魔王様が子供化したので勇者の俺が責任持って育てていたら、いつの間にか溺愛されているみたい

カミヤルイ

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スローライフ編

勇者様、大切な人の幸せを思う

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 食事が終わってから荒れた部屋の片付けを済ませ、改めて昨夜のことを話す。
 ルナトゥスが自分を見失ったと同時に部屋の中に嵐が起きたこと。その時から朝まで、触れた者に火傷を起こさせるほどに発熱したこと。そして、黒い瞳が赤く光ったこと。

「僕……どこかおかしいの……?」

 ルナトゥスが不安げに問う。やはり昨夜のことも、もちろん過去の記憶もない様子だった。

「おまえを拾ったのは魔の森の近くなんだ。あのあたりは魔法や呪術のスキルがある人間もいると聞いている。だからお前にも少しの魔力が備わっているんだと思うんだ……なにもおかしいことじゃない。性質の一つなんだからな」

 ジェイミーは諭すように、慎重に言葉を選びながら続ける。

「ただ、その力はお前が負の感情を抱いた時に、意思に関係なく発動するようなんだ。いわば風邪みたいなものだ。だから普段から気をつけていればきっと大丈夫。怒りや悲しさを感じた時に、気持ちをコントロールする訓練をするんだ。わかるか?」

 魔王であることは伏せているが、内容的には間違っていないはずだ。
 
「負の気持ちのコントロール……」
「そう。さっき、姉さんにちゃんと謝れただろう? それはさ、きっとルナが姉さんに対して愛情を感じているからできたんだ。大事な人を思えば、自然に気持ちは柔らかくなるし、あったかくなると俺は思うんだ」
「大事な人を思うと暖かくなる……?」
「うん。俺も、姉さんやルナトゥスのことを思うと、ここがぽかぽかする。ルナはどう?」

 ジェイミーが自分の胸を押さえて見せると、ルナトゥスも同じように自分の左胸に手のひらを当てる。

(ぽかぽか……ジェイミーが僕を大事に思ってくれるって思うと、確かにぽかぽかほわほわする。あの時も……。あの時? ……あれ? なにか僕、なにか大事なことを忘れているような気がする)

「ルナ? どうした、ぼーっとして」
「えっ!?」

 ジェイミーに顔を覗かれて我にかえった。気づけばハンナもルナトゥスを心配そうに見ている。

「なんでもない。僕、ジェイミーの言うこと、わかったと思う。僕、ジェイミーやお姉ちゃんが好きだから、ジェイミーやお姉ちゃんか悲しい気持ちにならないように気をつけるね」

 にこっと笑うルナトゥスを見て、ジェイミーもハンナも胸を撫で下ろした。しかし、まだ問題は残っている。


***


 そんなわけで恒例だ。現在三人は、村の集会所にいた。
 目の前には村の重鎮たち。

「ふ~む。こりゃまた一晩で大きくなったもんじゃのう。一六、七というところか。いや、しかしなのになかなかの美男子ぶり」

 村長がルナトゥスに触れながら体の隅々まで見るのを、ジェイミーの方が居心地が悪くなり、ルナトゥスを我が身の方へ引き寄せる。
 ジェイミーも老若男女問わず、もてはやされる美丈夫ぶりではあるが、ルナトゥスの場合はなにかが違う。
 
(なんだろう。色気と言うか艶めかしいと言うか……はっ! 俺は我が子に対してなんてことを考えてるんだ)

 いや、我が子だからこそ、ジェイミーにはルナトゥスの貞操を守る義務がある。

「ジェイミー、変な顔してるよ」

 ジェイミーに腕を引き寄せられたままのルナトゥスに見上げられたため、ジェイミーの顎にルナトゥスの額がこすれる。細く真っすぐな前髪がこそばゆい。
 同じ石鹸を使っているのに甘い香りがして、どうしてか不意に、今朝のルナトゥスの肢体が思い出された。
 
 乱れた黒髪を垂らし、白い太ももと、成長した男性のしるしをあわらにしてジェイミーを跨いでいたルナトゥス。
 昨晩の熱が残っていたのか、体温がやや高く、肌の匂いがふんわりと香った。

(だから!! 俺はなにを思い出して!!)

 頭をぶるぶる振って、ルナトゥスを椅子に座らせ、自分も隣に座った。鼻で深呼吸する。

「それで、村長、皆さん。村の皆さんはこのルナを受け入れてくれるでしょうか」

 一人ドキマギしているジェイミーをよそに、ハンナが冷静に切り出した。

「うーむ。まあ、驚きはあるがルナトゥスの変化は二度目だしのう。ルナトゥスがこの村に来て一年、村に変わった様子はない。逆に言えばルナトゥスは学校でも成績優秀と聞いているし、なにより父親代わりとなったジェイミーの成長が目覚ましく、皆喜んでおる、ルナトゥスの存在や変化がこのように福を成しているなら、まず問題はないじゃろう」

 横で聞いていた重鎮たちも頷いて賛同した。ジェイミーたち三人は顔を見合わせ、安堵の息を吐く。

「しかしジェイミー。お前は昨夜サリバ村に同行したのでは? 共に行った者たちはまだ戻ってきていないが、まさかお前、仕事を放り出して帰ってきたのではあるまいな」
「ち、違いますよ! 昨日、俺は夜には帰る約束をルナとしてたんで、雨風の中必死に帰って来たんです。会合にはきちんと出ましたし役目も全うしました!」
「そうかそうか。ジェイミーは本当に立派な父親代わりになったものだな。いや、これならハンナも安心じゃな。そろそろハンナも自分の身の振り方を考えねば」
「村長! 私のことはいいんです。では失礼します」

 ハンナが、やにわに席を立ち、集会所から出ていく。

「姉さん、待って!」
 
 ジェイミーもルナトゥスも追いかけようとしたが、どこに走ったのか、ハンナの姿はたちまち見えなくなった。
 
「ジェイミー。ハンナももう二十九になる。じゃが今までお前たち三兄弟……特に末子のお前の世話に身を捧げて生きてきて、浮いた話がひとつもない。お前も生活のスキルがついたことだ。ルナトゥスのこともあるが、ハンナの幸せも考えてやらねばなるまいぞ」

 長老に肩をぽんぽん、と叩かれて諭される。

(そうなんだよな。俺も気になっていたんだ。姉さんにも幸せになって欲しいのに……)
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