宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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青の星 青の星戦域⑭ 決戦ダークスター対レヴァティーン艦隊③ 壊滅レヴァティーン艦隊

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 小惑星をも破壊する破壊力を持った一撃は、辺りに強力な電磁波を巻き起こし、すべての危機を一瞬フリーズさせる。

 そのため一切の情報が遮断されるが、反射された一斉射撃の光が消えた一瞬後には復旧して、レヴァティーン艦隊のありとあらゆる情報がブリッヂのモニターである宇宙儀に映し出されると、すぐさまオペレーターが現状を報告してレイラの指示を仰ぐために声を上げる。

「戦艦ラファエロ、アスラ轟沈! 続いて巡洋艦アイン、シスター轟沈! 電磁波の影響で他艦との通信回線開けません! 戦艦及び巡洋艦と連絡取れません!」

 そう、光が収まり艦内のシステムが復旧したレヴァティーンの宇宙儀に映し出されたのは、レイラの命令に従いながらも、艦首に多重エネルギーシールドの展開が間に合わなかった戦艦や巡洋艦が、無防備に直撃を喰らい次々と轟沈していく姿だった。

 そして中にはシールド展開が間に合ったにもかかわらず、惑星破壊砲の直撃を受けてシールドごと撃ち抜かれる戦艦や惑星破壊砲にシールドごと呑み込まれ、轟沈する巡洋艦もあった。

 結局無事だったのは、自艦のエネルギーシールドでは防ぎきれないと瞬時に判断を下して、エネルギーシールド展開を捨てて回避に専念した艦やとっさに旗艦レヴァティーンの陰に逃げ込んだ艦だけだった。

「たった、たった一撃で我がレヴァティーン艦隊が壊滅だと!?」

 魔王により跳ね返された攻撃による被害を目の当たりにしたレイラがボーぜんとした様子で呟くと、まるでそれを合図にしたように、各艦の損傷を知らせるアラームがけたたましく鳴り響いた。

 警報アラームを耳にしたレイラが声を上げる。

「生き残った艦は!」

「うまく跳ね返された一斉射撃を交わした戦艦ラフィニア、我が艦の後方に逃げ込んだ巡洋艦イリスの約二隻です。本艦は前面に集中的に多重シールドを展開したために損傷軽微っ他戦艦及び巡洋艦、大破多数っ跳ね返された惑星破壊砲に巻き込まれたためと思われます!」

 ちぃっまさか手傷を負っているはずの魔王が、惑星破壊砲を跳ね返すほどの膨大なエネルギーを有するカウンターシールドを展開できるとはな。しかも立った一撃でこれほどの打撃をこうむるとはさすがに想定外だ。しかも生き残っている艦も、無傷なものがほとんどないか。まさかここまでとはな。

 絶えず送られてくる各艦の状況報告を聞きレイラは冷や汗を流しながら独り言ちていると、焦ったようなオペレーターの声がブリッヂに木霊すると共に、敵の攻撃を知らせる警報がブリッヂ内に響き渡った。

「艦長!」

「どうした」

「ダークスターよr多数の高エネルギー反応補足。魔王の放ったクリムゾンと思われます!」

 レーダーを目視しながら、敵攻撃を注視していたオペレーターが声を上げると、立て続けに別のオペレーターが声を上げる。

「艦長っレヴァティーン艦隊各艦との通信回線復旧しましたっ各艦から救助を求めるエマージェンシーコールがひっきりなしにかかってきます!」

「魔王からの攻撃を受けているいまっ救助している余裕はないっ全艦にシールド展開させろ!」

「駄目ですっ先ほどの攻撃でシールドシステムを損傷した艦多数っシールド展開できません! 生き残った艦も先ほどの攻撃を防ぐためにシールドエネルギーをほとんど使い果たしていて、新たなシールドを構築し展開するには時間が足りませんっ艦長!」

 オペレーターが魔王の攻撃。さらに仲間の艦のシールドが展開できないことを知り焦りの声を上げる。

「想定内だっ先ほどと同様、シールド展開のできない艦は、我が艦もしくは無事な戦艦の陰に入るように命令しろ! 我が艦を前面に押し出して盾とする! 広域シールドを展開しろ!」

「はい!」

 レイラの指示を聞いたオペレーターたちが、シールド操作を行いながら、通信の通じる各艦に次々に指示を飛ばす。

 それを聞きつつレイラがオペレーターに質問を飛ばす。

「ワープ航行可能な艦はどこだ」

 レイラの質問を受けたオペレーターが、宇宙儀に映し出されているデータを目先の立体モニターに転送して、黙示で各艦の被害状況を選別しながら答える。

「戦艦ラフィニアと巡洋艦イリスです」

「二隻だけか」

「はい。他艦はワープ航行システムが破損しているか、ワープエネルギーを確保し、航行できる状態にありません!」

 宇宙儀や各艦との通信で大まかな被害状況を把握しているオペレーターが声を上げる。

「ならば、ラフィニアとイリスに緊急連絡。我が艦の転送システムを使って大破した戦艦や巡洋艦から宇宙空間に投げ出された乗組員たちを可能な限り転送し、その後この宙域より緊急離脱させろっ」

「了解しました」

 レイラの指示を聞いたオペレーターがすぐさま行動に移る。

「艦長。皆を助けて離脱するなら、ラフィニアやイリスに転送するより、我が艦に直接転送させて離脱した方が早いと思いますが?」

 艦長であるレイラを見つめながら、意見してきたのは、レイラ付きの副官だ。

「わかっている。お前の疑問はもっともだ。それに同様の意見を持っている者もこの場には多くいるだろう」

「艦長そんなことは……」

 副官が反論しようとするも、レイラ自身が反論しようとする副官に、『待て』と言った感じで手の平をかざしてそれを手で制する。

「かまわん。私とてお前たちと同じ立場なら、自分の艦の艦長はなに非効率なことを言っているんだと思うはずだ。だがこれには理由がある」

「?」

「我が艦。旗艦レヴァティーンはこの宙域を離脱しない」

 ざわっ皆が皆レイラの予想外の発言に、驚きの表情を浮かべてレイラに視線を集中させる。

 レイラはブリッヂにいる乗組員全員の視線が殺到しているというのに、全く意に介したふうもなくいつものように淡々とした物言いでしかし力強く答える。

「乗組員の救助が済み次第、我が旗艦レヴァティーンは、単独の魔王掃討作戦を開始する!」

「艦長! 艦隊という体を失った今、この状況下で魔王に戦いを挑むなんて自殺行為です!」

 そう彼女の言う通り、艦隊にとって旗艦とはいわば行動を考える頭であり、艦隊とは旗艦にとっての行動を行うための体という位置づけにある。つまり体を失った今、頭単体で何ができるのかと、レイラ付きの副官は言っているのであった。

「そうです艦長! 艦隊を失ったいまっわたしたちだけで魔王に立ち向かうのは死にに行くようなものです!」

 レイラの発言を聞いた乗組員が立ち上がり、その中から似たような複数の異論の声が飛ぶ。

「わかっている。だが今この場で魔王を取り逃がせばこの周辺宙域の惑星は、すべて奴の支配下に置かれるだろう。そうなってはもはや手遅れだ」

「しかし艦長。本国から応援を呼んでからでも遅くはないのでは?」

 この艦の副官が官庁であるレイラに苦言を呈す。

「先ほども言ったが、今現在この状況は魔王を倒す絶対的好機、絶好機に変わりない。星に寄生した魔王。その星のコアがむき出しになっている状態。むき出しのコアを撃ち抜けさえすれば、惑星爆発を引き起こし、それに巻き込み魔王を仕留められる。こんな好機は二度とないだろう」

「確かにそうかもしれませんが、しかし艦長。体ともいえる艦隊を失った今、我が艦一隻で魔王に太刀打ちできるとは到底思えませんっそれに、魔王には我々の惑星破壊砲をも跳ね返すカウンターシールドがあります。あれがある限り、我々の攻撃は魔王には通りません」

「わかっている。そしてそのための策はすでに練ってある」

 長年の付き合いで、レイラが勝算のない特攻じみた戦い方を決してしないことを知っている副官が聞き返す。

「艦長、策とは何ですか?」

 副官の声に皆が一斉にレイラの方を振り向く。

 先ほど魔王に大敗を喫したとはいえ、幾度もの視線を共に歩み潜り抜けてきたレヴァティーンの乗組員たちのレイラへの信頼は、米粒一つ揺るぎがなかったからだ。

「まさか艦長、魔王の張り巡らせているカウンターシールドを破る策を思いついたのですか?」

 副官がそう呟くと、レイラが力強く頷きながら答える。

「策と呼べるほどのものでもないがな。可能性はある。と私は思っている」

「では艦長方法とは?」

「物理的な力をもって、魔王のカウンターシールドを撃ち破る!」

「物理的な力?」

「この艦。つまり旗艦レヴァティーンの艦首に多重シールドを展開し、そのまま特攻をかけ、魔王のカウンターシールドを撃ち破る!」

「なっ!?」

 レイラのこの一言に、この場にいる皆が驚きの表情を浮かべながら声を上げる。

 それはそうだろう。宇宙での戦闘において、それほどまでに近接戦闘は珍しいことなのだ。しかもその近接戦闘が、船体を使った体当たりだというのだから驚くな。という方が土台無理な話なのである。

 なぜなら、宇宙空間の戦闘においては、たいていがレーザー兵器などの打ち合いで勝敗が決するからだ。

「なるほどレーザー兵器が通用しなければ物理攻撃ですか」

「その通りだ。奴もさすがに船体ごとぶつかってくるとは思おうまい。それに我が旗艦レヴァティーンの惑星破壊砲を跳ね返すほどの強力なシールドだ。そんな代物、いくら魔王と言えど、手傷を負っている今の状態でたやすく構築できるとは思えないからな」

「つまり艦長、あのカウンターシールドは、対レーザー特化型の可能性が高く、物理的なほかの攻撃に関しては比較的脆いかもしれない。と、いうわけですか?」

「その通りだ」

 副官の言葉にレイラが頷き答える。

「確かにその可能性はかなり高いとは思いますが、もし艦長のその読みが外れていた場合」

「猛スピードでシールドにぶち当たった我が艦は大破し、宇宙の藻屑となるだろう。そして、その後我が艦は魔王によって塵も残さず殲滅されるだろう」

 全乗組員のゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。

「危険な賭けではあるが、私はやってみる価値はあると思っている。そして、それだけの代償を支払う見返りもな」

 そう、レイラは立った一隻の戦艦で、この宇宙を救うことができる可能性があるというのなら、それに賭けてみたいと言っているのだった。

「これは決死戦である! 無理強いはしない。命が惜しいもの。故郷が恋しいもの。守るべきものがまだあるものは、戦艦ラフィニアッ巡洋艦イリスと共に本国に帰還してかまわんっ」

 艦長が船自体を使って勝ち目のない敵に突撃すると言っているのだ。ここで人望のない普通の艦の艦長や人員の寄せ集めのにわか戦艦だったならば、離反者が続出していてもおかしくない状況のはずだ。だが、この船の乗組員たちは、ともに数多の戦場を駆け抜け、ともに幾度もの視線を潜り抜けてきた歴戦の勇士たちだ。

 そして、そんな自分たちを長年指揮し、ともに戦場を駆け抜けてきた艦長であるレイラを心の底から信頼していた。

 だからこそ誰一人として、この戦場から逃げ出すものなどいなかったのである。

 そんな中、皆の心中を察したレイラの副官がレイラに声をかけてくる。

「いまさら何を当たり前のことを言ってるんですか艦長。すでにみな、艦長に身も心もささげているんですから、どこまでもついていくにきまってるじゃありませんか?」

 副官の言葉に皆が頷く。

「それにいくらほとんどの機能がAIによる人工知能制御といっても、これだけ大きい戦艦。艦長一人で動かせるわけないじゃないですか」

 艦長のレイラを見つめながら、副官が呆れたように言う。

 副官の言葉に賛同した乗組員たちが、レイラに向かってそうですよ。とか副官の言う通りですよ艦長。などと言ってくる。

 レイラの話を聞き皆すでに覚悟を決めているのか、開き直ったような笑い声が艦内に木霊していた。

「ふっ我が艦の乗組員たちは全くバカばかりだな」

 これから決死戦を挑もうというのに、乗組員たちの反応を見たレイラ苦笑じみた笑みを浮かべる。

「前線に出てあなたの船に乗った時から、いつかこんな時が来るんじゃないかと皆覚悟はしてましたよ」

 圧倒的に不利な状況下で命を賭ける羽目になった副官が、ふうっと少し疲れたようなため息をつき苦笑を浮かべて一人ごちた。

 副官のその言葉を聞いた船の乗組員たちは、まっすぐにレイラに視線を向けて頷いていた。

 そう、ここにいる大半の者は、魔王の侵攻によって故郷を追われている身だ。そのためこれ以上自分たちのような身の上のものを増やさないためにいざという時の覚悟は常日頃から決めていたのだった。

 レイラは真っすぐに向けられる皆の視線を一身に受けると、苦笑を浮かべる。

「ふぅっバカどもが」

「皆。あなたの部下ですから」

「ああ、そうだな」

 副官の言葉を受けたレイラは、一人納得したように頷いた。

 そう、皆私の大事な部下であり、かけがえのない仲間だ。だから決して無駄死にはさせまいと、レイラは強く己の心に誓う。

 そして、死地に赴こうという自分について来ようとしている乗組員たち一人一人の顔へと視線を投じた後、腰に差していた白銀色の剣の刀身を引き抜くと、高々と掲げながら気合の声を上げた。

「この死地を乗り越えっ皆で生き残るぞぉっ!」

 おお~~っ! と、レイラの声にこたえてブリッヂ内に歓声が木霊する。

「艦長っ戦艦ラフィニア、巡洋艦イリスに、乗組員及び救助要員の転送完了しました」

 話が終わるのを見計らったかのように報告を上げる。

 レイラはコクリと頷くと命令を下す。

「この宙域より戦艦ラフィニア、巡洋艦イリスを急速離脱させろっ」

「了解しました」

 レイラの命令を受けたオペレーターが救助を終えた両艦に、この宙域より休息離脱せよとのレイラの命令を伝えると、両艦は、すぐさまこの宙域よりワープアウトした。

 両艦の離脱を見届けたレイラは、標的である魔王の巣食っているダークスターを鋭く見据えると、時の声を上げた。

「我が艦はこれより単独で船体を使い魔王のカウンターシールドを撃ち破り、ダークスターコアに向かって、至近距離で惑星破壊砲をぶちかます! 総員これは決死戦である! だが、必ず生きて帰るぞっ皆の故郷に!」

 うわあああっブリッヂに一際盛大な歓声が轟いた。

「突撃いいいいい!」

 レイラの時の声を合図にして、旗艦レヴァティーン単独の決死戦が開始された。
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