくれるって思うと、確かにぽかぽかほわほわする。あの時も……。あの時? ……あれ? なにか僕、なにか大事なことを忘れているような気がする)
「ルナ? どうした、ぼーっとして」
「えっ!?」
ジェイミーに顔を覗かれて我にかえった。気づけばハンナもルナトゥスを心配そうに見ている。
「なんでもない。僕、ジェイミーの言うこと、わかったと思う。僕、ジェイミーやお姉ちゃんが好きだから、ジェイミーやお姉ちゃんか悲しい気持ちにならないように気をつけるね」
にこっと笑うルナトゥスを見て、ジェイミーもハンナも胸を撫で下ろした。しかし、まだ問題は残っている。
***
そんなわけで恒例だ。現在三人は、村の集会所にいた。
目の前には村の重鎮たち。
「ふ~む。こりゃまた一晩で大きくなったもんじゃのう。一六、七というところか。いや、しかし黒なのになかなかの美男子ぶり」
村長がルナトゥスに触れながら体の隅々まで見るのを、ジェイミーの方が居心地が悪くなり、ルナトゥスを我が身の方へ引き寄せる。
ジェイミーも老若男女問わず、もてはやされる美丈夫ぶりではあるが、ルナトゥスの場合はなにかが違う。
(なんだろう。色気と言うか艶めかしいと言うか……はっ! 俺は我が子に対してなんてことを考えてるんだ)
いや、我が子だからこそ、ジェイミーにはルナトゥスの貞操を守る義務がある。
「ジェイミー、変な顔してるよ」
ジェイミーに腕を引き寄せられたままのルナトゥスに見上げられたため、ジェイミーの顎にルナトゥスの額がこすれる。細く真っすぐな前髪がこそばゆい。
同じ石鹸を使っているのに甘い香りがして、どうしてか不意に、今朝のルナトゥスの肢体が思い出された。
乱れた黒髪を垂らし、白い太ももと、成長した男性のしるしをあわらにしてジェイミーを跨いでいたルナトゥス。
昨晩の熱が残っていたのか、体温がやや高く、肌の匂いがふんわりと香った。
(だから!! 俺はなにを思い出して!!)
頭をぶるぶる振って、ルナトゥスを椅子に座らせ、自分も隣に座った。鼻で深呼吸する。
「それで、村長、皆さん。村の皆さんはこのルナを受け入れてくれるでしょうか」
一人ドキマギしているジェイミーをよそに、ハンナが冷静に切り出した。
「うーむ。まあ、驚きはあるがルナトゥスの変化は二度目だしのう。ルナトゥスがこの村に来て一年、村に変わった様子はない。逆に言えばルナトゥスは学校でも成績優秀と聞いているし、なにより父親代わりとなったジェイミーの成長が目覚ましく、皆喜んでおる、ルナトゥスの存在や変化がこのように福を成しているなら、まず問題はないじゃろう」
横で聞いていた重鎮たちも頷いて賛同した。ジェイミーたち三人は顔を見合わせ、安堵の息を吐く。
「しかしジェイミー。お前は昨夜サリバ村に同行したのでは? 共に行った者たちはまだ戻ってきていないが、まさかお前、仕事を放り出して帰ってきたのではあるまいな」
「ち、違いますよ! 昨日、俺は夜には帰る約束をルナとしてたんで、雨風の中必死に帰って来たんです。会合にはきちんと出ましたし役目も全うしました!」
「そうかそうか。ジェイミーは本当に立派な父親代わりになったものだな。いや、これならハンナも安心じゃな。そろそろハンナも自分の身の振り方を考えねば」
「村長! 私のことはいいんです。では失礼します」
ハンナが、やにわに席を立ち、集会所から出ていく。
「姉さん、待って!」
ジェイミーもルナトゥスも追いかけようとしたが、どこに走ったのか、ハンナの姿はたちまち見えなくなった。
「ジェイミー。ハンナももう二十九になる。じゃが今までお前たち三兄弟……特に末子のお前の世話に身を捧げて生きてきて、浮いた話がひとつもない。お前も生活のスキルがついたことだ。ルナトゥスのこともあるが、ハンナの幸せも考えてやらねばなるまいぞ」
長老に肩をぽんぽん、と叩かれて諭される。
(そうなんだよな。俺も気になっていたんだ。姉さんにも幸せになって欲しいのに……)
44
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
番外編。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
2026/01/09 加筆修正終了
「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました
湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。
蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。
だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。
しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。
「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」
――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈
__________
追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ
一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる
(主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです)
※R成分薄めです
__________
小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です
o,+:。☆.*・+。
お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/
ありがとうございます!!
BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる