精悍な騎士は臆病な王太子殿下を愛情で包み込む

カミヤルイ

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***

 殿下の第一近衛となり、ひとつの季節が終わった。 

 しかしだ。 

 俺は確かに「いつでもお呼びください。いかなるときでも殿下をお守りしましょう」と言った。言ったが。 

「ヴィクター! どこにいる」 
「ヴィクター、食事を出せ」 
「ヴィクター、着替えを用意しろ」 

 殿下はたいへん人使いが荒い。 

 一日中俺を呼びつけ、騎士の範疇を越えて侍従の仕事まで申しつける。人間不信があることに加えて体中に暴行の瘢痕があるため、殿下にはこれまでは口が硬いひとりの侍従が仕えていた。だが、彼は俺の師とともに引退した。その後すぐに新しい侍従が付いたが、殿下はその侍従を去勢の上、国境最果ての地へ送ったそうだ。 

 殿下が俺を第一近衛と認めた理由が『おぞましい欲を持たないから』だったから、つまりはそういうことなのだろう。 

 確かに殿下は、選りすぐりの王宮侍女たちよりも美しい人ではあるのだが……。 

「――まだ見慣れないか」 

 殿下が俺に振り向いて言って、自分がしばらく物思いに耽っていたことに気付いた。殿下にシャツを着せようとしていたのに、背中の鞭傷が痛ましかったのだ。 

 ともに過ごす日々の中で、殿下は俺の働きを少しは認めてくれているのか、自身のことをポツリポツリと話すことが増えた。 

『母上が冒涜を受けた衝撃は忘れられない。十八になるとすぐに夜伽番をあてがわれた私だが、女を抱くことができなかった』 とか、
『男が男を無理やり組み敷けば、尊厳も意思も奪えると身を持って知っている。それを自分がするとは思ってもいなかったが、新しい侍従とのことがあり、舐められる容姿の私の立場を誇示するにはこれしかないと思った』 など。

 立場的に俺に謝罪するはずもないが、そう話す殿下の表情は憂えていて、後悔の色さえ感じさせた。
 
 あんなことさえなければ、殿下は美しくも強くたくましく成長していただろう。 
 殿下と王妃の誘拐の件は、そばに仕える限られた者だけが知り得る情報だが、殿下は自分の殻に閉じこもり、どうしても必要な公務以外では人との接触を避けている。 

 そうなって当たり前だ……俺の妹も同じだ。

 妹も平民だった際に奉公先の息子に暴行を受け、家に引きこもるようになった。抗議に向かった父は腹を強く蹴られて数日後に他界し、母は悲しみで倒れてしまった。 

 俺は権力をやいばにした卑劣な暴力を許せず、騎士になったのだ。だから、暴力により傷ついた殿下のことも心から守りたいと思っている。 

「――いえ。そうではなく、拝見するたびに強くあろうと誓いを新たにしております。尊き殿下御身おんみ、今後はなんぴとたりとも触れさせたりはしません。必ず私がお守りいたします」 

 そう伝えて、指先で背中の傷にそっと触れた。
 途端に殿下の体が震え、頬から耳、肩まで赤に染まる。眉は困惑したように歪んだ。 

 しまった。手袋をしているとはいえ、直に肌に触れるとは不敬だった。殿下は憤慨されているのだろうか。 

「申し訳ございませんでした」 

 急いでひざまずく。
 
「よい……頭を上げろ。一生仕えるというなら、私の傷を癒すことを許す」 
「は?」 
「二度言わせるな! 寝台へ来い!」 

 突然なにごとだ? ただ、憤慨というより拗ねているようにも、恥じらっているようにも見える。 

 わけがわからないまま、早足で寝台へ向かう殿下の後ろに続く。殿下は寝台に座ると、俺に隣に来るよう顎で示した。 

 剣を剣立てに置き、失礼いたしますと命令に従う。 
 すると、殿下は予想もしない言葉を発した。

「ヴィクターの手は心地がいい。私に触れろ」 
「え?」 
「っ傷! 傷にだ! 傷を癒せと言っている。それ以外に触れることは許さぬ! ただし手袋は外せ。雑菌が付いていてはかなわない」 
「あ。は、はい、ただいま」 

 おそるおそる手を近づけ、傷を手のひらで追う。すると、いまだ頰の赤みを残しているが、殿下はふう、と息を吐いて瞼を伏せた。 

 ああ、そうか。俺の妹も頭や背を撫でてやると安心してくれる。殿下はお母上を亡くし、そのあと甘えられるのは俺の師だけだったのだろうから、こうして誰かに身を任せたかったのかもしれない。
 
 それを俺に任せてくださるのか……。 

 手負いの虎を手懐けたような感動で、自分の体温が少しばかり上がったのがわかった。手のひらにはしっとりと汗をかいているが、殿下は触れるたびに小さな吐息を吐き、気持ちよさそうにしている。 

 俺はもっと癒してさしあげたくて、手を背中から腹側へと移し、細い傷のある太ももにも這わせた。 

「ん……ヴィクター……」 

 薄い唇から吐息のような声が漏れた。
 徐々に信頼を寄せてくださっているとはいえ、普段は腰高な物言いの方だから存外に可愛らしく感じる。俺とは六歳の差もあるせいか、殿下が幼子のようにも思えてきた。 

 だが……。 

「あっ、んん、ヴィクター……体がおかしい」 

 トラウザーズを脱がせて内股の傷を撫でていると、殿下の瘦身がぶるっと震えた。見ると、身体の中心にある賜物が天井を向いている。 
 怖がらせないようにとかすかに触れるのが悪かったのだろうか。傷が太ももの付け根まであるから、そのキワまで触れてしまったのだ。

 しかし、どうする? 夜伽の女を呼ぶのも嫌だろう。ここはうまく伝えて外に出るか。 

「殿下、お体の緊張がほぐれたため、反応されているのかと。私は外で待機しますので、ご自身で処理されてはいかがでしょう」 
「んっ、で、できない。したことがない……こうなるのも、初めてだ……」 
「……え?」 
「女を抱けなかったと言っただろう。冒涜を受けて以来、私は男として機能していない。周囲に姫と言われても仕方のない体だ……それより、ヴィクター、苦しい……」 

 殿下が息を詰めながら俺に寄りかかった。俺の騎士服の胸元を必死に握っている。 
 これは……そういうこと、だよな? 

「では、わたくしが、お世話をさせていただいても……?」 
「おまえなら、よい」 

 切なげにそう言われると、庇護欲が増す。 

「では、手袋を……」 
 
 サイドワゴンに置いていた手袋に手を伸ばすと、殿下が俺の手を握った。 

「そのままで……おまえの手は、そのままが心地よい」 
「っ……。はい」 

 俺は息を呑み込んだ。殿下の麗しい顔には女性が欲情したような色気が見え、俺の体は殿下がもっとも嫌う欲情を孕んでしまいそうになる。 

 ふうっとひとつ呼吸を吐き、気持ちを引き締めた。その後、殿下の賜物をそっと手に包み込む。 

「あっ……」 

 それだけで、殿下は身をよじる。シャツ一枚を羽織っただけの肌を朱に染め、甘く喉を鳴らす殿下はかなり煽情的だ。

 俺は昂る自身を必死に抑え、賜物を上下した。 

「ふ、んんっ、ヴィクタ……」 
「殿下、ここがいいですか?」 
「ん、んっ。いい。そこ、なにかが、くるっ」 

 鈴口から滴る先走りを塗り込むように露頭を撫で、指で裏筋を摩擦する。雁首を締めつければ、殿下はゆるりと腰を揺らした。 

「あ、ぁあ!」 

 いっそう声を甘くして背をしならせると、俺の胸にもたれて身を任せる。 

「達せましたね、殿下」 

 思わず額に口づけしそうになるのを抑えて言った。殿下は俺の手のひらの白濁を見ながら、上がっていた息を整える。

「……少し、休む」

 赤く色づいた唇からそう漏らすと、安心しきったような表情で、殿下は俺の腕の中で眠った。 
 
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