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夢魔登場
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「はぁ~い!」
「はぁ~い!」
「は、あ~~~い! なぁ、おい。なに夢の中でまで寝ちゃってんの? 今から最高のエクスタシーを感じさせてやるから、目を見開きな!」
以前芸能ニュースで耳にした、音楽フェスでのアーティストのアオリのような声が、光瑠の鼓膜を揺すってくる。
光瑠は特に推しがいないのでフェスの夢など望んでもいないのに、どういうことだ。しかしそれが夢というものか。
ゆっくりと瞼を開く。横たえていた身体を起こし、座った。
「……誰?」
視界に入ってきたのは、銀のねじれ角に蝙蝠のような翼と、先がハートの逆さまになった形の尻尾を持つ男。
カラコンとヘアカラーだろうが、ぴっちりとしたコスチュームと同じ紫色が似合う美形で、光瑠と同じ年くらいだ。
音楽フェスではなくコスプレパーティーの夢だったかと、左右に視線を振るも他には登場人物はいない。
「特別にお前だけに教えてやろう、俺は」
特別もなにもここは光瑠の夢の中で、やはり光瑠しかいないのに、おかしなことを言う。
そう戸惑うばかりの光瑠にかまわず、コスプレ男は顎をちょっと上げて親指で自分を差した。
「魔界からの使者、夢魔のキヨラだ!」
「……ムマノキヨラってなに? 魔界からの使者って……君、厨二病なの?」
「ムマノキヨラじゃねーよ!」
バシッ。裏手で胸をはたかれた。光瑠の身体は薄いので、そんなことくらいでよろっとよろける。
「ムマっていうのは夢の魔と書く。……お前の世界の言葉ではな。違う言い方ではインキュバスだ。俺はインキュバスで、名前がキヨラ。わかったか」
「ああ、夢魔、か。うん」
なるほど、やはり夢というのは潜在的な望みを叶えてくれるものらしい。
夢魔とは、人間の夢の中に現れて淫らな行為に及んだ上、精気を搾取する悪魔の一種で、淫魔とも呼ばれている。
光瑠には性交の経験がないが、年相応の性欲はあった。好きだった人に優しく抱かれる自分を想像して、自分でしたこともある。
死ぬのなら一度くらい経験してみたかったと、薬を飲みながらちょっぴり思ったりもした。きっとそれが夢で叶ったのだろう。
「じゃあキヨラが僕を抱いてくれるの?」
普段なら口が裂けても言えない言葉を言ってしまう。
だってこれは光瑠が見ている夢の中だ。他には誰も聞いていない。
すでに思い切ったことを四個も実行しているんだし、一個増えたところで変わりはないだろう。
「お、話が早いな。物わかりのいいやつだ。これで助かったぜ!」
牙だろうか、キヨラがニカッと笑うと八重歯のようなものが覗き見えて、親しみが湧く。
「助かるって、どうして?」
だからつい、問いかけを続けてしまった。するとキヨラは光瑠を促し、向かい合って座った。
「はぁ~い!」
「は、あ~~~い! なぁ、おい。なに夢の中でまで寝ちゃってんの? 今から最高のエクスタシーを感じさせてやるから、目を見開きな!」
以前芸能ニュースで耳にした、音楽フェスでのアーティストのアオリのような声が、光瑠の鼓膜を揺すってくる。
光瑠は特に推しがいないのでフェスの夢など望んでもいないのに、どういうことだ。しかしそれが夢というものか。
ゆっくりと瞼を開く。横たえていた身体を起こし、座った。
「……誰?」
視界に入ってきたのは、銀のねじれ角に蝙蝠のような翼と、先がハートの逆さまになった形の尻尾を持つ男。
カラコンとヘアカラーだろうが、ぴっちりとしたコスチュームと同じ紫色が似合う美形で、光瑠と同じ年くらいだ。
音楽フェスではなくコスプレパーティーの夢だったかと、左右に視線を振るも他には登場人物はいない。
「特別にお前だけに教えてやろう、俺は」
特別もなにもここは光瑠の夢の中で、やはり光瑠しかいないのに、おかしなことを言う。
そう戸惑うばかりの光瑠にかまわず、コスプレ男は顎をちょっと上げて親指で自分を差した。
「魔界からの使者、夢魔のキヨラだ!」
「……ムマノキヨラってなに? 魔界からの使者って……君、厨二病なの?」
「ムマノキヨラじゃねーよ!」
バシッ。裏手で胸をはたかれた。光瑠の身体は薄いので、そんなことくらいでよろっとよろける。
「ムマっていうのは夢の魔と書く。……お前の世界の言葉ではな。違う言い方ではインキュバスだ。俺はインキュバスで、名前がキヨラ。わかったか」
「ああ、夢魔、か。うん」
なるほど、やはり夢というのは潜在的な望みを叶えてくれるものらしい。
夢魔とは、人間の夢の中に現れて淫らな行為に及んだ上、精気を搾取する悪魔の一種で、淫魔とも呼ばれている。
光瑠には性交の経験がないが、年相応の性欲はあった。好きだった人に優しく抱かれる自分を想像して、自分でしたこともある。
死ぬのなら一度くらい経験してみたかったと、薬を飲みながらちょっぴり思ったりもした。きっとそれが夢で叶ったのだろう。
「じゃあキヨラが僕を抱いてくれるの?」
普段なら口が裂けても言えない言葉を言ってしまう。
だってこれは光瑠が見ている夢の中だ。他には誰も聞いていない。
すでに思い切ったことを四個も実行しているんだし、一個増えたところで変わりはないだろう。
「お、話が早いな。物わかりのいいやつだ。これで助かったぜ!」
牙だろうか、キヨラがニカッと笑うと八重歯のようなものが覗き見えて、親しみが湧く。
「助かるって、どうして?」
だからつい、問いかけを続けてしまった。するとキヨラは光瑠を促し、向かい合って座った。
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