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37 相識
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「海水や体液より濃い物はお前の弱点だぞ。覚えたかモル」
(うん。それ気付く寸前にオチた)
「死にかけたんだ。辛かったし寂しかった。憎くもなった。こんな気持ちは今迄にない。魔物にも多少なり情はあるが、これは別だ。人化の影響もあるならこれは嬉しい変化だ。俺はお前が可愛い。お前がバカでも一緒にいるぞ」
(うん。そんなに思ってもらえて嬉しいよ。バカは余計だけど、俺、バカだもんね……)
「モルも俺が好きか?」
(うん、大好き)
魔狼はひとつひとつ、モルが理解してるか確認しながらモルの危機の出来事を話した。
魔物同士でモルが話せない事も含めて数十年共に過ごしてもお互いを総て理解し熟知するのは無理だ。ただ近くで生きる友達の関係だった。別個体だ。人でいう他人なのだから。
「通じてるか?意味わかってるか?」
(うん)
陽が暮れても隙間を埋めるように少しずつ理解し合った。
「お互い長命だ。時間はたっぷりあるぞ」
(うん)
「面倒でもどうしても聞きたいことは時間が掛かっても確実なあれを使え。俺もちゃんと考えるぞ。一生懸命書くのは知っているが正直モルの字は読めないのが多いからな」
魔狼はテーブルを指差した。そこにあるのは分厚い単語辞典だった。
(……俺の字やっぱり読めなかったんだ)
無意識に口が尖るが、魔狼がわかってくれる方法だと納得した。
早速テーブルの前に行き、ぱらぱらと辞書を捲り目当ての単語を探してみる。
(聞きたいこと伝えたいことは沢山あるよ。でもこれはちゃんと最初に言っておきたい。……あった。これと、これ見て魔狼!)
つんつんと個所を示しここ見てと催促する。
「早速か。何だ」
魔狼が目にした単語はふたつ。
『恋心・愛』
『両思い』
「……モル、おまえ意味わかってるのか?」
魔狼が嬉しそうに見たことがない柔和な表情を浮かべたのを見て、急に照れ臭くなった。
横に並び座る魔狼から、ぷいっと外方を向いて視線をそらす。
(こっち見んな)
「ふふん、俺もお前も変な魔獣だな」
魔狼は立って逃げようとする小さなモルの腰を捕まえて引き寄せた。
目の前には魔狼の少し困ったような、はにかんだような優しく微笑んだ顔がある。
(そんな顔狡い。堪らないよ)
モルはキングスにしてたように、ぶちゅうと音がしそうな勢いで顔を魔狼に近付けた。
それは頬にではあったが確かにキスだった。
ぎゅうぎゅうと抱きつき、肩口に乗せた頭をぐりぐりし始めた。
「モル、可愛いな」
(そう?魔狼はカッコいいよ。たまに意地悪だけど狼姿も好き。またモフモフしたいな)
魔狼はひょいっとモルを抱き上げて、ソファに向かう。足の間にモルを座るよう促すと、よじよじ移動して自ら魔狼を背凭れにしてすっぽりハマるように座る。
(あと聞きたいことは。えーと。帰ってきた時なんで狼だったのかな。魔力もいつも隠蔽術使って気配無いのに、二回感じたのは多分夢じゃなくて魔獣化して魔力放出したんだ。そんで部屋に転移して近過ぎて察知ってとこかな。辻褄が合う。俺が起きてからいなかったのは何してたんだろ。どう聞けばいいのかな。留守番?狼?不在って単語?)
ん~と顔を上げて背後の魔狼を仰いでみる。
「……待てモル。誰か来た」
すんっと鼻を鳴らしてにおいを確認する魔狼は、モルを小脇に抱えて立ち上がる。
すたすたと玄関ドアまで行った瞬間じわりと静かにドアが開いた。
「……鍵?開いて、」
「セロウ」
「うわーっ!?」
ぽっちゃりしたセロウは思いっきり口を開け仰け反った。モルは魔狼に荷物のように抱えられたまま、思わぬ大声に耳を塞ぐ。
「……うるさいぞ」
「べ、ベイカーさん??帰ってたんですか!明かりが見えて泥棒かと確認をですね。ああ違って良かった!それと、来たのは頼まれてた魔物の水交換の日なんですよ」
(魔物?なんのこと?)
「そうか。帰ったから必要無い。助かった」
「そうですか。無事帰れて良かったですね!あ、お子さんも預け先から?御父上と一緒でもう安心ですねえ」
(??)
「……見てたのか」
「あっ、騒がしくてその、見てましたね!」
「……セロウ、静かに」
魔狼は険しい顔をしてドアの外を睨む。
(んー?)
「はい?」
「検索、固定、転送」
唱えたところで外から聞こえたのは野太い叫び声だった。
「わ、わわわ!」
「な、なんだあぁぁっ!?」
「やっば!」
「あははは!楯、回避、解除」
魔狼は舌打ちをしてからモルを優しく縦抱きに抱え直す。
「一人残った。なかなかのもんだ、が」
「えっ?今の何ですか?!魔法??」
「ロウ導師ー!もてなしから逃げるなんて寂しいですよ?まだまだの、み、ま、しょー!俺を弟子にしないかなー、あはは!」
テンションが高い男の声がした。段々近づいて来るのがわかる。
(……もてなし?弟子??)
「一番危ないのが残った。一時避難するか。
セロウ、やっぱり取り消す。また暫く屋敷の管理を頼むぞ」
「は、はい?」
(んん??)
魔狼は困惑顔のモルを見てニヤッといつもの意地悪な笑みを浮かべ、ちゅっと音をたてモルの頬にキスをした。
「説明は後だ。門」
(うん。それ気付く寸前にオチた)
「死にかけたんだ。辛かったし寂しかった。憎くもなった。こんな気持ちは今迄にない。魔物にも多少なり情はあるが、これは別だ。人化の影響もあるならこれは嬉しい変化だ。俺はお前が可愛い。お前がバカでも一緒にいるぞ」
(うん。そんなに思ってもらえて嬉しいよ。バカは余計だけど、俺、バカだもんね……)
「モルも俺が好きか?」
(うん、大好き)
魔狼はひとつひとつ、モルが理解してるか確認しながらモルの危機の出来事を話した。
魔物同士でモルが話せない事も含めて数十年共に過ごしてもお互いを総て理解し熟知するのは無理だ。ただ近くで生きる友達の関係だった。別個体だ。人でいう他人なのだから。
「通じてるか?意味わかってるか?」
(うん)
陽が暮れても隙間を埋めるように少しずつ理解し合った。
「お互い長命だ。時間はたっぷりあるぞ」
(うん)
「面倒でもどうしても聞きたいことは時間が掛かっても確実なあれを使え。俺もちゃんと考えるぞ。一生懸命書くのは知っているが正直モルの字は読めないのが多いからな」
魔狼はテーブルを指差した。そこにあるのは分厚い単語辞典だった。
(……俺の字やっぱり読めなかったんだ)
無意識に口が尖るが、魔狼がわかってくれる方法だと納得した。
早速テーブルの前に行き、ぱらぱらと辞書を捲り目当ての単語を探してみる。
(聞きたいこと伝えたいことは沢山あるよ。でもこれはちゃんと最初に言っておきたい。……あった。これと、これ見て魔狼!)
つんつんと個所を示しここ見てと催促する。
「早速か。何だ」
魔狼が目にした単語はふたつ。
『恋心・愛』
『両思い』
「……モル、おまえ意味わかってるのか?」
魔狼が嬉しそうに見たことがない柔和な表情を浮かべたのを見て、急に照れ臭くなった。
横に並び座る魔狼から、ぷいっと外方を向いて視線をそらす。
(こっち見んな)
「ふふん、俺もお前も変な魔獣だな」
魔狼は立って逃げようとする小さなモルの腰を捕まえて引き寄せた。
目の前には魔狼の少し困ったような、はにかんだような優しく微笑んだ顔がある。
(そんな顔狡い。堪らないよ)
モルはキングスにしてたように、ぶちゅうと音がしそうな勢いで顔を魔狼に近付けた。
それは頬にではあったが確かにキスだった。
ぎゅうぎゅうと抱きつき、肩口に乗せた頭をぐりぐりし始めた。
「モル、可愛いな」
(そう?魔狼はカッコいいよ。たまに意地悪だけど狼姿も好き。またモフモフしたいな)
魔狼はひょいっとモルを抱き上げて、ソファに向かう。足の間にモルを座るよう促すと、よじよじ移動して自ら魔狼を背凭れにしてすっぽりハマるように座る。
(あと聞きたいことは。えーと。帰ってきた時なんで狼だったのかな。魔力もいつも隠蔽術使って気配無いのに、二回感じたのは多分夢じゃなくて魔獣化して魔力放出したんだ。そんで部屋に転移して近過ぎて察知ってとこかな。辻褄が合う。俺が起きてからいなかったのは何してたんだろ。どう聞けばいいのかな。留守番?狼?不在って単語?)
ん~と顔を上げて背後の魔狼を仰いでみる。
「……待てモル。誰か来た」
すんっと鼻を鳴らしてにおいを確認する魔狼は、モルを小脇に抱えて立ち上がる。
すたすたと玄関ドアまで行った瞬間じわりと静かにドアが開いた。
「……鍵?開いて、」
「セロウ」
「うわーっ!?」
ぽっちゃりしたセロウは思いっきり口を開け仰け反った。モルは魔狼に荷物のように抱えられたまま、思わぬ大声に耳を塞ぐ。
「……うるさいぞ」
「べ、ベイカーさん??帰ってたんですか!明かりが見えて泥棒かと確認をですね。ああ違って良かった!それと、来たのは頼まれてた魔物の水交換の日なんですよ」
(魔物?なんのこと?)
「そうか。帰ったから必要無い。助かった」
「そうですか。無事帰れて良かったですね!あ、お子さんも預け先から?御父上と一緒でもう安心ですねえ」
(??)
「……見てたのか」
「あっ、騒がしくてその、見てましたね!」
「……セロウ、静かに」
魔狼は険しい顔をしてドアの外を睨む。
(んー?)
「はい?」
「検索、固定、転送」
唱えたところで外から聞こえたのは野太い叫び声だった。
「わ、わわわ!」
「な、なんだあぁぁっ!?」
「やっば!」
「あははは!楯、回避、解除」
魔狼は舌打ちをしてからモルを優しく縦抱きに抱え直す。
「一人残った。なかなかのもんだ、が」
「えっ?今の何ですか?!魔法??」
「ロウ導師ー!もてなしから逃げるなんて寂しいですよ?まだまだの、み、ま、しょー!俺を弟子にしないかなー、あはは!」
テンションが高い男の声がした。段々近づいて来るのがわかる。
(……もてなし?弟子??)
「一番危ないのが残った。一時避難するか。
セロウ、やっぱり取り消す。また暫く屋敷の管理を頼むぞ」
「は、はい?」
(んん??)
魔狼は困惑顔のモルを見てニヤッといつもの意地悪な笑みを浮かべ、ちゅっと音をたてモルの頬にキスをした。
「説明は後だ。門」
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