即時一杯の飯に如かず

及川まゆら

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ロシアンティー

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 定時、オフィスラブは命取り。

 そう決めつけていた俺は今まで何の為にそれを守って来たのか、今となっては知る筈もない現実が降りかかっている。

 「だから、和真とは付き合ってないから」
 「証拠は?家にあげる仲なのに、信じられない」

 もうずっとこの調子で論議しているが、なぜ和真との関係を話題にしなければいけないのか理解できない。それより一夜限りの出来事に対する責任とやらを巡り毅然とした態度で応戦しているのだが、どうにも話の決着が見えない。

 「お前だって仲のいい男のひとりやふたり、いるだろ」
 「そこで個人情報の開示させる?」
 「まさか俺と…付き合うとか言い出すなよ」
 「うわ…最低…もういいよ。最初から遊びのつもりなんでしょう」

 お互い感情的になったところで話は終わった。
 これが俺と白鳥の馴れ初め、手始めLINEの交換をして別れたが疲労の色を隠せず、オフィスに戻れば上司から今日は早く帰れと言われる始末。先が思いやられる。

 ◇
 
 あれから一週間、顔を合わせることなく距離もそのまま進展も無く週末を迎えた。
 俺が言うまで和真は何も聞いてこない。お互いのプライベートには口出しをしない仲だが、和真の雰囲気を察して打ち上げる事にした。


 「面倒くさいね、俺なら無理」


 ざっくり、和真はこういう男だ。俺は割り切れなくて自損事故を起こしている。
 和真もそれはよく知っていて、鍋の底に気泡が立つタイミングで火を止めてティーポットを洗い流した後、純銀製のドザールに茶葉を規定量すくい流れるようにしてお湯を注ぐ。正確な体内時計を刻みながら2分10秒、話は途切れることなく茜色のアッサムを最期の一滴までティーカップに注ぐ和真の手元から目が離せない。
 小さな瓶の蓋を開けて苺のジャムをひと匙
 溶かしたらロシアンティーの完成。
 アッサム特有の芳醇な香りに甘さが漂い、唇を寄せればやはり鋭く甘い。
 飲み込んで温度が引いてくると苺の甘酸っぱさがほのかに残る。
 今まで飲むのは日本茶くらいで紅茶には好き嫌いがあったが、和真に出会ってから淹れてくれる紅茶は飲めなかったものがない。

 「甘すぎない?」
 「いや、前に行ったベトナムコーヒーの専門店で飲んだあれよか断然飲みやすい。あれは刺激的な甘さだった」

 グラスの底にコンデンスミルク
 深入りのコーヒー豆で入れた真っ黒なコーヒーが二層に分かれいてるベトナムコーヒーはよく混ぜて飲んでも胃袋に溜まる甘ったるさが応える代物。

 「そう?スペキュロスが欲しくなるけどね」
 「ああ、ロータスか。たまに食べたくなる味だな」
 「シナモンは世界を魅了するスパイス。俺も最初は苦手だったけど、嫌いなものは好きになる要素が必ずある。それを拒否してる理由がどっかにあって気が付いてしまった時には、もう恋に落ちてる」

 和真は微笑みながら、ティーカップの淵を指先で愛おし気になぞっていた。


 「上手くやってください」


 甘いため息をつきながら俺は頷いた。
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