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5話
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自分が暗殺の対象とされていることを知っているのに、月冥は血縁も無い赤子の命を心配して毎晩見回っているのだ。
「それなのに、赤ちゃんの心配をして……優しいのね」
「私は自分で身を守れるけれど、赤子は逃げることもできないだろう? 機会を見て母の元へ帰してやりたいのだが、女官達が見張っていて上手くいかないんだ」
この優しい人が皇帝になれば、他国への非道な侵攻などしないだろうと美蘭は思う。
「君はどうして、ここへ来たんだ?」
「翠国への侵攻をやめさせるために来たの――」
彼になら全てを話しても理解してもらえると、美蘭は信じる。突然、焔国の使者を名乗る男が来て、無茶な要求を突きつけてきたこと。従わなければ、国が滅ぼされるだろう事も打ち明けた。
「従ったとしても、翠国は滅茶苦茶になるわ。だから私は、それを阻止するために宮女として後宮に忍び込んだの」
「そんな事になっていたのか。すまない」
「謝らないで。貴方が悪い訳じゃないんだから」
全ては宰相が命じたことだと、今なら分かる。
「……月冥は、この国を憎んでる?」
「そうだな。暗殺された父も、思えば良い君主とは言いがたかった」
宰相も暴君だった先帝の行いを見て、感化されたのだと月冥が続ける。
「私の代で国を変えようと、仲間達と共に話し合っていたのだが。間に合わなかった」
苦しげな月冥に美蘭は思いの丈をぶつけた。
「だったらお願い。私と一緒に、この国を滅ぼしてほしいの。そして新しい国にして」
王宮の片隅で、美蘭は初対面の青年に懇願する。
「対価が必要なら、私の全てを貴方にあげるわ」
「落ち着け、美蘭」
抱きしめられ、美蘭は自分が泣いていることに気が付いた。
翠国を守りたい気持ちと、月冥の苦しい立場を考えると胸の中がぐちゃぐちゃになるような苦しさがこみ上げてくる。
「宰相を止める方法が、一つだけあるの。それだけじゃないわ、赤ちゃんもお母さんの元に帰すことができるし、貴方を皇帝にだってできる」
「どうやって?」
「翠国の民は、不思議な力を持って生まれてくるの。私の力は、他人を意のままに操る魔術。宰相を操って、貴方を皇帝にすると誓わせるわ」
一呼吸置いて、美蘭は続ける。
「ただそのためには、操る相手に口づけをしなくてはならないの」
強い暗示をかける為には、深い接触が必要になるのだ。
「好いてもいない男と口づけを交わすのか? その魔術が本当なら、口づけも長くなるだろう。それだけで済むと思っているのか?」
言われて、美蘭は一瞬怖じ気ずく。それは薄々、分かっていた事だ。
特に操る内容が複雑であればあるほど、触れている時間は長くなる。魔術をかけている間に対象の方から、更に深い接触を求められるかもしれないと、姉たちも言っていた。
震える体を月冥が強く抱きしめる。美蘭は無意識に、彼の胸に頬を寄せた。
「でも他に方法がないの……」
「私はこの国を変えようと仲間を募ってきた。貴族の子息の多くは、私に賛同している。兵も宰相のやり方に納得していない者も多い。正当な皇帝として私は宰相を追放できるよう計画をしている。それに君も加わってほしい、美蘭一人が犠牲になる必要なんてないんだよ」
優しい言葉に頷きたくなる。
けれど反乱を起こすにしても、すぐにとはいかないだろう。
迷う美蘭の肩を掴み、月冥が瞳を覗き込む。その青の瞳は、月明かりの中でも宝石のように輝いていた。
まるで明るい未来を見通しているようだと、美蘭はぼんやりと思う。
「それに君には、他の男と口づけなんてしてほしくない」
「えっ?」
至近距離で見つめてくる月冥に、美蘭は赤面する。
「それなのに、赤ちゃんの心配をして……優しいのね」
「私は自分で身を守れるけれど、赤子は逃げることもできないだろう? 機会を見て母の元へ帰してやりたいのだが、女官達が見張っていて上手くいかないんだ」
この優しい人が皇帝になれば、他国への非道な侵攻などしないだろうと美蘭は思う。
「君はどうして、ここへ来たんだ?」
「翠国への侵攻をやめさせるために来たの――」
彼になら全てを話しても理解してもらえると、美蘭は信じる。突然、焔国の使者を名乗る男が来て、無茶な要求を突きつけてきたこと。従わなければ、国が滅ぼされるだろう事も打ち明けた。
「従ったとしても、翠国は滅茶苦茶になるわ。だから私は、それを阻止するために宮女として後宮に忍び込んだの」
「そんな事になっていたのか。すまない」
「謝らないで。貴方が悪い訳じゃないんだから」
全ては宰相が命じたことだと、今なら分かる。
「……月冥は、この国を憎んでる?」
「そうだな。暗殺された父も、思えば良い君主とは言いがたかった」
宰相も暴君だった先帝の行いを見て、感化されたのだと月冥が続ける。
「私の代で国を変えようと、仲間達と共に話し合っていたのだが。間に合わなかった」
苦しげな月冥に美蘭は思いの丈をぶつけた。
「だったらお願い。私と一緒に、この国を滅ぼしてほしいの。そして新しい国にして」
王宮の片隅で、美蘭は初対面の青年に懇願する。
「対価が必要なら、私の全てを貴方にあげるわ」
「落ち着け、美蘭」
抱きしめられ、美蘭は自分が泣いていることに気が付いた。
翠国を守りたい気持ちと、月冥の苦しい立場を考えると胸の中がぐちゃぐちゃになるような苦しさがこみ上げてくる。
「宰相を止める方法が、一つだけあるの。それだけじゃないわ、赤ちゃんもお母さんの元に帰すことができるし、貴方を皇帝にだってできる」
「どうやって?」
「翠国の民は、不思議な力を持って生まれてくるの。私の力は、他人を意のままに操る魔術。宰相を操って、貴方を皇帝にすると誓わせるわ」
一呼吸置いて、美蘭は続ける。
「ただそのためには、操る相手に口づけをしなくてはならないの」
強い暗示をかける為には、深い接触が必要になるのだ。
「好いてもいない男と口づけを交わすのか? その魔術が本当なら、口づけも長くなるだろう。それだけで済むと思っているのか?」
言われて、美蘭は一瞬怖じ気ずく。それは薄々、分かっていた事だ。
特に操る内容が複雑であればあるほど、触れている時間は長くなる。魔術をかけている間に対象の方から、更に深い接触を求められるかもしれないと、姉たちも言っていた。
震える体を月冥が強く抱きしめる。美蘭は無意識に、彼の胸に頬を寄せた。
「でも他に方法がないの……」
「私はこの国を変えようと仲間を募ってきた。貴族の子息の多くは、私に賛同している。兵も宰相のやり方に納得していない者も多い。正当な皇帝として私は宰相を追放できるよう計画をしている。それに君も加わってほしい、美蘭一人が犠牲になる必要なんてないんだよ」
優しい言葉に頷きたくなる。
けれど反乱を起こすにしても、すぐにとはいかないだろう。
迷う美蘭の肩を掴み、月冥が瞳を覗き込む。その青の瞳は、月明かりの中でも宝石のように輝いていた。
まるで明るい未来を見通しているようだと、美蘭はぼんやりと思う。
「それに君には、他の男と口づけなんてしてほしくない」
「えっ?」
至近距離で見つめてくる月冥に、美蘭は赤面する。
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