3 / 71
うまれながら犬畜生ですが
しおりを挟む
尾は急所までとはいわないが、痛いものは痛い。
俺は首だけ振り向いた。
「放せ。食べるとは何だ。お前は食べる肉も無さそうだが」
それを聞いてバッと手放し、自分のした事を見ておろおろとする男は答えた。
「失敗したら代償だと書に!」
「阿呆か。人の肉なんぞ臭くて食えるか」
「…へ?」
身体を男に向き直し改めて観察してみる。
薄汚れた服は見たことがある。確かあれだ。城に出入りする者が着る高級らしいマントと衣装。冒険者の魔法使いとは格が違う上位魔術師かな。
この世界の人間の美醜基準なんぞ知らんが悪く無い。汚れてはいるが変に脂ぎるとか体臭だか目が虚ろだとかが無いからな。RPGなら美形の一言。肉もつきすぎず痩せすぎもせず。中肉中背て言い方があったな。それだ。
はぁ、と再び息を吐き続ける。
「人の肉の焼けた臭いを知っているか。髪を焼くより少し鼻につく酸味がかる臭い。あれはたまらんぞ。肉の臭みも俺は羊だか熊だか、他の獣の方が草の香りで美味いと思うが…」
と語った所で多少詳細過ぎたようだ。
男は口を押さえうっぷと戻しそうになっていた。
昔ママンが咥えて持ってきた肉が人だと知らなくてな。俺、くわえただけだ。今獣だし。食べてないし未遂だ未遂。
「お前は書に死ねと書いてたら死ぬのか。天気が良いと書いてたら雨が降っても天気が良いと言うのか。真実は紙の上か。阿呆だな」
目の前で大きな獣に諭されて呆然とする男。
「た、食べないのですか」
「話聞いてたか?俺は帰るぞ」
俺、犬畜生だから思う。
いつの世も人は愚かだ。
どうせ城内の威光だか試験だか力比べでもしてるんだろう。
我関せずだと鼻をひくつかせ水の気を辿り、ああこっちだと向きを変え脚を進めた。
ぐいっと身体が揺れ尾から尻にかけピリッと痛みが走る。
今度はなんだ。向きはそのままに首だけを男が見える範囲に振り向いた。
「く、黒鉄魔狼、さま、俺に、力を貸してください!」
「断る。じゃあな」
「ま、待って!待ってください!」
とにかく尻尾を離して欲しい。苛ついて掴まれたままの尾を左右にパタパタすると男もついて左右に揺れた。
「あ、あわわ、お、お願いします」
少し強めに尾をバシバシ振ると男は手が滑ってペッと飛んで転んで地面に蹲った。
やれやれだ。さあ、帰るか。
隙間の緩い木間を疾走し川に出た。思ったより森の規模も川も小さかった。
取り敢えず喉を潤し考える。
耳は常に無意識に警戒して忙しなく動く。すんと鼻を鳴らす。この森には人と獣の臭いが沢山残る。という事は人里に近いか。なれば俺の巨体は目立って仕方ない。動くのは夜だけにするか小型化でもしないと駄目だ。
あの魔術師が陣を書くのに三日以上も掛かるなら、他の移送陣など書かせても同様に日が掛かるな。使えない人間だ。俺の脚を使って同日数で帰れるなら自分で帰る。
「久しく森から出てないし何があるかわからん。小型化するか」
頭の中で犬はどうだったか、とりあえず小さいというイメージを浮かべる。するすると魔力で身体が縮む。フサフサの毛足の長めの中型犬になった。
住処に帰るのに時間が掛かるのは仕方ないと諦め半分、久々人の暮らしなんぞ観ながらのんびりでいいかと脚を進めるのだった。
川沿いに森を抜けると、川幅を石で固定した人為的に整備されたものに変わる。河川工事技術がやっとできたかと感心した。暫くすると川沿いには道が延び、家が散在し始める。集落といえる村があり、進むに連れ増えていく。やがて町といえる規模になった。門があり奥の方には大きな城が見える。
門番となんか揉めてる人の間をするりと抜け入る。これは城下町か。
それにしても人の多さの凄いこと。様々な臭いが混ざり合い鼻が曲がりそうだ。
しかし知っていた人間の暮らしとは随分違う様だ。建物もこの何年かで造りも良く、頑丈かつ様式も増えた様だ。いやこれは中々興味深い。野犬が一匹、城下町を散策するくらい誰も気にしないだろう。
数百年振りに見る人の世に呑気に観光気分で歩く魔狼だった。
はたと思う。人は沢山いるが、犬や猫を見ない。昔は犬には子供が寄ってきては撫で回されたものだが。
「おい、あれだ。あの犬のことだろう」
「ああ報せが来た黒色だ」
「全く。駆除したのにどこから」
「野犬だろう。さっさと仕事しようぜ」
此方に走ってくる足音は聞こえていたが。
はて何のことだ?
首を傾げて立ち止まると、槍や剣を持った男四人に周りを囲まれた。ジワジワと間合いを詰め、上げた腕は槍を振り降ろした。魔狼は向かう槍先を横に数歩動いて避けた。
何だいきなり。
続いて来る槍をまた数歩横にずれてやり過ごす。
「何だこの犬、余裕だな」
「お前が下手なだけだろっ、ははは!」
「まあ見てなって」
おいおい物騒だな。
男達は 次々と槍を振り回しては、捕獲して入れたいのであろう麻袋を広げる。魔狼はひょいと数歩だけで避ける。当たらない事に焦れて終いには剣やナイフまで投げる。それも難無く数歩ずれるだけで避けるのだ。
「あははは!犬、やるな~」
「頑張れ犬~」
「ちょこまかと腹が立つな!おい真面目にやれ!」
「くっそ、何だこの犬!」
「騎士さん頑張って~」
気が付けば囲む男達の周りにを町民の野次馬が取り囲んでいた。
面倒臭い。
魔狼は溜息をついた。
俺は首だけ振り向いた。
「放せ。食べるとは何だ。お前は食べる肉も無さそうだが」
それを聞いてバッと手放し、自分のした事を見ておろおろとする男は答えた。
「失敗したら代償だと書に!」
「阿呆か。人の肉なんぞ臭くて食えるか」
「…へ?」
身体を男に向き直し改めて観察してみる。
薄汚れた服は見たことがある。確かあれだ。城に出入りする者が着る高級らしいマントと衣装。冒険者の魔法使いとは格が違う上位魔術師かな。
この世界の人間の美醜基準なんぞ知らんが悪く無い。汚れてはいるが変に脂ぎるとか体臭だか目が虚ろだとかが無いからな。RPGなら美形の一言。肉もつきすぎず痩せすぎもせず。中肉中背て言い方があったな。それだ。
はぁ、と再び息を吐き続ける。
「人の肉の焼けた臭いを知っているか。髪を焼くより少し鼻につく酸味がかる臭い。あれはたまらんぞ。肉の臭みも俺は羊だか熊だか、他の獣の方が草の香りで美味いと思うが…」
と語った所で多少詳細過ぎたようだ。
男は口を押さえうっぷと戻しそうになっていた。
昔ママンが咥えて持ってきた肉が人だと知らなくてな。俺、くわえただけだ。今獣だし。食べてないし未遂だ未遂。
「お前は書に死ねと書いてたら死ぬのか。天気が良いと書いてたら雨が降っても天気が良いと言うのか。真実は紙の上か。阿呆だな」
目の前で大きな獣に諭されて呆然とする男。
「た、食べないのですか」
「話聞いてたか?俺は帰るぞ」
俺、犬畜生だから思う。
いつの世も人は愚かだ。
どうせ城内の威光だか試験だか力比べでもしてるんだろう。
我関せずだと鼻をひくつかせ水の気を辿り、ああこっちだと向きを変え脚を進めた。
ぐいっと身体が揺れ尾から尻にかけピリッと痛みが走る。
今度はなんだ。向きはそのままに首だけを男が見える範囲に振り向いた。
「く、黒鉄魔狼、さま、俺に、力を貸してください!」
「断る。じゃあな」
「ま、待って!待ってください!」
とにかく尻尾を離して欲しい。苛ついて掴まれたままの尾を左右にパタパタすると男もついて左右に揺れた。
「あ、あわわ、お、お願いします」
少し強めに尾をバシバシ振ると男は手が滑ってペッと飛んで転んで地面に蹲った。
やれやれだ。さあ、帰るか。
隙間の緩い木間を疾走し川に出た。思ったより森の規模も川も小さかった。
取り敢えず喉を潤し考える。
耳は常に無意識に警戒して忙しなく動く。すんと鼻を鳴らす。この森には人と獣の臭いが沢山残る。という事は人里に近いか。なれば俺の巨体は目立って仕方ない。動くのは夜だけにするか小型化でもしないと駄目だ。
あの魔術師が陣を書くのに三日以上も掛かるなら、他の移送陣など書かせても同様に日が掛かるな。使えない人間だ。俺の脚を使って同日数で帰れるなら自分で帰る。
「久しく森から出てないし何があるかわからん。小型化するか」
頭の中で犬はどうだったか、とりあえず小さいというイメージを浮かべる。するすると魔力で身体が縮む。フサフサの毛足の長めの中型犬になった。
住処に帰るのに時間が掛かるのは仕方ないと諦め半分、久々人の暮らしなんぞ観ながらのんびりでいいかと脚を進めるのだった。
川沿いに森を抜けると、川幅を石で固定した人為的に整備されたものに変わる。河川工事技術がやっとできたかと感心した。暫くすると川沿いには道が延び、家が散在し始める。集落といえる村があり、進むに連れ増えていく。やがて町といえる規模になった。門があり奥の方には大きな城が見える。
門番となんか揉めてる人の間をするりと抜け入る。これは城下町か。
それにしても人の多さの凄いこと。様々な臭いが混ざり合い鼻が曲がりそうだ。
しかし知っていた人間の暮らしとは随分違う様だ。建物もこの何年かで造りも良く、頑丈かつ様式も増えた様だ。いやこれは中々興味深い。野犬が一匹、城下町を散策するくらい誰も気にしないだろう。
数百年振りに見る人の世に呑気に観光気分で歩く魔狼だった。
はたと思う。人は沢山いるが、犬や猫を見ない。昔は犬には子供が寄ってきては撫で回されたものだが。
「おい、あれだ。あの犬のことだろう」
「ああ報せが来た黒色だ」
「全く。駆除したのにどこから」
「野犬だろう。さっさと仕事しようぜ」
此方に走ってくる足音は聞こえていたが。
はて何のことだ?
首を傾げて立ち止まると、槍や剣を持った男四人に周りを囲まれた。ジワジワと間合いを詰め、上げた腕は槍を振り降ろした。魔狼は向かう槍先を横に数歩動いて避けた。
何だいきなり。
続いて来る槍をまた数歩横にずれてやり過ごす。
「何だこの犬、余裕だな」
「お前が下手なだけだろっ、ははは!」
「まあ見てなって」
おいおい物騒だな。
男達は 次々と槍を振り回しては、捕獲して入れたいのであろう麻袋を広げる。魔狼はひょいと数歩だけで避ける。当たらない事に焦れて終いには剣やナイフまで投げる。それも難無く数歩ずれるだけで避けるのだ。
「あははは!犬、やるな~」
「頑張れ犬~」
「ちょこまかと腹が立つな!おい真面目にやれ!」
「くっそ、何だこの犬!」
「騎士さん頑張って~」
気が付けば囲む男達の周りにを町民の野次馬が取り囲んでいた。
面倒臭い。
魔狼は溜息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる