俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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第二章 勇者召喚

ただいま改装中

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 違和感。かの八つ墓村と犬神家を混同してしまい、足が水面から出ているのはどっちだと覚束ないものでは無い。頭上にあるのはプーの顎と小さな手以外のものだと確信する。

 ライバとミミの指し示す方へ自らの手を勢いよくやると、ムニュと酷く弾力のある柔らかなプーの腕を掴む。いやこれじゃない。
 その手前に触れるのは耳らしきふさふさと毛が乗った三角のオプション。

「……耳だ」

 ぺしっ

 俺の言葉に同意はいらないが、プーよ。生えた現場を見たのか。目撃者なのか。俺の人化は完璧だ。なのに人の耳があるのに頭上にまた耳だと?俺が、ケモミミ!
 目をカッと見開きガクリと項垂れた。

「耳ですねー、何科なんですか?黒くてふさふさですね!」
「頭をよく掻いていたのはそういう事か」
「いや、違うから」

 確かにイライラしてムズムズしてたけど!

「またまた~。ちょっと種族は違うみたいですけど、お仲間さんで私嬉しいです!」
「人化出来る獣人なんて初めてだな」

 最早納得して満足気な二人には話が通じそうにも無い。その生温い目をやめろ。かといって自分が魔物で高魔力を有する魔獣だとも言えないのだ。臀部をさり気なく触るが尻尾はなかった事に内心安堵する。

「まあ、他の大陸の種族だからな。気にしないでくれるか」

 平静を装い誤魔化すに限る。そしてまた人化をイメージする。耳は無しだ。いっそこのまま魔狼に戻り、天を駆け一気に山越えしたいと湧き起こる気持ちを抑え込む。

「ほへー、戻りましたね、私はこのままでいいかなー。人は不便ですよ」

 フードの中に手を突っ込んだミミは自分のネコミミを触っているようだ。

「それも特殊能力か」
「そういう事にしておいてくれ」

 二人の反応で獣耳が消えた事がわかる。プーが名残惜しいのか耳が生えた場所をほじくり返してもいた。

「了解です!人だとか魔族とか関係ないですもんね」
「まあ余程拘るのは人間くらいだ」
「だから戦争か?それで魔族と聞いてもミミは態度が不変なのか」
「でも戦時中だからこそ既にこの国にいる事に驚きましたよ?エルフって弓の名手で温厚だって知ってたから安心したんです」
「色々いるが基本そうだな」

 ライバは鼻で笑った。

「精霊が澄んだ水場以外で過ごせるって知らなかったです。人間の国では山奥にしか居ないみたいですけど、変化自在だし不思議な生き物ですよね」
「まあよくわからんのはあるが、プーは友達だから一緒にいるんだ」

 ぺしっ

 顔の横で揺れるプーの腿で俺の頬が時折潰されるのは仕方がない。それを観てミミは小声で『かわいい』と呟きクスリと笑った。多分プーに言ったんだろう。俺がカワイイはずが無い。
 しかし変化自在?そうなのか?
 地図をたたみ折るライバは視線を右方向に投げた。

「次はこっちだ」
「谷はあっちですよ?」
「戦地になる谷は避けて山越えするんだ」
「山越え?!」

 事情を知らないミミに、次の防衛戦になるから避ける旨を説明すると心底嫌そうな顔をした。

 ぺんぺんっ

「なんだプー」
「精霊は山の方を指差してるぞ」
「早く行けと?」

 ぺしっ

「だそうだ」

 プーが俺の頭をはたいて返事をするのが可笑しいのか二人は苦笑していた。
 霧霞も更に薄れ、視界が開けてくる。夕暮れに仄かな食べ物のニオイが風に運ばれ鼻をくすぐった。街道は平野の田畑に囲まれていたのが傾斜のある路に変わる。遠くには灯し始めた明かりが瞬く。
 度合いは違えど帰宅難民組。足早に夕闇を進んだ。



「こーなると思ってたよ!」
「なんでですかー!」

 何がって俺、勇者疑惑の人。追手がいる。手配書だか新聞だか面も割れている。村は兵も騎兵もいる。情報収集だとか託けて足を踏み入れたのが間違いだった。そして今、闇夜を疾走していた。

 ああぁ、久々イライラしてきたぞ!

 事の起こりは数十分前。夕飯を食べたいという二人を仕方なく待つ俺は、建屋の細い裏道で壁にもたれて干し肉を食み、噂話でも聴ければ儲けだと呑気に地図を眺めていた。足元にはプーもぺたんと座り込み小石で遊ぶ気楽さだ。

 思ったよりペースがいい。連れはエルフと獣人だからかこのまま行けば港まで直ぐだ。

 次はもう山。地岩竜の恩恵による鉱石資源豊かな採掘場は中腹までは岩肌が剥き出し、高所は竜のいる神聖な森林とされ、祭壇がある位で人の立ち入りが少ないらしい。戦時中だろうが通常稼働している採掘場だが、その入り口が森林の境界付近にある。長年の採掘で山を周る様にそれは作られ、道も出来ているらしいが風化して足場が悪い。人にして十日以上もかかる山道を利用して他国に行く者はいないのだ。谷を抜けるのは丸一日あればいいのだから。
 そこを人外能力をもつ故、今回ルートとして選択したわけだ。

 今の面子なら何日で山越えできるのか、そんな事を考え始めた頃に聞こえてきたのは野太い数人の男の声だった。

「お、お前ら待ちやがれ!」
「待て、コラァッ!」
「ルー逃げるぞ」
「は?」
「いやっはー、困りましたあっ!」

 眼前の通りを走り去るのはフードを被ったライバとミミだ。何事かと一歩裏道から出てみれば、追跡する男たちが息も切れぎれ走る前に立ちはだかるというこれは必然か。

「な、なんだ、お前、」
「どけっ、食い逃げされて、たまるか」
「……食い逃げ」

 無意識に目を細めて逃走している二人の背を見る。既に結構な距離になっていた。

「いくらだ」
「ああっ?」
「払おうって?あ、アンタ知り合いかっ」
「追いかけようにも既にアレだ。邪魔した様だしな」
 もう村入り口まで行った二人の姿。追いつくのは無理だ。

「ぅおおっ、逃げられた!」
「だからいくらだ」
「二万四千フラ!迷惑料合わせて三万だ!」

 え?定食高くても三千。単純計算してもおかしくないか?と言えない事もなく口に出す。

「何食べたらそんな値に?」
「定食はひとつ四千だ。前線近くで人が増え過ぎて物価が倍なんだよ」
「まあいいか。三万だな」
「あ、あんたいい奴だ」

 村の奥に野営地があるから頷ける理由に、さっさと二人を追いかけるつもりで言い値を支払うが、ひとりの男の熱い視線に鳥肌が出た。

「……勇者様か?」
「おい、金も貰ったし帰るぞ」
「じゃ俺もこれで」

 まずいワードに直ぐ様ライバ達の遁走方向へ歩き始める。忘れかけていたプーは俺の片足にしがみついていた。遠ざかる男の声は、行き交う晩酌でほろ酔いの兵の耳にも入る。

「あ、あれは勇者様だ!」
「何言ってんだ、……いや、確かにソックリだな。共の兵がいない時は騎兵までって」
「勇者?」
「あの黒尽くめの男だ」
「勇者様だ!」
「共を付けずに前線に出るらしいぞ、引き留めろ!」

 ざわつき始める背後に俺は走り出した。何だその新情報。誰が前線に行くか。クソだ。顔バレがこんなに厄介とは!
 いかつい男達に追いかけられ気分だだ下がりだ。追いつかれる事なく村から出た所でライバ達と合流。宿場になる場所へとプーを肩に乗せ、闇夜を疾走する羽目になる。

「あはは、有名人ですね!」
「逃げるのルーだけで良くないか?」
「お前ら食い逃げだろ!何言ってんだ!」
「……ミミがよく食べてな。まさか物価高と思わず」
「えっまだお腹半分ですよおっ。私払うって言ったじゃないですか」
「まだ先は長いのに、薄味で少ない量に暴価だと思わなかったか」
「思いましたけど、後払いだから精算まで気付かなかったじゃないですか」
「キミが二食にすれば予算内だったぞ」
「えー、それじゃ満腹になりませんよー」
「うるさい。何にしろ結果こーなると思ってたよ!」
「なんでですかー!」
「ルーが偽勇者だからな」
「ほほーう」

 ・・・こいつら。
 段々イライラしてきたぞ。ない牙を剥き出したくなる引きつり笑いを浮かべた。

「あっ、また耳出てる!」
「何だと?!」

 また頭上に手をやると確かに獣耳。プーがにぎにぎすると微妙に痛い。俺の人化どうなってんだ。

「人化でストレスか?」
「我慢は良くないですよー」
「お前らが言うな!」










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