欲しいもの

茅秋

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今日は高校二年生になって、初めての登校日。クラスを確認して教室の中に入ると、もうグループが出来上がっていた。この学年は比較的穏やかな人が多いから、すぐに皆仲良くなるんだろうなー。と、俺は自分の席について、他人事の様に思いながらぼーっとしている。

俺、縢芽は、去年、というか気付いた時から基本学校では一人で過ごす事が当たり前になっている。理由はあまり確かなものはないけれど、しいて言うなら、人と話すのが少し苦手だからだと思う。

だからといって、変わりたい!とか、友達いっぱい作りたい!とか言うのはまったく無いんだなあ、それが。だから、今年も風の吹くまま、気の向くままに過ごすだろうなぁ。

って思っていると。

「ねえ、君!名前なんて言うの?」

といいながら、爽やかーなイケメンくんが俺の近くに来た。

え、この人俺に話かけてんのか?いや、めっちゃ見てくるからそうだろうな…。

「えっと、柊 縢芽です」

「俺は瀬戸 那都。…へぇ、この難しい漢字でかなめって読むんだー。これから縢芽くんって呼んでもいい?」

イケメンくんは、ちらっと俺の名札を見ながら言った。

いやいや、よろしいに決まってるじゃないですか。むしろ名前で呼ばれるとは思って無かったから嬉しいし。

「うん。俺も那都くんって呼んでもいい?」

「もちろん!これからよろしくね、縢芽くん。」

「う、うん!こちらこそ!」

…うわぁぁぁ!何、そのふわぁってした笑顔!とても良い。写真撮って飾りたいくらいに本当に綺麗な笑顔。思わず返事の声が大きくなってしまった。なんか今年は良いことがありそうだ。うん。



「かな、新しいクラスはどうだった?」

こいつは幼馴染みの葵。下校中にたまたま会ったので、俺の部屋でのんびりしている。

「良いクラスだと思う。あと、すこぶるイケメンな人がいる。」

「へぇ、誰?」

「那都くん。話かけてくれたんだけど、那都くんの笑顔が綺麗。本当に。」

「あー、瀬戸ね。去年同じクラスだったわ。てか、かながクラスの人についてそんなに褒めるの初めてじゃね?」

「そう、か?」

まぁ、人を褒める以前にクラスの人について話したことないからなぁ。

「うん。そんなに那都が気に入ったんかー。」

「んー、笑ったとこが。」

「そっか、仲良くなれるといいな。」

「うん。…まあ、もう話すことはないだろうけど。」

そう言うと、葵は盛大にため息をついた。俺、なんか変なこと言ったっけ?

「いやいや、コミュニケーションしなよ…」

「さすがに機会があったら話すよ!」

もー、葵は俺をなんだと思ってるんだよ!失礼すぎ!

「いや、そーいうことじゃなくて…まぁ、そこがかなちゃんらしいけどね。」

少し不満そうだが、とりあえずいいらしい。

いくら、俺が家族と葵以外とまともに話さないからって、そこまで心配しなくてもいいのに。そういう世話焼きなところが葵のいいところだけどね。

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