俺はいつも拾われている

つちやながる

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これが俺の生きる道

19 これではじまり

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 俺はひと先ず謝った。

「いつも偉そうにいってごめんなさい。拾ってくれて、勉強も仕事まで沢山お世話になってるのに色々ごめんなさい」

 俺は執務室で頭を下げた。ここに来て自己中暴走してたってわかってる。意地はやめて感謝して素直になろうと思ったけど、結局口に出す事はなかった。

「意地になってた」
「知ってたよ。なあ、バル爺。だから可愛いっていってただろ」
「まったくですな」 
「…う」

 怒ることもせず笑顔で俺を見る、いつも通りの二人だった。
 俺は何回生きても中身が子供だ。馬鹿だ。本当に、なんていい人達に拾われたんだろう。

 バルモンクはレオを付き添わせ仕事をする様になった。屋敷内を予定表にそって隈無く点検、屋敷の出納管理、フィルの仕事を手伝う。食事は主に自分とバルのだけど調理から片付けまで。たまにフィル用の獣の血抜きや普通にスープを作る。

 働いてわかったけど執事って雑用と力仕事とか、色々することが多すぎる。屋敷の裏ボス的存在だと知った。でも俺、執事見習い。ちゃんと仕事してるって実感できる。

 夢中で数週間頑張った。ある日の朝イチ、バルモンクに連れられ執務室に入る。フィルが机上の衣装箱を指し示した。なんかまた服誂えた?

「…なに」
「開けてみろ、レオ」
「…これって」

 それは確かに服だった。バルモンクの執事服に似せた服だった。俺は、はっとして顔をあげ、バル爺とフィルを交互に見た。

「見習いだけど頑張ってるからな。形から入るのも良いもんだろ?レオの執事服だ」

 フィルはくすっと笑った。バルモンクは微笑を浮かべて頷いた。

 俺は、俺は何だ。この気持ちは何だっけ。嬉しいのに胸がきゅうってした。笑顔になりきらず顔がくしゃってなった。思わず箱蓋と衣装をもったままフィルに突進した。どんって衝撃で箱は凹んだけど、フィルは抱き留めてくれた。背中をぽんぽんってしてくれる。

「レオ、そんなに嬉しいのか」
「嬉しい…これ着て仕事、執事頑張る」

 そうだよ。嬉しい。嬉しい。改めて認めて貰えてるって実感する。俺は必要とされてる。嬉し涙が出そうだ。俺はフィルの執事だ。

「早くバル爺が安心して引退できる様に頑張れよ」
「え。…う、ん?」

 俺は間違ってない。と、思う。

 今世は執事をするって選択した。フィルもバルモンクも温かい目で見守ってくれてるとわかる。

 変態だとか溺愛されるとか変に勘ぐって悪かったな。皆優しい。まともな人生じゃないか。

 バル爺が俺が一人前だと認めるまでは、ここで働く。まだ先は長い。毎日少しずつ執事としての経験を積み重ねる。ここで仕事のできる男、できる執事になれるかな。



 そう思った日がありました。



「アンフィル様、これはどうします」
「レオ、いい加減、様付けはやめないか」
「俺は執事です。主を呼称付しないなど、」

 ペシッ

 俺はフィルの手をはたいて睨んだ。今は仕事中だ。
「書類に手を付けず、俺に手を付けようとするなデス。この変態主サマ」
「最近ますます毒舌だなあ」
「アン、フィル、様。先方が返事待ちです。ここに、方針と人員と指示を早く記入して下さい。こ、こ、に、ですよ」

 箇所をコツコツ指差してしつこく言う。

「ああ、レオ、紙が傷む」
「それが終わりましたら…聞いてますか」
「聞いている。さあ、続きを」
「何をニヤついてるんでしょうかね。仕事しやがれアンフィル様」
「レオに怒られると幸せを感じてな」
「チッ」
「舌打ちする執事は駄目だろ、レオ」
「ただの執事ですから多少至らぬ点も、」
「俺の可愛い執事だろ?」
「そうですね。残念な事に貴方の執事です」

 頬杖をつき満足そうに俺を見るフィル。

 その視線を下げろ。そこにある紙を見て記入しろってんだ。俺は半目で睨む。

「仕事しないなら、田舎に帰りますが」
 ピクリと片眉をあげ、苦笑するフィル。
「…待ってろ。仕上げる」
「急ぎです」
「…ああ」

 最近はこんな感じだ。俺が側仕えの日はなかなか仕事をしない。腰を痛めたバル爺と数日おきに交代業務で頑張ってるのに。

 フィルの態度は日々変化した。フィルはこの半年攻めに入った。「可愛い」と思ってる理由を説明し始めるんだ。これは口説かれてるって俺でもさすがにわかった。必ず軽いスキンシップにはじまり酷い時はお触りがセットだしな。

 執事業務に本気になり過ぎた。フィルの本心に気がつくのに三年以上掛かった。もうすぐ二十一歳。俺は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。

 フィルの「俺の執事」の「俺の」は、そのまま俺のものって意味だと全然気が付かなかった。あれ完全に罠だろ。泣いた日の事をバル爺から「二人の愛の告白の様でしたな」と聞いた日は衝撃で二日引きこもったし。

『約束は守るだろ。俺も守ったぞ?言質には言質だ。お前も守れよ?』

 確かに言った。俺はフィルの執事。お前の執事だと。それは「俺はおまえのものだ」といった様なもんだった。現状確かに嫁ではないし仕事もくれてる。悪い事は無いはずだった。
 なあ、これって束縛系じゃないのか。職で契約で縛るタチが悪いやつ。転生新コース開設じゃないか。

「レオ、これ頼む」
「やれば出来るじゃないですか」
「はは。もっと褒めてくれ」
「……さて。次は帝国からの依頼です」
「何だ。冷たいな」

 フンッと鼻息で返事をする。それでもニヤッと笑むフィルは席を立ち、机横に居た俺の腕をぐいと引き抱き寄せる。

「はぁ。まったく困った主ですね」
「嫌じゃないくせに。レオは素直じゃない」

 体格差はどうにもならない。細マッチョは無理だった。数年分美人に育っただけの俺はフィルの腕力には勝てない。背は何とか百五十後半だ。それにあれだ。嫌いじゃないのが困る。そう。嫌いじゃなくて困ってる。レオは俺の、俺のものって。そんなに俺が好きなのかと、多分また絆されてきてるってやつ。

「…嫌い、ではないですね」
「俺の執事だよな」
「そうですね」
「俺のものだよな」
「…さあ、どうでしょう」
「ははっ。これだ。それが可愛いって何度も言ったぞ。煽ってるのと一緒だ。少しだけなら休憩にいいだろ?」
「は?」

 フィルは抱き締めたまま、少し屈んで頭を俺の首筋に持っていく。これ位はいつもの軽いスキンシップだ。仕事をするヤル気の為の言い方が悪いけど餌だ。そうだよ。嫌じゃない俺も末期だってわかってるよ。煽る気なんてさらさら無いけど。

「それ以上は許しません、っ、いったッ!」

 首筋に鋭い刺痛が走った。
 ま、ま、まさか。まさかまさか!

「かっ、かんだっ?」
「…あ。つい」

フィルの口には初めて見た鋭い犬歯から血が滴り落ちていた。本当に、しまったという顔をして頭をガシガシかくフィル。

「あー…。なんかなったら責任とる」
「なんかって!?」
「…多分大丈夫?」
「多分!?」
「人噛んだの初めてだしな」
「どうなるか…わからないと?」
「…まあ。そうだな」

 予想外の事態に目眩がした。

「フィルの主従はやること多くて忙しい。まだ暫くは恩返しする予定なのに、何かあったらどうしてくれるんだ」
「ずっと一緒にいたらいいじゃないか」
「……何か違う」
「そうか?言葉使い戻ってるぞ」

 くすっとフィルは笑った。眷属化したら共に長生きして、もうそれって執事兼伴侶じゃないか。
 帰郷、転職、失踪、国外逃亡…脳裏に色々浮かぶ。

「あ、勿体無い」
「もー、いいからそろそろ仕事して、くださいっ」

滲み出る血をちゅっと吸い頬や首にキスをするフィル。うああぁ、くすぐったい。ゾクゾクすっから辞めろ。フィルの手を思いっきりつねった。

「ははっ。もう駄目なのか」
「…そこまでデス」

咬まれたもんはもう仕方ない。

色々大丈夫なのか俺。

仕事をするしないで一悶着する毎日。

執事にフィルに人生に。

俺の転生悪あがきはまだ始まったばかりだった。





眷属化どうのは何年もわからないらしい…。

どうなんの俺。 




 終



 
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