ちょっぴり奇妙なお話集 

夏実朋可

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道祖神

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 「村はずれにある道祖神の話を何か知っていますか?」
 
 男はそう、旅館の主人に聞いた。
 「村はずれと言うより、森に近い所にあるやつですよね。」
 そこは、ディ−プな一人旅の達人達の噂話となっている場所だった。
 全国にあるそんな噂話を聞いて旅行に出かけると言うのが男の休暇の過ごし方だ。
 「いやだなぁお客さん。あの道祖神がある事を知っているって事は、噂を聞いてここへ来なすったんでしょ?」
 ネット上で交換されている話題。
 旅人達の間で秘かに言われている噂話。
 それはその道祖神にお参りすると道祖神が未来を教えてくれ、その道祖神を見ても手を合わせず通り過ぎてしまうと災いが身に降りかかる、と言うものだった。
 その道祖神については他にも、一攫千金を手にしたとか災難にあって亡くなったとか、話しに尾ひれが付いているらしい話もたくさん聞いた。
 「いろいろ噂があるようですが特に大げさな話はないですよ。村の守り神として静かに見守ってくれている。そんなところです。で、もう観に行ったんですか?」と主人。
 「いえ、明日行こうかと。」
 「そうした方がいい。あれ目当てに来たのだったら一度は手を合わせないと」
 そんなやりとりがあった次の日「道祖神を拝んでから、その先の森の中のつり橋を渡って軽く散策してから戻ります」と宿の主人に言って男は旅館を出た。
 村はずれにある道祖神はひっそりと隠れるようにそこにあった。
 男は両手を合わせて目を閉じた。
 目を開けると道祖神の顔の向きが変わっているように思える。不思議に思ってもう一度目を閉じる。すると耳元で声が聞こえたような気がした。
 『早く宿に戻りなさい』
 声は気のせいだったのかもしれない。だが、妙に気になって男は散策の予定を止めて言われるがまま宿に戻った。
 「無事でしたか!」旅館の主人は男の姿を見ると驚いた様に大きな声で言った。
 「いやあ、道祖神の御告げみたいなものがあって取り合えず引き返してきたよ」呆れられるかと思い男は照れくさそうに笑った。
 宿の主人は男のそんな様子など目に入らない。
 「引き返すって言ったって、いったい丸一日どこを歩いていたんです! 心配したんですよ!」
 「丸一日って……まだ半日も経ってやしないでしょ」
 「何をのんびりとした事を言っているんですか! 昨日、お客さんが出て行った後、あの先のつり橋に行く道で大きな落石があったって言うから、お客さんが巻き込まれたんじゃあないかって大騒ぎですよ。今、村の消防団と青年団がお客さんを探しに出ているんですよ!」
 男が、旅館を出て行ってから一日が経っていた。
 つまり道祖神を拝んでいる間に一日経過していたのだ。
 あの噂は真実だった。
 旅好きの男を道祖神が守ってくれた。
 そう言う事だと男は思った。
 
 道祖神は悪霊から守ってくれる、五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄の神であるが、「旅の安全の神」でもあると言う。
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