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「お二人は今後どうする?」
「リディア様は心を通わせている方がいらっしゃるので、その方と婚約を結び直すことになりますわ。ね、リディア」
「ええ……ですがセラフィナ様は」
「だから気にしないでと言ってるでしょう」
二人の遣り取りを聞いていたイサリナが、思いもよらない提案をする。
「セラフィナ嬢、もしよければ私と共にデルへ来ないか? 子犬……ではなくて、婚約者が見つかるかもしれないぞ」
「私、デル国へ行きますわ」
セラフィナがすかさず応じた。迷いはない。
貴族の駆け引きには、もううんざりしていたのだ。
きょうだいはいるから、跡取り問題を気にする必要もない。
何より、傷心の娘の我が儘を家族が聞いてくれないはずがなかった。
「リディア嬢も、いつでも遊びに来るといい。賓客として歓迎する」
「ありがとうございます」
心から安堵した様子の可憐な令嬢たちを、イサリナと美青年たちは温かい眼差しで見つめていた。
***
翌日、イサリナ王女の急遽帰国が発表された。王女は必要単位をすでに全て修得済みであり、学園長から卒業証書が手渡された。
さらにもう二人、学園を離れる生徒がいた。一人は王女と同じく単位をすべて修得済みで、成績も申し分なく卒業が認められた。
しかしもう一人は留年が確定していたうえ、学園内の風紀乱したことが問題視され、ひっそりと退学処分が下された。
その生徒に関する情報は学籍番号のみで、名前も貴族位も空欄。備考欄には「他国への移住のため」とだけ記されていた。
誰が退学となったのか、関係者は一様に口を閉ざしている。
その年の卒業パーティーでは婚約破棄などと言う騒動も起こらず、和やかな雰囲気で若者達の門出が祝福された。
***
一方その頃、「婚約者候補」となったアルセインは分厚い参考書を前に呆然としていた。
突然、夫候補として宮殿に召し上げられた彼には、半年間の猶予が与えられた。王女の温情により、宮廷の学者たちが個別指導を行ってくれたが、アルセインは言語や法律はおろか基礎的な学問すら理解できなかった。
当然ながら、王太子は試験で基礎点も取れずに脱落。
あまりの出来の悪さに「王女の側に侍る価値なし」と判断され、真っ先に去勢された。
本来であれば宮殿での余生が約束されるはずだったが、王女を含めた多くの女性達への無礼な振る舞いを咎められ、宮殿からも追放された。
最終的には、偶然追放の場に居合わせた女公爵が引き取ることになる。
『顔が良ければ他は不問』という、なんとも心の広い女公爵の馬車へアルセインが乗り込む姿が目撃されたが、その後消息は不明である。
***
幸いにも、王子の愚行によって国家間の信頼が損なわれることはなかった。
尽力したのはセラフィナ元公爵令嬢である。彼女はデル国において新たに公爵位を授けられ、両国の架け橋として手腕を発揮し、やがて大臣にまで登りつめた。
その隣には美しい夫が常に寄り添い、彼女を献身的に支え続けた。
セラフィナ護衛騎士リセル・アグレア著、「備忘録・デル国見聞録」より抜粋。
「リディア様は心を通わせている方がいらっしゃるので、その方と婚約を結び直すことになりますわ。ね、リディア」
「ええ……ですがセラフィナ様は」
「だから気にしないでと言ってるでしょう」
二人の遣り取りを聞いていたイサリナが、思いもよらない提案をする。
「セラフィナ嬢、もしよければ私と共にデルへ来ないか? 子犬……ではなくて、婚約者が見つかるかもしれないぞ」
「私、デル国へ行きますわ」
セラフィナがすかさず応じた。迷いはない。
貴族の駆け引きには、もううんざりしていたのだ。
きょうだいはいるから、跡取り問題を気にする必要もない。
何より、傷心の娘の我が儘を家族が聞いてくれないはずがなかった。
「リディア嬢も、いつでも遊びに来るといい。賓客として歓迎する」
「ありがとうございます」
心から安堵した様子の可憐な令嬢たちを、イサリナと美青年たちは温かい眼差しで見つめていた。
***
翌日、イサリナ王女の急遽帰国が発表された。王女は必要単位をすでに全て修得済みであり、学園長から卒業証書が手渡された。
さらにもう二人、学園を離れる生徒がいた。一人は王女と同じく単位をすべて修得済みで、成績も申し分なく卒業が認められた。
しかしもう一人は留年が確定していたうえ、学園内の風紀乱したことが問題視され、ひっそりと退学処分が下された。
その生徒に関する情報は学籍番号のみで、名前も貴族位も空欄。備考欄には「他国への移住のため」とだけ記されていた。
誰が退学となったのか、関係者は一様に口を閉ざしている。
その年の卒業パーティーでは婚約破棄などと言う騒動も起こらず、和やかな雰囲気で若者達の門出が祝福された。
***
一方その頃、「婚約者候補」となったアルセインは分厚い参考書を前に呆然としていた。
突然、夫候補として宮殿に召し上げられた彼には、半年間の猶予が与えられた。王女の温情により、宮廷の学者たちが個別指導を行ってくれたが、アルセインは言語や法律はおろか基礎的な学問すら理解できなかった。
当然ながら、王太子は試験で基礎点も取れずに脱落。
あまりの出来の悪さに「王女の側に侍る価値なし」と判断され、真っ先に去勢された。
本来であれば宮殿での余生が約束されるはずだったが、王女を含めた多くの女性達への無礼な振る舞いを咎められ、宮殿からも追放された。
最終的には、偶然追放の場に居合わせた女公爵が引き取ることになる。
『顔が良ければ他は不問』という、なんとも心の広い女公爵の馬車へアルセインが乗り込む姿が目撃されたが、その後消息は不明である。
***
幸いにも、王子の愚行によって国家間の信頼が損なわれることはなかった。
尽力したのはセラフィナ元公爵令嬢である。彼女はデル国において新たに公爵位を授けられ、両国の架け橋として手腕を発揮し、やがて大臣にまで登りつめた。
その隣には美しい夫が常に寄り添い、彼女を献身的に支え続けた。
セラフィナ護衛騎士リセル・アグレア著、「備忘録・デル国見聞録」より抜粋。
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