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滅びのメロディー

心の叫び

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「あ……あのね……転んじゃって、バケツを被っちゃったの……本当にドジだよね、わたしって、アハハ……ハハ……」
必死に考え出した嘘を喋った。
少し長めの前髪を弄りながら。
相手は幼なじみに加えて奈央と里沙は勘が鋭いし、祐太達、四人は洞察力が鋭い。
嘘をつくには難しい相手だ。
それだけを言うとわたしは逃げるようにその場を去った。

バレてるかな?

「見て、明日美ちゃんよ…。」
何人かの主婦がわたしの悪口を言っているが特に気にしない。
普通は気にするだろうが、今のわたしは完全に心が麻痺している。

もうどうでもいいや……。と思って、知り合いでも探しにいこう……。
そしたら面倒なことに藤宮と木下がいた。
この二人、絶対に許さない。
そんなことを思っていると、
「ちょっとあんた、何、恨めしそうな目付きでみてんのよ!?」
藤宮のヒステリックな声が耳に滑り込んでくる。
「そうよ、そうよ!!年上に向かってその態度は何なのよ!!」
木下がいつものように同調する。
この二人にどれだけ罵詈雑言を浴びせられても何とも思えなくなった。
慣れって怖い。
それでも二人がわたしの心を蝕んでいるのは確かだった。
ガツンッ
何かがわたしの額を直撃した。

痛い……。
反射的に額を押さえつける。押さえつけた手を見るとうっすらと血液が付着していた。
コロンッと何かが床に転がる。
それは、スチール缶だった。
「痛い……。」
思わず口に出してしまった。
「何よ、なんか文句あるの!?」
藤宮が声をあげる。
わたしは必死に我慢した。
「そうよ、そうよ、なんか文句あるの?って藤宮様が言ってるじゃないの?」
木下がヒステリックに叫び、わたしに向かってトゲトゲしたものを投げつけた。
それはわたしの頬を直撃した。
床に落ちたそれを見ると、トゲトゲとした栗だった。
「あの、これ以上嫌がらせしないでください!!」
わたしが声を大にして言うと藤宮は逆ギレして、
「何よ?逆ギレするつもり?全部あんたが悪いでしょ!?」
と全く分かっていないようだ。
いつだってそうだ。
最低な奴ほど、自分の悪事を認めない。
わたしはどうしていいのか分からず、闇雲にトイレへとかけ込んだ。

鏡を見てみる。
鏡の中には、肩に掛かるくらいに伸びた長めの髪を振り乱した傷だらけの顔をした少女が恨めしそうにこちらを見ている。
それは、紛れもなく、わたしだった。
栗のトゲが刺さり、頬には針で刺されたような傷ができていた。
スチール缶を投げつけられた額には、血がにじみ、その周囲が青ざめて痛々しかった。

どうしよう……。こんな顔じゃ誰にも顔を見せられないよ。

ーなんで、人をいじめて楽しむの?ー
ーわたしの大切な人の、わたしの悪口を散々言って楽しい?ー
ーマナー違反を注意しただけでこんなひどい仕打ちある?ー
ー人の気持ち、1秒でも考えたことあるの?ー
ーなんでそこまで性悪になれるの?ー
わからない……。
「わたしには、わからない、分からないよ……。」
そう一人で呟く。
もちろん、誰も居ないので、答えてくれはしない。
許さない……。
「わたしはあんたを絶対に許さない……。」
二人に対する疑問の気持ちは気づくと、憎悪へと変貌を遂げていた。


わたしはトイレを出た。
こんな場所で籠っていても仕方がないし、周りはかえって心配する。
髪の毛で傷だらけになった顔を隠して、みんなの元に帰った。

「ただいま……。」
「おう、おかえり。」
わたしの弱々しい声に祐太が反応する。
「随分、厠に籠っていたな。」
「明日美ちゃん、遅かったね。」
奈央と義経に心配されたが、わたしの怪我には気づいていないみたいで安心。
お母さんも隣で色々やっているのでわたしの状況には気づいていない。
その傍らで美春ちゃんが宿題をせっせとやっている。
「明日美ちゃん、社会が分からないから教えて~。」
美春ちゃんが社会の問題集をこちらに持ってくる。
わたしの顔を覗き込んだ美春ちゃんが
「一体何があったの!?顔が大変なことに
……。」
叫び声をあげた。
彼女らしい舌足らずな言い回しではあったがこれだけでも充分わたしに何かがあったということが分かってしまう。
美春ちゃんの言葉に気付いたみんなは揃い揃ってこちらに顔を向ける。

ーどうしよう、ばれちゃう!ー

わたしは反射的に俯いたが、どうやらわたしの顔がハッキリと見えてしまったようだ。
「あんた、どうしたのよ、その顔!!」
お母さんが怒鳴っているような悲しんでいるようなどちらともつかない声をあげた。
「「「明日美ちゃん!?」」」
「「「「「明日美殿!?」」」」」
「明日美!?」
わたしは思考が停止しそうな頭を回転させて
「こ……転んじゃったの……ド……どんくさくてごめんね……。」
震える口で言ってのけた。
「嘘だな。」
義経がぽつりと言った。
「!?」
一撃で見抜かれてしまった……。
「だいたいさ、いくらお前がドジでも転んで水を被るなんてあり得ねぇし。」
祐太が前から分かってましたって感じで言う。
「明日美ちゃん、あのとき、私達のこと避けてたよね?
やっぱり何か隠してるでしょ?」
里沙ちゃんにもバレてた……。
わたしは藤宮と木下を避けてた筈なのにいつしかみんなの事まで避けはじめていたのだ。
心配をかけたくない……。
そんな思いからきた行いがかえってみんなを心配させた。
ーわたしって馬鹿だなー
「隠し事はダメよ。」
お母さんがビシッと言ったとき、わたしは決意した。
全てを話そうって。
心のなかで埋めいている黒いものを吐き出すんだ……。

有りもしない噂を広められたこと。

マナー違反を注意しただけで陰湿な嫌がらせをうけたこと

わざと足を引っ掻けられたこと

わざと氷水を掛けられたこと

「なんだよそれ!!酷すぎるじゃねぇか!!今すぐ木刀で叩いてやりたい。」
祐太が思わず怒声をあげた。
「今すぐ張り倒してくるから。」
ちょっとお母さん……!!
「「明日美殿、その者の場所を教えろ。」」
いつもより数トーンも声を低くした義経と季長、その手は刀を握っていた。
「木下と藤宮って者の首を斬ってやる!!」
いくらなんでもそれはまずい。
「よっちゃん、すえ君、それはダメだよ!!重罪で捕らえられちゃうし、色々大変なことになっちゃう!!」
木下と藤宮を探しに行こうとする二人を何とか止める。
「大丈夫だ。そうなる前に腹を……。」
最後の「切る」が言えなかったのはわたしが口を挟んだからだ。
「全然大丈夫じゃないよ!!死んだら許してくれる世界じゃないんだから!!
それより、竹崎家復興と平家を倒すって夢はどうしたのよ!わたしなんかの為に……!!」
「祐太だってそんなことをしたら少年院行きになっちゃう!!お母さんだって逮捕されちゃうよ……。いいよ、わたしのことなんて。そうやって怒ってくれてるだけでわたしは幸せなんだから。」
なんでこんなに悪化するまで我慢したのかな?
どうして最初の段階で誰かに助けを求めなかった?
「助けて」と言える人が身の回りにいたのに、なんで?








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