彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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いどう

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俺、キングスの家に帰ります。
グレタに魔物ってバレたらしいから今夜中に町出た方がいいんだって。

「おい、モル、何だってんだ!」

いやあぁぁ!離れたくないぃ!

俺の物が増えた部屋で荷造りをするキンングス達。お気に入りの水桶に獣の姿でへばりついていたら、キングスは剥がそうと引っ張り始めた。

「あー、これ気に入ってるかも。入ったら出て来ない日もあったからなあ」
「ああ?」
「引っ越しついでに届けるからさ。家で待ってな、モル」
「あ、離れた。お前ほんと言葉わかってるよな。わがまま覚えやがって」

もう何とでも言って。俺は開き直ったの。

キングスの手に掴まれたまま、意思表示が通り満足した俺は、また細目になってビローーンと舌平目の形に伸びた。

「おおぉ?こっの、クソ魔獣が」

あっ、これなに、あぁぁ…

おっさんは舌平目の俺をくるくるとロール巻きして床に転がした。コロコロと転がってはビローンとまた伸びた。

コ、コレ、楽しいぃ!

ずるずる移動して戻り、伸びたままでおっさんの手をペンペンした。

はやくはやく!巻いて!はやくっ!

自分で丸まろうとしたけどムリだった。獣スイッチはどこにあるのか未だわかりません。わくわくし始めたらもうダメなのです。

「なんだあ?巻けってか?嫌がらせだったのによぉ」
「はははっ。まあグレタには気をつけな」
「ああ。あと怪しい魔物売買な。逃げて町で被害被ったら、たまったもんじゃねえ。町の治安は騎士団だろ。頼むぞ」
「はいはい」

・・・売買?

・・・巻いてくれないの?




「赤い目を知るヤツは魔物だとわかる。人の近くはこれだ。わかるな?」

キングスは「眠る」「目をとじる」の顔絵をモルにみせた。
魔獣で鞄に潜ったら、魔物密輸だかで急に荷検閲が厳しくなったからダメと服を見せられた。人にまた擬態した。
スカートだらけの衣類を見てキングスは冷静にポンチョだけ荷に入れていた。

おっさん、そこは見直した。

そしてもう夜中。
アイリの家をでた。

アイリ。レネ。またね。

フード付きポンチョをかぶり、馬上で視界が揺れている。
この馬がまた骨格が太くてデカイ。俺が魔物とわかるのか乗る前に臭いを確認してフンッと鼻息をかけられた。頭だけで俺より大きいし。足にふさふさの長い毛があるから多分シャイヤー種。確か装甲騎兵が乗れたりする昔ながらの馬だよね。超絶かっこいい。おっさん馬持ってたんだね。

それで今はキングスの股の間にすっぽりです。振動の度イチモツに擦れ当たろうが、俺、感覚ないから全然気になりません。

「モル、叩いて悪かった」

え?

めっちゃ見上げたけど位置的にあご髭しか見えなかった。
聞き間違いじゃない。
キングスが謝った。
ははっ。

俺はまた胸が軽くなった気がした。


でもね。この身体全体が重たいような違和感が嫌なんだ。あっちから誰か見てるんだよ。獣の勘か魔獣の能力ってやつ?おっさん冒険者やってたから気付かないかなあ。

キングスの腕をぱんぱんして指差してみた。

「なんだモル。…あっちはな、冒険者組合だ。あー、モルには嫌だろうな。家畜って言ってな、人が動物や獣を飼いならして売るとこがあるんだわ。獣のニオイがわかったのか?」

俺、嗅覚ないよ?おっさん魔力感じない人?

暗闇の中、段々それは近づいて来るのがわかった。

モルはまたキングスの腕をぱんぱんした。

「ああ?今度はなんだ…犬か。ありゃあ野良だな。気にすんなモル」

モルが指差した馬の横を並走するのは黒い中型犬だった。
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