生きたい夢魔君と、逝きたいミツル君

カミヤルイ

文字の大きさ
2 / 9

夢魔登場

しおりを挟む
「はぁ~い!」
「はぁ~い!」
「は、あ~~~い! なぁ、おい。なに夢の中でまで寝ちゃってんの? 今から最高のエクスタシーを感じさせてやるから、目を見開きな!」

 以前芸能ニュースで耳にした、音楽フェスでのアーティストのアオリのような声が、光瑠の鼓膜を揺すってくる。

 光瑠は特に推しがいないのでフェスの夢など望んでもいないのに、どういうことだ。しかしそれが夢というものか。

 ゆっくりと瞼を開く。横たえていた身体を起こし、座った。

「……誰?」

 視界に入ってきたのは、銀のねじれ角に蝙蝠のような翼と、先がハートの逆さまになった形の尻尾を持つ男。

 カラコンとヘアカラーだろうが、ぴっちりとしたコスチュームと同じ紫色が似合う美形で、光瑠と同じ年くらいだ。

 音楽フェスではなくコスプレパーティーの夢だったかと、左右に視線を振るも他には登場人物はいない。

「特別にお前だけに教えてやろう、俺は」

 特別もなにもここは光瑠の夢の中で、やはり光瑠しかいないのに、おかしなことを言う。

 そう戸惑うばかりの光瑠にかまわず、コスプレ男は顎をちょっと上げて親指で自分を差した。

「魔界からの使者、夢魔のキヨラだ!」
「……ムマノキヨラってなに? 魔界からの使者って……君、厨二病なの?」
「ムマノキヨラじゃねーよ!」

 バシッ。裏手で胸をはたかれた。光瑠の身体は薄いので、そんなことくらいでよろっとよろける。

「ムマっていうのは夢の魔と書く。……お前の世界の言葉ではな。違う言い方ではインキュバスだ。俺はインキュバスで、名前がキヨラ。わかったか」
「ああ、夢魔、か。うん」

 なるほど、やはり夢というのは潜在的な望みを叶えてくれるものらしい。

 夢魔とは、人間の夢の中に現れて淫らな行為に及んだ上、精気を搾取する悪魔の一種で、淫魔とも呼ばれている。

 光瑠には性交の経験がないが、年相応の性欲はあった。好きだった人に優しく抱かれる自分を想像して、自分でしたこともある。
 死ぬのなら一度くらい経験してみたかったと、薬を飲みながらちょっぴり思ったりもした。きっとそれが夢で叶ったのだろう。

「じゃあキヨラが僕を抱いてくれるの?」

 普段なら口が裂けても言えない言葉を言ってしまう。
 だってこれは光瑠が見ている夢の中だ。他には誰も聞いていない。

 すでに思い切ったことを四個も実行しているんだし、一個増えたところで変わりはないだろう。

「お、話が早いな。物わかりのいいやつだ。これで助かったぜ!」

 牙だろうか、キヨラがニカッと笑うと八重歯のようなものが覗き見えて、親しみが湧く。

「助かるって、どうして?」

 だからつい、問いかけを続けてしまった。するとキヨラは光瑠を促し、向かい合って座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】偽装結婚の代償〜リュシアン視点〜

伽羅
BL
リュシアンは従姉妹であるヴァネッサにプロポーズをした。 だが、それはお互いに恋愛感情からくるものではなく、利害が一致しただけの関係だった。 リュシアンの真の狙いとは…。 「偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜」のリュシアン視点です。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...