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第11話 絶望の咆哮と、完璧なる防壁
地底から響き渡る重低音は、ただの地震ではなかった。
大地そのものが恐怖に震え、悲鳴を上げているかのような不気味な振動。最前線の開拓村にいたカイルとシャーリーは、壁の隙間から立ち上る禍々しい瘴気を見て、本能的な恐怖に身をすくませた。
「ひ、ひぃっ……! な、何なの、あの黒い霧は……!?」
シャーリーがガタガタと歯を鳴らし、這うようにして小屋の隅へ逃げ込む。
カイルは震える足で外へ飛び出し、旧祖国の王都がある方角を見上げた。
そこには、かつてエルサが翡翠色の結界を張って守っていた平和な空の面影など、微塵もなかった。
王都の方角から立ち上っているのは、天を突くほどの巨大な漆黒の魔力の柱。そして、その中心から、地鳴りとともに『何か』が這い出てくるのが見えた。
山脈と見紛うほどの巨大な質量。全身を岩石のような外殻で覆い、六つの紅い眼を怪しく光らせる古代魔獣――グランド・ベヒモス。
「あ、ああ……。王都の連中、本当に封印を解きやがった……」
カイルの顔から血の気が完全に引いた。
王宮に残された無能な魔導士たちが、自分たちの保身のために手を出した『地脈魔力の強制抽出』。その禁忌の代償はあまりにも大きかった。魔力を吸い尽くされ、空っぽになった大地から、かつて神代に封印された災厄が、飢えと怒りとともに目覚めてしまったのだ。
「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!」
天地を揺るがす咆哮が響き渡り、その音圧だけで開拓村の粗末な小屋がバキバキと音を立てて崩れていく。
魔獣が歩を進めるたびに、大地に巨大な地割れが走り、かつて王都だった場所は一瞬にして瓦礫の山へと変わっていった。
「に、逃げろ! 逃げろおぉっ!」
開拓村の守備隊たちが、武器も防具も投げ捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
しかし、結界のない剥き出しの大地において、古代魔獣の進行から逃れる術など存在しない。
「待って、カイル様! 私を置いていかないで!」
シャーリーが泣き叫びながらカイルの服を掴んだが、カイルは自身の恐怖に駆られ、彼女の細い腕を乱暴に振り払った。
「離せ! お前と一緒にいたら死ぬ! そもそも、お前がエルサの結界を奪ったりしなければ、こんな化け物が目覚めることもなかったんだ! 全部お前のせいだ!」
「なんですって!? カイル様だって、お姉様より私の方がいいって言ったじゃない! 助けてよ、騎士団副長でしょう!?」
「うるさい! 俺はもう副長でも何でもない! 消えろ、この疫病神め!」
二人は最後の瞬間まで、お互いを呪い、責任をなすりつけ合っていた。
迫り来る古代魔獣の影が、開拓村を覆い尽くしていく。
彼らが最後に見たのは、自分たちの身勝手な欲望が招いた、真っ黒な絶望の終幕だった。
その頃。
古代魔獣の目覚めによる災厄の波は、確実に隣国ノーザンクロスへと向かっていた。
しかし、ノーザンクロスの国境線には、旧祖国のようなパニックは微塵もなかった。
そこには、エルサが考案し、ギルベルトとともに展開した新たなる術式――『魔力自立循環型結界』が、静かに、そして圧倒的な威容をもって輝いていたからだ。
「エルサ様、ギルベルト様! 祖国の王都が崩壊し、古代魔獣ベヒモスがこちらに向かって進行中との報告です! 余波による衝撃波と瘴気が、間もなく国境に到達します!」
魔力制御室に、アルバンからの緊迫した声が響く。
「想定の範囲内だ」
ギルベルトは落ち着いた口調で答え、隣に立つエルサを見つめた。
「エルサ、準備はいいかい?」
「はい、ギルベルト様。私たちの新しい結界の力を、証明しましょう」
エルサは力強く頷き、中央に置かれた白銀の魔法陣に、両手をかざした。
彼女が魔力を注ぎ込んだ瞬間、ノーザンクロスの国境線沿いに、まばゆいばかりの翡翠色の光の障壁が立ち上った。
それはかつて彼女が一人で無理やり維持していた結界とは違い、大地や大気の魔力と完全に同調し、呼吸をするかのように自動で強度を増していく、完璧なまでの防壁だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!!!
旧祖国を滅ぼした古代魔獣の瘴気と、大地を引き裂くような衝撃波が、ノーザンクロスの結界へと激突した。
旧祖国の王都を一瞬で壊滅させたその破壊のエネルギー。
――しかし。
パシィィィィン……!
まるで、降り注ぐ雨を傘が弾くかのように。
エルサの結界は、古代魔獣の放った災厄の波を、微かな揺らぎすら見せずに完璧にシャットアウトした。
障壁に触れた禍々しい黒い霧は、翡翠色の光に浄化され、むしろ結界の維持魔力へと変換されていく。
「す、素晴らしい……! 衝撃を完全に吸収し、魔力に還元しています!」
制御室にいた魔導士たちが、驚嘆の声を上げた。
誰も犠牲にならず、誰も魔力をすり減らすことなく、ただエルサの組んだ術式が、国を完璧に守り抜いている。
「これなら、あの化け物がどれだけ暴れようと、我が国に被害が及ぶことは万に一つもありませんね」
エルサはほっと胸を撫で下ろし、柔らかな微笑みを浮かべた。
「ああ。君の勝ちだ、エルサ」
ギルベルトが背後から彼女の腰を優しく抱き寄せ、その耳元で囁いた。
「君を捨て、その価値を踏みにじったあの国は、自分たちの招いた災厄によって自滅した。そして、君を迎え入れた我が国は、君の知恵と力によって、これ以上ない平和を手に入れたんだ」
「はい……。私、本当に幸せです。私の力が、こうして大切な人々を守るために使えて」
エルサはギルベルトの胸に頭を預け、遠くで黒い霧に包まれて消えゆく祖国の山々を見つめた。
そこにはもう、彼女を縛る未練も、自分を苦しめた人々への憎しみすら残っていなかった。
ただ、自分を正当に評価し、愛してくれる人が隣にいるという、確かな幸福だけがそこにあった。
一ヶ月後。
古代魔獣ベヒモスが暴れ回った旧祖国の領土は、完全に生物の住めない死の大地と化していた。
王族も、貴族も、そしてエルサを追い出したカイルやシャーリー、クラウス伯爵夫妻も、その消息を知る者は誰もいない。彼らは自分たちの愚かさの代償として、歴史の闇へと消え去ったのだ。
対照的に、ノーザンクロスはかつてないほどの繁栄を迎えていた。
エルサの結界術によって絶対的な安全が保証されたこの国には、大陸中から優秀な商魔導士や学者が集まり、新しい技術と富がもたらされていた。
そして今日、魔塔の最上階では、特別な儀式が執り行われようとしていた。
美しいウェディングドレスを身に纏ったエルサが、鏡の前に立っている。
かつての地味で疲れた表情はどこにもない。そこにあるのは、愛する人に愛され、自分の人生を誇らしく生きる、世界で一番幸せな女性の姿だった。
「待たせたね、エルサ」
扉が開き、正装に身を包んだギルベルトが入ってきた。
彼はエルサの姿を目にした瞬間、そのあまりの美しさに息を呑み、そして最高に愛おしそうな表情で微笑んだ。
「君は、私の人生に現れた最大の奇跡だ」
「私もです、ギルベルト様。あなたに出会えて、私の人生は新しく生まれ変わりました」
二人は手を取り合い、魔塔のテラスへと向かう。
階下には、彼らの結婚を祝福するために集まった、無数の領民たちの笑顔があった。
青空に向かって、翡翠色の光の花びらが舞い上がる。
それは、天才結界師エルサが歩む、永遠に続く幸福な未来を、誰よりも祝福しているかのようだった。
大地そのものが恐怖に震え、悲鳴を上げているかのような不気味な振動。最前線の開拓村にいたカイルとシャーリーは、壁の隙間から立ち上る禍々しい瘴気を見て、本能的な恐怖に身をすくませた。
「ひ、ひぃっ……! な、何なの、あの黒い霧は……!?」
シャーリーがガタガタと歯を鳴らし、這うようにして小屋の隅へ逃げ込む。
カイルは震える足で外へ飛び出し、旧祖国の王都がある方角を見上げた。
そこには、かつてエルサが翡翠色の結界を張って守っていた平和な空の面影など、微塵もなかった。
王都の方角から立ち上っているのは、天を突くほどの巨大な漆黒の魔力の柱。そして、その中心から、地鳴りとともに『何か』が這い出てくるのが見えた。
山脈と見紛うほどの巨大な質量。全身を岩石のような外殻で覆い、六つの紅い眼を怪しく光らせる古代魔獣――グランド・ベヒモス。
「あ、ああ……。王都の連中、本当に封印を解きやがった……」
カイルの顔から血の気が完全に引いた。
王宮に残された無能な魔導士たちが、自分たちの保身のために手を出した『地脈魔力の強制抽出』。その禁忌の代償はあまりにも大きかった。魔力を吸い尽くされ、空っぽになった大地から、かつて神代に封印された災厄が、飢えと怒りとともに目覚めてしまったのだ。
「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!」
天地を揺るがす咆哮が響き渡り、その音圧だけで開拓村の粗末な小屋がバキバキと音を立てて崩れていく。
魔獣が歩を進めるたびに、大地に巨大な地割れが走り、かつて王都だった場所は一瞬にして瓦礫の山へと変わっていった。
「に、逃げろ! 逃げろおぉっ!」
開拓村の守備隊たちが、武器も防具も投げ捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
しかし、結界のない剥き出しの大地において、古代魔獣の進行から逃れる術など存在しない。
「待って、カイル様! 私を置いていかないで!」
シャーリーが泣き叫びながらカイルの服を掴んだが、カイルは自身の恐怖に駆られ、彼女の細い腕を乱暴に振り払った。
「離せ! お前と一緒にいたら死ぬ! そもそも、お前がエルサの結界を奪ったりしなければ、こんな化け物が目覚めることもなかったんだ! 全部お前のせいだ!」
「なんですって!? カイル様だって、お姉様より私の方がいいって言ったじゃない! 助けてよ、騎士団副長でしょう!?」
「うるさい! 俺はもう副長でも何でもない! 消えろ、この疫病神め!」
二人は最後の瞬間まで、お互いを呪い、責任をなすりつけ合っていた。
迫り来る古代魔獣の影が、開拓村を覆い尽くしていく。
彼らが最後に見たのは、自分たちの身勝手な欲望が招いた、真っ黒な絶望の終幕だった。
その頃。
古代魔獣の目覚めによる災厄の波は、確実に隣国ノーザンクロスへと向かっていた。
しかし、ノーザンクロスの国境線には、旧祖国のようなパニックは微塵もなかった。
そこには、エルサが考案し、ギルベルトとともに展開した新たなる術式――『魔力自立循環型結界』が、静かに、そして圧倒的な威容をもって輝いていたからだ。
「エルサ様、ギルベルト様! 祖国の王都が崩壊し、古代魔獣ベヒモスがこちらに向かって進行中との報告です! 余波による衝撃波と瘴気が、間もなく国境に到達します!」
魔力制御室に、アルバンからの緊迫した声が響く。
「想定の範囲内だ」
ギルベルトは落ち着いた口調で答え、隣に立つエルサを見つめた。
「エルサ、準備はいいかい?」
「はい、ギルベルト様。私たちの新しい結界の力を、証明しましょう」
エルサは力強く頷き、中央に置かれた白銀の魔法陣に、両手をかざした。
彼女が魔力を注ぎ込んだ瞬間、ノーザンクロスの国境線沿いに、まばゆいばかりの翡翠色の光の障壁が立ち上った。
それはかつて彼女が一人で無理やり維持していた結界とは違い、大地や大気の魔力と完全に同調し、呼吸をするかのように自動で強度を増していく、完璧なまでの防壁だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!!!
旧祖国を滅ぼした古代魔獣の瘴気と、大地を引き裂くような衝撃波が、ノーザンクロスの結界へと激突した。
旧祖国の王都を一瞬で壊滅させたその破壊のエネルギー。
――しかし。
パシィィィィン……!
まるで、降り注ぐ雨を傘が弾くかのように。
エルサの結界は、古代魔獣の放った災厄の波を、微かな揺らぎすら見せずに完璧にシャットアウトした。
障壁に触れた禍々しい黒い霧は、翡翠色の光に浄化され、むしろ結界の維持魔力へと変換されていく。
「す、素晴らしい……! 衝撃を完全に吸収し、魔力に還元しています!」
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誰も犠牲にならず、誰も魔力をすり減らすことなく、ただエルサの組んだ術式が、国を完璧に守り抜いている。
「これなら、あの化け物がどれだけ暴れようと、我が国に被害が及ぶことは万に一つもありませんね」
エルサはほっと胸を撫で下ろし、柔らかな微笑みを浮かべた。
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ギルベルトが背後から彼女の腰を優しく抱き寄せ、その耳元で囁いた。
「君を捨て、その価値を踏みにじったあの国は、自分たちの招いた災厄によって自滅した。そして、君を迎え入れた我が国は、君の知恵と力によって、これ以上ない平和を手に入れたんだ」
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「私もです、ギルベルト様。あなたに出会えて、私の人生は新しく生まれ変わりました」
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階下には、彼らの結婚を祝福するために集まった、無数の領民たちの笑顔があった。
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